その28.嘘は上手に付きましょう。
僕と縁が立っている前にあるのは古びたアパート。
古擬アパート、とデカデカと張り出された看板はずれて今にも落ちそうだ。
「……ここ?」
意外そうな声が隣から聞こえる。
答えずに首を前に倒す。
そう、我が家である。
というか、どうしよう。
結局嘘と言い出せずここまで来てしまったのですが。
てか、今言ってもいいんじゃまいか? 殴られるのが後になるか先になるかなだけなんだしさ。
女の子と手を繋いだんだ……もう思い残すことはない(拙劣)。
「あの……」
「良し! 行こう!」
そう言ってズンズンと歩き出す縁。
お願いだから自分のペースでいかないでください。
肩を落として、縁の後を追う。
流石に僕が先に階段を上がる。
三階までしかないボロアパートはギシギシと音を立てて危なっかしい。
「ここ、踏み抜ける事あるから気を付けて」
「そ、そうなんだ」
何気なく言った言葉に、縁の怖々とした声に笑いそうになってしまった。
何と、この暴力女にも恐怖心があったとは!
ドアの前に立つと、壊れた表札を確認する。
壊れた標識が目印の僕と姉の住む場所の確認、必要無いけど。
鍵を入れて、手ごたえの確認、勿論必要無いけど。
ドアノブに手を掛ける。
覚悟を決めるしか無いか。
え? 殺される覚悟ですが?
前は姉貴、後ろは縁。
……マジでダブルパンチ。
覚悟を決めようとドアを開けようとした時、後ろから声がした。
「あっらー! へーじちゃんじゃないのー!」
君の声は何時からおばちゃんみたいな声になってんの? そしてちゃん付け? キモ過ぎる!
と、振りむいた先に居た縁も、振り向いていた。
縁の後ろ姿しかない。
どうやら声の主は別らしい、当たり前だが。
縁の更に後ろを覗き込んだ先に見知った顔が居た。
「あらあらあらあら、へーじちゃんもやるわね〜、こんな可愛い子と一緒に居るなんて〜」
何処にでもいそうな我が家のお隣さんのおばちゃんが居た。
「か、可愛い?」
明らかに縁は動揺している。
「あ、こんにちは」
困っている縁を無視して、軽く頭を下げる。
死期が近づくと逆に冷静になる僕はすごいな。
おばちゃんは、話を続けた。
「でもいいの〜?」
何がいいのか解らないが、
「お姉さん救急車に運ばれていったわよ〜?」
…………?
一瞬言葉が理解出来なかった。
そして理解した後小さく漏らす。
「え゛?」