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その2.女の子に殺すぞと言われました。夕日が見たい気分です


雪の降る夜空の中、女の子は僕を見下ろしていた。

暗い夜空の下なのに、少女の顔はハッキリと見えた。


街灯のお陰なのか、ただ少女が輝いて見えただけなのかは解らないけれど。

輝いて見えてもおかしくない程の、可憐な少女だった。 


可憐な少女は少し腰を曲げて見せた。

先ほどよりも顔が近づいて来て不覚にも鼓動が高まった。

女の子と縁がない分、余計にどぎまぎしてしまうのはシャイボーイなんだから仕方がない。




そして。




僕の胸倉を掴むとそのまま持ち上げた。

 え?マジですか。

 女の子の細腕とは思えない程の力で僕の体が簡単に浮いた。


可憐の欠片も無い力が胸ぐらに込められていた。

 倒れている高校2年生を片手で持ち上げた。

 常識的に考えてありえない状況に一瞬困惑した。

 直ぐ目の前に釣り上った瞳があった。

 ここまで女の子の顔に近付いたのは初めての体験であり。

 こんな状況で何だが正直、ドキドキしている。

 惹きつけられるような大きな瞳。

僕の中で驚きと恐怖と……妙な気持ちが入り交じっていた。


目の前の少女の顔が目前から突然消えた。

 そう思った瞬間、腰を曲げて大きく仰け反っている事に気付いた。

  ……?

口を窄めて思いっきり息を吸って……?




「うるっさいんじゃぁぁぁぁぁ! ぼけぇぇぇ!」


 ビリビリと痺れる感覚、キーンッ! と、耳の中で耳鳴りが激しく劈く。

「!?、!?」


 騒いでいた夜の街がシン……と静まり返る程の大声。



「殺すぞ! オラァ!!」


 女性に殺すぞと言われたのは初めてです。

 つ、唾掛ってんですけど……。

 ていうか助けてください。


この女の子怖いです!!

 そんな僕の思いが通じたのか、後ろから男の声がした。

「なぁ、あんた」

 世の中も捨てたもんじゃないな。 僕はむりやり首を曲げて横目で声の主を見た。




 ……前言撤回。


 そこに居たのは、先ほどのガラの悪そうなスポーツ体系の学生達だった。

 学生たちは、にやにやと気持ち悪い笑みを浮かべていた。

 どいつもこいつも顔が薄ら赤い、酒飲んでんなこいつら。


 何となくこいつらの来た意味が解った。

 もちろん僕を助けるために動いたわけじゃない。


「ねぇ君、そんなのほっといて俺達と遊ばない?」

 学生の一人が声を掛けた。

 僕に、では無く今僕の襟首を掴み持ち上げているこの女の子に、だ。

 ナンパの気持ちもわかる。

 見た目、この女の子は美少女だとは思う。

 しかし、状況を考えてくれ。

 片手で高校二年生を持ち上げる女をナンパするってどーよ!?

しかもお怒りなんですよこの女!!

ほら見ろ、掴んでいる手に更なる力が込められて行く。

 そして、同時に僕の首が締まる。

「ぐ……ぇ……」

 情け無い声が出る。

 そんな僕を無視して、釣り上った猫のような瞳のみが学生達の方を向いた。


「……あ?」


 女性とは思えないゾッとする声が目の前でした。


 学生の男達も、その迫力に押されて一歩後ろに引いていた。

 女の座った目に、酔っぱらっていても学生達の表情をひきつらせた。

ぶっちゃけ一番びびってるのは胸ぐら捕まれてる僕ですけどね、ええ怖いです。



「どいつもこいつも……男って奴は……」

 ボソッと、少女は目の前に居る僕にしか聞こえないぐらいの声で零した。


その言葉の意味を、女の子の事を知るよしもない僕には理解なんて出来るわけも無い。

だけど、苛立ったような言い方は、少し寂しそうに聞こえたのは気のせいだろうか。



 女の子の手が僕から離れると、僕は冷たいコンクリートに尻餅をついた。 


そして、僕は彼女の力を目の当たりにする事になった。




 それは一瞬の出来事。

 学生達の一人が女の子の肩に手を置いた。

「ねぇ何処に飲みに」

 学生の声はそこで途切れる。

 代わりにパチンッという軽い音がした。

 女の子が肩を持った男の顔を掌で叩いたのだ。

 学生が呆然と、自分の叩かれた頬を抑えていた。

 これはやばいな、と思った瞬間、それは当たった。

 みるみる内に顔が怒りへと変わっていく。


「てめぇ!! なにしやがん」

 そこで再び学生の声は途切れた。

 女の子のグーパンチが学生の顔面に炸裂。

 今度はパチン、では無くドギャァ! という激しい音に変わっていた。

 成程、さっきのは宣戦布告か。

 うわぁ……と、遠くで思っている僕など気にすることも無く女の子は叫んだ。

「全員指導してやるよぉ! かかってこいやぁぁぁ!」

 こんな口の悪い女の子は初めてです。


 ポカンと口を開けていた学生達は、ッハ、と我に返ると。

 流れに任せるように女の子に殴りかかっていった。

 ん? 何かおかしくないか?

 何となくこの女の子に空気が流されている気がするのは僕だけだろうか。


 「おらおらおらおらぁぁぁ!」

 雄叫びを上げながらばったばったと学生達を女の子がなぎ倒していく。


最初に言ったが、学生達はがたいの良いスポーツ体系だ。




 ぶっちゃけた話、現実味が無いがこの女の子がクソ強いという事になる。

「ぐへぇ!?」

 どうでもいい事を考えている僕の所に学生の一人が飛んできた。

 だらりと横たわる学生の顔は白目を向いて舌をだらしなく出している。

 歯が数本無い……あの女の子のパンチは相当な物なようだ。

 そこで僕自身も我にかえった。

 なにやってんだ僕は! 取りあえずここから逃げなきゃ。

 何でこんな大晦日の夜からこんな事に巻き込まれなきゃならないんだ!

 慌てて立ち上がろうとした瞬間、運悪く喉から込み上げる物。

「ゲッホゲッホ!」


 後ろで何かが動く気配がした。

「……あんた」

 ゆっくりと振り向くと、女の子とバッチリ目が合った。

 目に映るのは、自分よりもふたまわりも大きな男の襟首を掴んでいる女の子。

 大男は完全に伸びた状態で頭がグワングワンと揺れていた。

 女の子が手を離すと、最後の一人だった大男は地面へと倒れた。

 ふらふらと足取り悪く、揺れながら僕の方へ向ってきやがる。


 僕の目の前で止まると再び僕を見据えた。

 直ぐに逃げ出したいが正直、足が震えて動けない。

 僕の目前にいる女の子の手は真っ赤に染まり、服の所々に返り血を帯びていた。

 よくよく見ると綺麗な膝までのピンク色のスカートに、雪の様に白いセーター。合わせたよう な白い可愛らしいマフラー。

 しかし、今は返り血を浴びて、強調された白に恐ろしく赤い返り血が派手に見えた。

 そんな人間が目の前にいて怖がらない人間は居ないだろう。

 そりゃそうだ、超コエーッス


 女の子は言葉を発す事無く僕を見据えていた。




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