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その33.男の子の手料理は初めてです。作ったのも初めてなような…

 台所に立つと僕は手際良く台所を探る。

 正直言って僕は料理は得意な方だ。

 いつも遅くに帰ってくる姉が料理等作るわけも無く。

 仕方無く僕が作ることになっている。

 たまに隣のおばちゃんが余り物の料理を持ってきてくれるので、そこまで料理にこだわったりもしないのだが。

 しかしあの子の料理は酷かった! 料理に慣れると他の料理の変な部分が解ってしまうけど。

「あれは例外だなぁ」

 そう、僕は零した後、あることに気づく。

「というか他人の料理自体久々に見たな」

 独り言であって誰かに言っているわけでは無い。


 ……。


 手作り何ていついらいだっけな。

 集中しなくても勝手に動く手は慣れ過ぎて違和感が無い。



 ちゃぶ台の前に座って居る筈の縁の方に目線をやった。

 台所からじゃ良くは見えない。







 ……今更だけど何であたしはここにいるんだろうか?

 台所からぶつくさとへーじが何か呟いている様だが、ジュージューという料理の音で良くは聞こえない。

 まぁ、どうせまた文句でも言っているのだろう。

 会ってまもないけど、あたしから見たへーじは暗くて陰険根暗で卑屈。


 だと思ってた。


 だが、学校の食堂といい。

 さっきのことといい、もしかしたらそうでは無いのかも知れない。

 兄貴と一緒だった所を見ると、一つ上の様だが。

 どう見ても同い年か年下に見えてしまう。

 あの童顔のせいもあるかもしれないが、アタシのイメージじゃ、年上があんな軟弱でいいのだろうか?


 男なら最、堂々としているものでは無いのだろうか。

 もしくは凄く優しいヒーローみたい人とか……

 

 ……。

 それがあたしの理想だという事は解っているが、それにしてもあたしが思っている以上に彼は変な人間だ。


 好きになれないタイプと思っていた。

 だが、病院でも食堂でも今でも、話していてそこまで苦に思わない自分が居る。

 確かに、ゴリラとか暴力女とか、普通女の子に向かって言うには有り得ない言葉ばかりだ。

 口だけでぶつくさと文句を言っている様子は腹が立つ。

 のだが。


 不思議だ。



 改めて辺りを見渡すと、あまりにも殺風景だった。

 狭いのだから仕方無いとは云え、服を入れるタンスと小さなテレビ以外に家具らしき物は無かった。

 台所には電子レンジも炊飯器も冷蔵庫も在ったので、そこは普通だとしても居間に物が少なすぎる気がした。

 アパートが悪いわけではないけど、お姉さんと両親と4人家族だとしたらえらく狭いなぁ。

 率直な意見だとは自分でも思うけど、誰でもそう考えると思う。

 見渡していると、目の前のちゃぶ台の上にある自らが作り出した料理が在った。

 それをジッと見た後、自然に首を傾げていた。


 そんなに悪いだろうか?

 あの時のへーじを思い出すと、まるで毒でも食わせるのか! 等という感じの勢いだった。

 確かに見た目は炭かもしれないけど……

 自分なりに色々と頑張ったのだからきっと上手いと思うのだが。

 どんなに下手でも心がこもって入ればきっと美味しいはず!

 はずなんだけどなぁ……

 きっと食べてないからあんなことが言えるのだろう! 良し! 来たら食べてもらおう!


 アタシ? アタシが食べたって意味無いよね。

 これはへーじの為に作ったわけで自分の為に作ったわけでもないのだから不味いに決まっている。



 心に込める相手が居るから料理は美味しくなるって、アタシは思う。


 それがどんなにむかつく野郎に向けてでも。




「……」

 いつの間に立っていたのか、あたしの後ろにへーじが居た。



「コレ」

 ぶっきらぼうな言い方で目の前に置かれたのは、正に和食と言った様な料理だった。

 黒いおぼんに乗せてあるのは、フワフワと白い湯気がたつお米。

 それとはまた別に控えめな 湯気を出すのは隣のお味噌汁……

 熱過ぎず直ぐに食べれると思える暖かさ。そしてメインディッシュと言わんばかりに特大の魚。

 少し茶色い焦げ目を残したソレは鼻に付く良い香りを残していた。

 その香りに自然と涎が口に溜まる。


「うわぁ……」

 予想以上に目の前に置かれた物が凄かった。

 感嘆の声と言っていいのか解らないが、自然と声が漏れたのだからそうなのかもしれない。


 しかし、その出来の良い料理の隣にはあたしの料理が置いてある。

 確かにこうやって見ると、うん……焦げ過ぎなのかも……


「まぁ、これが料理、解る? 食べれるのと食べれないのとの差が」

 アタシと向き合えるように目の前に座るとあからさまな笑みを見せた。

 悔しいけど、確かに見た目では惨敗かもしれない……けど!


「確かに見た目は変でも中身はどうか解んないでしょ!」


 あたしの言葉にわざとらしく肩を落として見せた。

 ……むかつく。

 本当なら今にその顔面をぶん殴りたいんだけど!

「中身と見た目は比例するんだけど? そんなのもわかんないの?」


 むかつくぅぅ!!!でも今暴れたら折角の目の前のご飯が!

 プルプルと震える拳を見てか見ずか、へーじは明らかに嫌な笑みを浮かべた。


「何? 殴んないの? あーっ暴れたご飯、こぼれるもんねー! ま、あげないけどね」

 とことんむかつく……本当、後でブン殴る! っていうか結局食えないなら殴ろう! 良し今殴ろう! 

 決意を決めているあたし等知らず、はしを取り出した。

 それ食う前にぶん殴る!


 と、そのつもりで立ち上がろうとした時。


 はしを、あたしの方に向けた。

 ……え?

「何のつもり?」


「嘘だよ、食えば?」



 ……まただ。むかつく、けど、嫌いにはなれない。


はしの持ち方わかんの?」


 やっぱりむかつく!!!。

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