その31.女の子の手料理は初めてです。というかはよ帰れ
再び台所に向かおうとする縁。
「ちょ! ちょちょちょちょっと!」
慌てて呼び止めると、めんどくさそうに縁が振り向いた。
「何さ」
「君料理出来んの!?」
「任せろ!」
思いっきりグッ! と親指を立てられても、出来るとは言わないのね!?
「悪いけど暴力女の作った料理が上手いわけないから」
「誰が暴力女だ!!」
パコーン! と、けいきの良い音と共に飛んできたのはお玉。
痛みに悶える僕を無視して、縁が歯を見せて笑った。
「安心して! 何事も大事なのは勇気と度胸!」
「そんなんで料理が出来るかァァ! 大事なのは技術と知識だろ!」
「うるっさいなー! 台所に女の子が立つって言ってんじゃん! 男としては本望でしょ?」
「ッハ! 台所にゴリラが立って喜ぶ男はいないよ!」
ビュッ! と風の斬る音と共に飛んできたのは包丁。
「ッ!?」
僕の頬を薄っすらと斬ったその包丁はそのまま後ろの壁に突きささった。
落ちずに突き刺さったままの包丁に、どれ程の力が加わっていたのか……
というか、後ちょっとズレてたら僕の顔面に突き刺さってたんですけど!?
斬れた頬から流れる血を拭わずに顔が引き攣った。
「ッチ」
舌打ち!? もしかしてマジで当てる気でしたか!?
「黙って座ってな……」
オーラが! あのオーラが見える!
「はい!」
これはもう、座っているしかない。
もう駄目……本当早く帰って下さい……
小刻みな包丁の音が耳に入った。
あれ?
もしかして上手いの?
そんな馬鹿な。
色々言ったが、やっぱ女の子が台所に立っているというのは初めての経験で。
何か、ムズムズする。
まぁ悪くは無い……と思う。