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その29.幸福に予想以上に酔うと、後から来る不幸に耐えられなくなる。

 顔が青ざめていくのが自分でも解る。

 そんなバカな。

 あの姉貴が?

 超絶無敵の、縁以外に最強の女、と言えば間違いなく我が姉を指す。


 ありえない。


 逆に病原菌や傷が逃げるだろ、嫌マジで。

 慌ててドアノブを開けて中に入る。

 靴も脱がずに、狭い部屋に入った。

 短い廊下の間間あいだあいだに有るトイレと風呂その廊下を突っ切ると居間と台所が存 在する。

 少ない部屋の数は貧乏アパートなので仕方無いのだが、2人住むには十分。

 その少ない量ならば部屋に入った瞬間に誰も居ない事は直ぐ解った。


 直ぐに向かったのは、最も広い5畳程度の居間。


 その真ん中に有るのは小さなちゃぶ台。そしてその上に姉が連絡時に良く置く紙があった。

 それに気づくと、その紙を慌てて手に取った。



『ちょっと病院行ってくる 心配しなくていい』


 ……お姉さま救急車の場合自分からじゃなくて連れて行かれてるんですが。

 右後ろから覗き込んでいる縁が居た。

 何勝手に入ってきてんの!?


 そんな僕の考えを無視して左後ろからおばちゃんが覗き込んでいた。

 何やってんですか!? あなたはマトモな部類の方でしょう!?


「あらあらあら〜」

 おばちゃんの、のんびりとした言い方はたいして焦っている様子は無い。

 もしかして大した事じゃないのだろうか。

 だといいけど、まぁ心配しても姉貴は死なないだろうけども。


「おねーさん大丈夫なの?」


「そ、それは」

 縁の言葉に僕が答えられる分けも無く、代わりにおばちゃんが答えてくれた。

「今は大丈夫みたいよー、そっちの方にも連絡は来てると思うけど軽い貧血で倒れたらしいのよー」

 おばちゃぁぁぁぁん! ナイス! ナイス! 過ぎるよ! 他意は無いかもしれませんけど 僕は抱き締めたい気分ですよ! 年増に興味は無いですが。

 しかし、病院の場所が紙に書かれている訳も無く、まだ完全に安心できたわけではないのだが。

「様子見る為に少し入院するらしいけどねー、あ!服は私が持って行くからいいわよー、隣のよしみだしねえ」

 おばっちゃぁぁぁぁん! (歓喜の心の叫び)

 これが大人のフォローって奴かぁ!


 やばい! 何!? 今日不幸尽くしだと思ってたのに! ここで行き成りハッピーですか!? ハッピーターンですか!?

 小躍りしそうな体を必死に堪えるが、顔は完全に緩みきっているだろう。

 むしろ善処でしょ。


 この時の僕は浮かれまくっていた,良い事というのは立て続けにはおきない事、そして悪い事はドミノの様に立て続けに起きるという事を忘れていた。


「それじゃぁ、おばちゃん行くね」


 どうぞどうぞ、今度プリン持って行きますよ。

「ありがとうございます!」

 感謝の意をハッキリと見せながら明るくお礼おを言う。

 ドアを開けて立ち去ろうとした瞬間、おばちゃんが振り返った。


「それじゃあ、お邪魔虫は退散するわぁ〜」

 ニンマリとした嫌らしい笑みをおばちゃんが浮かべていた。


 は?



 今の僕の顔はどんなのだろう。

 そして言葉の意味が理解出来ない。


「晩御飯は持って行こうと思っていたけど、いらないわよねぇ〜」


「え? ちょ、え?」


 戸惑う僕を見て更に笑みを深める。


「そこの可愛い彼女にご飯作ってもらいなさいな」

 は? 彼女? 誰が!?

 もしかしてコレ!? 僕の隣に居るコレェ!?

「あ! 安心して!おねーさんには言わないでおくから!」

 そんなフォローは要りませんけども!?


「待っ!」

 言い切る前に、目の前のドアは閉じられた。

 バタンッという音が木霊するのが死刑予告かの様に聞こえたのは言うまでも無い。


 ッギギギ……という具合に首は直ぐ横を向いた。


 そこに首を傾げて考え込んでいる縁が居た。

 彼女という言葉を理解出来ていないのか、それとも、状況が掴めていないのか解らないが。

 『彼女』

 あまりにも僕に不釣合いな言葉。


 とりあえず待て。


「あの……さ」

 無意識にぶっきらぼうな言い方をしてしまうのは何故だろう、いやいや誰でもこうなりますから。


「何?」

 不思議そうに僕を見る猫目の二つの瞳が向けられている。

「……」

 彼女の様子からして、解っていない。これは喜ばしい事である。だがそうなると意識している僕は何ですか!? 恥かしいんですけど!


「ねぇ」

 何も言わない僕に痺れを切らしたのか、今度は縁の方が声を掛けた。


「彼女って?」


 答えられるわけ無いでしょ。

 だんまりを決め込む僕に更に考え込む縁。

 直ぐに顔を上げると、周りを2度3度見渡した。

 何してんの? というか何か探してんの?

 まぁいいや、それよりも自覚してない今ならとりあえずこの子を追い出す事は出来そうだ。

 晩飯は後で考えよう、そしておばちゃんの誤解を解かなくては。

 等と摸索していると、ふと縁の目が大きく見開かれた。


 ビクッ! と突然の事に僕の方が驚いてしまった。

 てか何!?


「あのさ」

 先程よりも声が小さくなっている。

 見開いた瞳は右往左往と突然挙動不審になった。

 何事!?

 男を簡単になぎ倒す両手を胸の前で何度も指を絡ませたりと忙しい。

 だから何?


「もしかしてー」


 先程までハキハキと喋っていた縁は何処へやら、何ですか?今更キャラ替えとか不可能ですよ?

 僕の中じゃ、君の評価は暴力女ですからね。

 絶対この評価変わんないから。


 黙り込む縁に何故からイライラとした。

 僕はこんな事より、晩飯をどうするか考えなきゃ駄目なんですけど。



「彼女って、あたし?」


 ……あれ?解っちゃった?

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