その23.お願いです。これ以上事態をややこしくしないで下さい。
大きなため息が漏れた。
ぶっちゃけ、僕は何もしてないし周りで散らかった椅子や割れた皿は全て縁が暴れた為になったわけで少なくとも僕はこの状態に全く関係が無い(多分)筈なのだが。
ポンポン、と後ろから肩を叩かれた。
何ですか、人が落ち込んでいる時に。
「……」
振り向いた先に、2つの猫目な瞳があった。
……え゛。
縁が僕の直ぐ目の前に居た。
目の前も目の前でかなり間近で正直びっくら昆布ですが、それ以上にドギマギしてしまった。
暴力女といっても、やはり綺麗な子で有る事に変わりない。
「あんた……へーじ?」
あー! とか大声で言うと思いましたけども、結構冷静なのね。
「だったら何さ」
もういいです、寧ろ開き直ってやるわ!
縁は、再びマジマジと見た後、今度はサクの方を向いた。
「何だよ」
ぶっきらぼうなサクの声も無視して縁は探る様に見ていた。
そして再び、僕の方へ視線が写ると不思議そうに首を傾げた。
その動作に、不覚にもドキッとした。
可愛いと思う自分を殴り飛ばしたいんですけど。
そして、その後、縁は思いもしない発言をしやがった。
「兄貴と知り合いだったの?」
………は?
「兄貴?」
僕の間抜けに漏れた声と共に、ギギギッと機械の様にサクの方を見た。
バツが悪そうというか、しまった! というか、なんとも表現し難い顔を僕に向けていた。
兄貴? 直訳してお兄さん??
「ハァァ?」
再び僕の口から間抜けな声が漏れる。
ここに居る、という事と上靴の色(1年は赤2年は青3年は緑)からして確実に1年せい
である事は間違いない。
しかし、1年生が入ってもう1年近く経つ。
なのに僕はサクに妹が居た事も、その妹が同じ学校に居た事も知らなかった。
僕が混乱して居る所に、サクの大声が聞こえた。
「第一何で縁とへーじが知り合いなんだよ!」
「それが第一じゃないから!」
僕自身も意味が解らない突っ込みをしていた。
再び僕の目の前で不思議そうに縁は首を傾げた。
可愛いと思ってs(以下略)。
「何で僕が! この子の事を知らないのさ!?」
「この子!? ガキ扱いすんな!」
縁の大声も目の前で展開される。
そこは兄弟ですね。よく似てらっしゃる。
「ちょ! 黙ってて! ややこしくなるから!!」
サクがボソッと漏らしたのを、縁の大声の中、僕は何とか聞き取った。
「まぁ、俺が隠してたしなぁ……」
「隠してた?」
僕のクエスチョンな顔にサクは直ぐに言葉を付け足した。
「ほら気づいてると思うけどさ、廊下とかで会いそうになったら、わざと道を変えたりとか、目を合わせないようにとかしてたからさ」
成る程、廊下でたまに目が泳いだりしてたのはそれでか。
確かに意識しなきゃ生徒の一人一人何て覚えないわな。
自分の妙なクセの事は理解しているのか。
嫌、わざとやってたんならクセではないのか?
妙に無意識にやってた様に感じたけど……。
「嫌々、まず隠す必要が無いでしょ」
確かに、こんな暴力的な妹は嫌だけども。
サクは、縁に敵意の様な視線を向けた。
「こんな妹が居るなんて恥ずかしくて言えねーって」
驚いた。君に羞恥の感情が在ったとは!
瞬時にサクの言葉に縁が反応した。
悪口の反応が早いの所はやっぱ兄弟だね、似てるわ。
「あたしもこんな兄貴持って泣きたいよ!」
「確かに……」
縁の言葉に無意識にそんな言葉が出てしまった。
こんな常軌を逸した(とりあえずバカな)行動をする兄が居たら泣きたくもなる。
僕だったらサクが兄貴なら旅に出るね。二度と帰らない旅に。
「おい! へーじ! お前どっちの味方だよ!」
「そこでまだ少しでも自分の味方をしてくれると思っている所は流石だよサク」
僕の一言に、サクが不思議そうに首を傾げた。
君が傾げてもかわいくは無いけどな。
早口で聞き取れなかったのか、意味が解らないのか……多分後者だ。
縁が満足そうにどうだ! と胸を張って自慢げな笑みを向けていた。
妹の方は言葉の意味を理解できた様だ。
だが何か勘違いをしているご様子。
「嫌、だからと言って君の味方でも無いから」
こんな妹が居たら恥かしいというのも解る。
「え!? 違うの!?」
驚いた瞳がまん丸に見開かれていた。
どういう思考ですか。
ここに別のタイプのバカが居た。
バカが2人、僕に向け困惑の瞳を向けていた。
頭痛くなってきたんですけど……
足折れたのに家での扱いが変わらない...
もっと優しくしても罰は当たらないと思うんですけど・・・