表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/189

その35.たまにはシリアスで攻めるのも有りなんではないでしょうか

「?」

 僕の様子に気づいているのか、気づいていないのか。

 訝しげな目線を僕に向けてから再び料理にはしを付け始める。

 OK! 落ち着け僕! 目の前に居るのは女は女でも超絶無敵暴力女だ。

 落ち着いてきたのか顔の熱さも消えていく。

 ッフ……やはり僕ほどの男にも気の迷いが有るということですな。うん。


「ねぇ」


「はぃぃ!?」

 いきなり呼ばれるとびびるんですよ! 考え事してる時はソッとして!


「な、何?」

 縁を見ると、料理は既に半分以上が無かった。

 ……よっぽどお腹へっていたのだろうか。


「両親は? いつ帰ってくんの?」

 その言葉は、僕が両親が居る事前提の言葉なのだろう。

 まぁそれもそうか。

 時間は7時前だし、普通なら親は帰ってきてもいい頃だ。

 だが、僕の家に親が来ることは無い。

「うちは両親いないんだ、両方共死んだから」

 呆気らかんと言った僕の言葉に、縁の顔が真っ青に染まった。

 ……? 何だ?


「ご! ごめん!」


「?」

 僕には、青くなったのも、突然謝ったのも、先程とは違う慌て方をしだしたのも、

 何故か解らない。


「何で謝ったんだ?」

 不思議な面持ちで、縁にそう聞いた。

「……え?」

 すると、僕と同じ様に縁の顔が不思議そうな顔になった。

 その後、困惑したような声を漏らした。


「何?」

 突然どうしたんだ?


「え? あ! ううん……」

 そう言うと、僕から目線を逸らし、再び料理に手を付けた。

 最後に「なんでもない」と、か細い声で付け足した縁が僕には訳がわからなかった。


 ……? 何だ? 親が死んでたら色々とまずいのだろうか?

 そこでハッ! とした。

 無言で黙々と食べる縁を見て解った。

 縁が何故謝ったのかが解ったのだ。

 僕は何の声色も変えなかった。

 いつも通りの口調で『親は死んだ』と、言ったのだ。

 確かに、親の居る人間からすればそれは妙なことだ。

 何も感じずにそんなことが言えるのだから、変と思われるだろう。


 ……だが、結局人間は慣れるのだ。

 思い出せば、そりゃ辛く無い事も無い。

 だが、それすらも結局は慣れが。

 時間が解決してくれる。

 寂しいかもしれないが、人が死ぬというのは結局そんなものなのかもしれない。

 黙々と食べる縁が不便に思えた。

 謝った人間が暗くなって、謝られた人間が平然としているのだから。

「気にしなくていい」

 そう短く言うと、縁が顔を挙げた。

 それと同時に僕は続ける。

「一々さ、気にされてもめんどくさいから、

安心してよ、僕は別に嫌な気になったつもりは無いから」


 そう言った僕を一直線に縁が見据えた。

 そして短く、言った。

「――ほんとに?」



 ? 何がほんとに、何だ?

 僕の訝しげな顔に気づいたのか、縁は再び口を開いた。


「ほんとに嫌な気はしないの?」


 何だ、そんなことか。

「ああ」

 短く答える、それ以外に答えようが無い。




「うそ」

 同じ様に短い答えが返ってきた。

 それしか無い僕の答えを否定する声が。


 ……ッ


「嘘じゃないさ、もう慣れたんだよいい加減、

死んだのは大分前だし一回一回悲しんでたらきり無いでしょ」

 馬鹿にしたように、というより呆れたように僕は言った。

 そう、嘘じゃない。


「ちがう」

 再び短い声が返ってくる。


「何がちがうって言うのさ?」

 僕は至って穏やかだ。

 物解りの悪い頭みたいだけど、一々イラつくのもめんどくさくなってくる。


「へーじは『吹っ切れた』んじゃ無い、『逃げた』んだ」

 今度のは短く無い声が続いた。

 その瞳は鋭く。

 だが怒っているわけでもない瞳。

 その瞳はしっかりと見据える。


 ……君みたいに僕は純粋にはなれないんだよ。

 僕は君じゃないんだ。

    

「逃げる……ね、それでもいいさ」

 そう、それでもいい。

 結局はそれでも僕に嫌な気がしたつもりは無い。


「良くない!」

 突然の大声に、僕はひっくり返った。

 え? 何!? ビックリするじゃん!!

「うるさいよ!」

 


「逃げることを認めちゃ駄目よ!!」

 僕の声も無視して、縁は大声を張り上げる。


「何でさ? 逃げといたら嫌な物を見ることは無いじゃないか」

 とりあえず、縁の言葉を聞くことにした僕は、何を当たり前のことを? と、言った具合に肩を落として見せた。

 人間なんだ、見たくない物なんて腐る程ある。

 だったらそれを見ないことが一番楽じゃないか。

 ……そうなると、僕がみたくない物は『親』ってことかい?

 今更見ることも出来ないんだ……馬鹿馬鹿しい!


 縁の声がそこで落ちた。

「逃げたら、もう後戻りは出来ないんだから……」

 その意味深な言葉に僕は、縁と同じぐらいとは言わないが、

 力を込めて一言だけ言った。



「君も逃げたことが、あるんだろ?」


「!」

 飛び上がる様な勢いで縁の目が見開いた。

 そんなに驚かなくても……

 君のその一言に、それ以外思いつくこと何て無い。


「結局? 君は僕に偉そうなことを言って逃げたことがあるんだ? 

そんでそれを後悔してる、違うか?」

 僕の一言に、また縁は俯いた。

 何も言い返せないということは当たりなようだ。


 …………。つくづく……僕は最低だな。

 僕は純粋を今汚しただろう。

 そして心の中に封じた筈の汚れさえも、思い出させたのかもしれない。


 そして、僕は。

 イラつかないと言いながら、イラついたんだ。

 正論だったから。

「ごめん、悪かった。」

 ゴリラ女といえ、仮にも女の子だ。

 女の子に向かって追い詰めるようなことを言ったんだ。

 大人気ない。

 違うな、僕も所詮唯のガキだ。



「謝る必要なんて無いよ」

 縁は顔を挙げて、再び僕を見据えた。

 その瞳は決意に燃える様に、惨めさも悲しみも無い堂々とした物。

 僕に無い物。


 縁は一呼吸置いて見せると、小さく笑って見せた。

「あたし、あの雪の日にね」

 そこで再び一呼吸空ける。

「へーじに会う前に振られたんだ」

 は? 振られた? あれか? 手を振られたのか?

バイバイーみたいな?

「ちょ、意味が汲み取れないんですけど?」


 笑顔が消え、少しむっとした表情をした後、縁は付け足す。

「まんまだよ! 彼氏に振られたの!!」


「それ以前に彼氏居たの!?」


「どういうことよ!」

 率直な僕の意見に憤慨したご様子で、僕を睨みつける。


 マジか! こんな暴力女に彼氏!? その彼氏が凄いわ!!

「何? その彼氏Mだったの?」


「M? 何それ?」


 僕の率直な意見(パート2)は意味が解らなかったようだ。

 うん、知らなくていい。

 ……しっかし、まぁ。

「世の中捨てたもんじゃないなぁ」

 うんうん、と世の摂理に感心して居ると低い声が聞こえた。

「あんた……それ以上言ったら舌引っこ抜くぞ」


ここは頷いておこう! 喋らずに全力で頷いておこう!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ