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その1.女の子に殴られたのは初めてです


 どうもこんばんは。

 あんたが読んでる時が朝だろうが昼だろうがこっちに合わせてもらうよ。

 これは僕がクソ寒い夜にあった出来事。

 マフラーにセーター、超厚着に加えて患者用のマスクをしている辺りから察してほしい

 そう、僕は病人だ。

 物語の前に、僕の名前を知ってもらいたい。

 『へーじ』

 そう呼んで欲しい。

 ……強制はしない。




 大晦日だと言うのに一人咳をしながら休日緊急病棟に向かう僕、基『へーじ』は高校2年生。

 溜息と共に出る白い息がその場の寒さを伺える。

 ちらほらと降る雪は邪魔くさく思えた。

 夜の町は賑やかに騒いでいる。

 やれ大晦日だ、やれハッピーニューイヤーだ。



 「……くっだらない」


 言葉と共に白い息が吐き出される。

 言葉に出さなければやっていられない。

 自分が苦しんでいるのに楽しそうにしている周りが非常にイライラさせる。


 僕はこういう人間である。

 いや、人間の大半がこんな人間の筈だ。

 最低、と思う人間がどうかしている。

 外面だけの人間かよ、みたいな。

 言葉と共に白い息が吐き出される。

 言葉に出さなければやっていられない。

 自分が苦しんでいるのに楽しそうにしている周りが非常にイライラさせる。


 僕はこういう人間である。

 いや、人間の大半がこんな人間の筈だ。

 最低と思う人間がどうかしている。

 外面だけの人間かよ、みたいなね。

 そう思っていた。


 それが当然だと、思っていた。


 『あいつ』に会うまでは……。




「ゲッホゲッホ!」

 激しい咳に体が揺れるのを感じる。

「じんどい……」

 今現在の状況。


 周りから一際大きな声が聞こえた。

「ぎゃははははは!」

「バーカ!」

 と、楽しそうな声。数人の若い男達がはめを外しているようだ。

 大晦日なんだからこんなバカ達が大勢居てもおかしくはない。


チラッと見えた男達はガタイも良く、大きく見えた。

 只でさえイライラしている僕のイライラゲージが一気に上がる。


 調子のンナよ糞ボケ共そのでっかい口にクソでも突っ込んで喋れなくするぞ。

 でかい図体しやがって、頭からぶっ叩いて縮ませてから脳みそグチャグチャにして、ミンチにして美味しく頂くぞコラ。


 と言いたくなるが、間違いなく負けるので自重させて頂く。

 ……ふざけるな負けるに決まってんじゃん。ナニ? アノガタイ?

 こちとらスポーツなんて触んないから。

草食系男子ですから。

 キラキラ汗流して青春ですか? ……心の中でしか悪態がつけない僕は根暗野郎。



どうせ臆病ですよ……フフ……フヘヘ……。

 爆笑もんだ。

「アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 一人街道の中声を上げて笑うというのも中々おつなモンだ。

 周りの冷たい目なんか知るか。

「アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 頭がボーッとして顔が熱い。

 成程、ハイになるには持ってこいの状況じゃないの。

良く良く考えたら結構危ない状況だったのかもしれない……人としても体調的にも。

「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」


「アンタ! ……っさい! ……!」




 何だ? 周りの馬鹿共が止めに来たのか? 

今良い気分なんだ。邪魔しないでくれよ。

 ッハ!それとも僕のせいで折角楽しい気分だったのに台無しになったってか? ざまぁみろ!

「ヒャハハハハハ!」

 僕以外は不幸になれ!アヒャヒャ。



「っさいってんだろ!」


 その時、僕の顔面に苛立った声と共に衝撃が走った。

「ふべらぁ!!?」

 一瞬、何が起こったのかわからなかった。

 解った事は、僕が間抜けな声を上げた事ぐらいだ。

 ……情けない。

 目前が突然に真横になる感覚は妙に不思議な光景であった。

 その光景は一瞬のみ。


すぐに顔面の衝撃とはまた違う衝撃が、体中に走った。

 いつのまにか、すぐ横に冷たいアスファルトがあり、冷たい地面に頬をつけている状態になっていた。

 倒れたということにその時初めて気づいた。


「い!いった……ゲホ! ゲッホ!」

 情けない声は咳で止められた。

 

 殴られた頬を抑えながら僕を殴った相手をとっさに見上げた。

 倒れた僕を見据える2つの釣り上った猫のような大きな眼。

 街灯で照らされた長髪の黒髪が風に靡いていた。

 漆黒の綺麗な黒髪だと、冷静になりながら理解した。

 小さな顔は何故か薄らと赤身が掛っているように見えたのは街灯のせいだろうか?」

 鼻につくツンッとした臭い。

 家でよく嗅ぐ臭いにその臭いの正体に気づく。

 この女の子の顔の赤身はどうやら気のせいで無く、それのせいのようだ。


 これは僕と『あいつ』が出会った話。


 僕をぶん殴り、倒れている僕を見据えていたのは。



 女の子だった。


 雪の降る騒がしい街並みに、大晦日の晩、

 風邪で苦しむ僕と、酒ぐさい長髪の女の子の。



ロマンチックの欠片も無い出会いだった。




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