その18.元気溌溂じゃ無くなった男
諦めて野次馬の集まる所に向かって駄目教師と一緒に歩き出す。
まぁ、遠巻きに見てればいいでしょ。
僕に被害が出そうなら即効逃げたらいいし。
それよりもサクの事が気になる、まぁ、直ぐにもとの馬鹿に戻るだろう。
野次馬達の声が大きくなっている。
「おい! すげーぞ! あの女の子!」
ん? 女?
女同士の喧嘩か、醜そうだ。
野次馬は大きく、駄目教師がめんどくさそうに生徒達を掻き分ける。
取り合えず、僕は外で待ってたらいいか。
周りの野次馬共は、いけいけー! 等等言いたい放題だ。
皆暇なんですね。
僕の直ぐ横にサクは居た。
何も反応の無いサクというのも気持ち悪いな……言わないけど。
野次馬の中心から、更に大声が聞こえた。
「……!」
「!、……!!」
微かに聞こえるも、野次馬共のうるささに掻き消されてよくは聞こえない。
別にいいけど。
「順番抜かしをすんなーーー!」
突然の高らかな女の声。
まさか、その程度で喧嘩してるのか?
ぼけーっと野次馬を見ていると、何かが目の前に吹っ飛んできた。
そして気づくと、
吹っ飛んでいた。
え? 何で?
吹っ飛んできたものにぶつかったのは解るとして、何故その衝撃で僕が吹っ飛んでんの?
空中で呆然と考えながらも、床に叩きつけられる、と思った。
誰かが、受け止めてくれたらしく、衝撃は無かった。
受け止めた人間を見上げると、サクが無表情のまま、受け止めてくれていた。
「あ、悪い……ね」
そんな僕の言葉も無視して、サクはみるみる顔つきが鋭くなる。
「アイツ」
そう零すと野次馬の中に飛びこんでいった。
わけもわからず、慌てて僕はサクを追った。
「ちょ! 待って!!」
追いかける際に、吹っ飛んで僕にぶつかった者が見えた。
ガラの悪そうな男が伸びていた。
「あれ?」
間抜けな声が漏れる。
女同士の喧嘩じゃないの?
何故か、あの時の雪の夜を思い出した。
嫌な予感、というか、女でこんな事が出来る女は僕は最近、一人だけ知っている。
野次馬を抜けた先に、僕が見たものは。
険しい表情を見せるサクと、男の胸倉を掴んでいる一人の女の子。
黒く長い髪と鋭い猫の様な目。
あの夜とは違うストレートではない、頭の横に片方だけ結んだサイドテールが小さく飛び出ていた。
同じ制服。
違う部分を上げれば、上靴の色から一つ下の年代だと察した。
女の子は掴んだ胸倉を離すと、サクを見据え、鋭い黒目を更に尖らせてサクを睨んだ。