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その21.ありえない光景を見ると気分が変になりますね、カメは走るなゆっくり歩け。

 目の前に居るのは、いつもはアホ面で能天気な筈のサク。

 怒りに血走った眼は、僕の発言により更に赤くなった。

 うわーお。

 何故、火に火炎瓶を入れる勢いな発言をしたのかは自分でもいまいち解っていない。

 しかし。

 ここまで来たら引き返せない!

 というか引き返すことが出来ない。

 ぶっちゃけ逃げたいです。


 周りの野次馬達の視線は僕に注がれている。

 そんな目で見るなァァ!

 皆さんの期待する様なアクションスター顔負けの行動なんてできませんよ?

 まぁ、こんな所に突っ込んだら誰でも期待するわな。

 嫌、しないか。


「どけよ」

 怒りは頂点に来ている筈なのに、サクはまだ余裕が有る様だ。


「嫌だね」 

 吐き捨てるように僕は言った。

 それを聞いたサクの顔は更に赤くなる。


「どけよ! 何にも知らねークセに!」

 サクの怒り狂った大声が食堂に響き渡る。

 そんなでかい声出さなくても聞こえてるよ!

 知らない? は?

 

 当り前だろうが!

「お前の事なんて知った事か! 何にも知らないクセに? あたりまえだろ!」

 サクは僕が大声で言い返してくると思っていなかったのか、一歩後ろに退いた。


「僕に何か言ったか? 僕が知るような光景を見たか? 聞いた覚えも見た覚えもない事を知るわけがないだろう!」

 だから君は馬鹿だって言うんだ……と最後に付け足したのは聞こえていた様だ。

 驚いた表情が再び怒りに変わった。

「んだとぉ!」


 僕自身も結構トサカ(頭)に来てんですよ!

「今の君に僕を殴る権利なんざあるわけないだろ! 本当の事言っただけで殴られちゃたまったもんじゃないね!」

 サクが踏み止まった。

 ……よし!

「〜!」

 サクは怨めしそうに僕を睨む。

 そんな目をされたのは、初めてだね。


「何怒ってんだ!? って言ってんだよ! 君はいつも通りバカみたいにヘラヘラ笑ってりゃいいんだよ! バカサク!」

 バカサクとは当然バカとサクをくっ付けただけ。


 僕の発言に周りがどよめく。

 何もそこまで、という声が聞こえる。

 野次馬は野次馬らしくしてて欲しいね。口にチャックよろしく。


 サクは睨むだけで、何も言わない。

「殴りたいか!? 悔しいか!? それこそ知った事か! 今『お前のやってる行為は! お前がやる行為じゃ無い』!」

 怒りから再び驚きに。

 忙しいやつだな。

 サクの顔から赤みが少し消えた気がした。

 頭に上った血がようやく降りて来たか。


「僕はそりゃ人を馬鹿にした様に見る事が多いかも知んないけどさ! 性格だって良い訳じゃない! むしろ悪いわ!」

 何を公然と言い放ってるんだ? 僕は。

「でも、お前がそんな行為をする人間じゃ無いと言う事は解る」

 一年間一緒にいれば嫌でもその一緒に居る人間が解る。

 僕は決して善意ある言葉を発した訳じゃない。唯そう思ったから言っただけだ。

 カメが猛ダッシュしてたらおかしいだろ?だから走るな!ゆっくり歩け!と言っただけだ。


 ガランッ……と金属音をたてて床にイスが落ちた。

 サクが手から椅子を離したのだ。

「へーじ……俺」

 サクは口をパクパクと動かした。何だ? 魚の真似か?

 

 では無く、なにか言いたいようだ。

 しかし、口に出ない様で妙にもどかしい。


……。というか喉が痛い。

 少し前まで喉ガラガラ、鼻水ズルズルの僕が大声を放つものでは無いと解った。

 僕もバカなのか?

 そこでッハ!と我に帰った。

 周りに居る野次馬の方々。

 ……待て待て待て待て!

 こんな面前で大声で言ってたんですか!? 僕は!?

 そりゃ! 口にチャックとか思ってましたけど! 冷静になると恥ずかしい!

 僕は頭にくると、というか、急激に感情を動かすと周りが見えなくなる。

 あの雪の日の高笑い然り。


 ん?雪の日?

 何か忘れている様な。

 目の前のサクは怒り狂った表情から一転困った顔。

 野次馬達もどう反応すればいいのか困っている様子だ。

足を折った、痛すぎて笑えた。

今思うと周りからの視線が痛かったなァ、足よりも。

あれ?上手い事言ったんじゃないですか?

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