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その185.≪きっと嫌い、きっと好きじゃない、嫌いな所なんていっぱい在るから≫

 アタシは、深く深く深くふかぁ~~~く……溜息を付いた。

 今の過程でアタシがキレる理由がひっとつも無い!

 つまりはアタシの自己中心的な考えだったわけだ。


「どーやってへーじと顔合わせろってのよ……」

 独り言、溜息と一緒に出た言葉だ。

 何回目の溜息なのか解らない。


 罪の意識で心が揺れる。

 風が吹き、アタシの髪はそんな心模様の様に揺れる。


「誰の顔が見れないって?」


「ッぅあえ!?」

 変な声が出た。

 アタシは大袈裟に驚いてしまっていた。

 いつから屋上に来ていたんだろう!?

 た、溜息も聞かれたかな……

 へーじの声が後ろからしたのは解った。

 声の大きさから何となく遠くに居るんじゃないかと考えた。


 先程も言ったように、顔が見れないので振り向かない、間違えた振り向けない。

「何のようよ……馬鹿へーじ」

 意地っ張りなアタシの口は、勝手に動き出す。

 そんな事言いたく無いのに。


「折角追いかけてきてやったのに……どんだけ口悪いの君」

 呆れたような言い方をされてしまう。



≪そんな呆れた言い方をするクセがある所が嫌い≫



 アタシはへーじに見えない位置だからこそ。

 顔を曇らせた。

 振り向いたら、アタシの表情はまた意地っ張りな顔に変わるだろう。

 足音で、アタシに近付いて来るのが解った。


「アンタよりも数倍マシよボケ!!」

 また言ってしまった。

 これはもう病気だなー……。


「いや、確かに僕も人の事言えないけどさ……ボケて」

 何やら傷ついたらしい。

 振り向かない、基、振り向けないので、へーじの顔は見えない。



≪スグに傷つく所が嫌い≫



 只、声がとても近くで聞こえた。

 きっと彼は直ぐ後ろに居るんだろう。

 彼が近くに居ると考えて、心臓が飛び跳ねた。

 アタシは変だ。アタシ『が』変だ。


「……」


 アタシは何も喋れない。


「あー……良い風だねェ?」

 気を使ったかのようなへーじの言い方に、唇を噛んだ。

 何よ。

 何で気を使ってるのよ。

 アンタ何もしてないじゃない。

 アタシが勝手にキレて、勝手に飛び出したんじゃない。


 へーじは何にも悪くない。



≪空気を読んで気を使う所が嫌い≫



「……」


「……」


 風が吹く。

 確かに、良い風。

 冬が過ぎ去ったと思わせる暖かい風。

 へーじに初めて会ったのは雪の降る真冬だった。


「縁」

 名前を呼ばれただけで、体がビクッと震えた。


「何よ」

 それを悟られたくなくて、強気に言葉を返す。



≪志保にはチャン付けなのにアタシは呼び捨てなのが嫌い≫



「何怒ってんだよ」

 困ったような言い方。



≪鈍感な所が嫌い≫



「怒ってないわよ」

 実際怒ってないけど怒ってるような言い方をしてしまう。


 スグ後ろで溜息が聞こえた。

 アタシはまた唇を噛み締める。

 またへーじの中で、アタシの評価は下がったのだろうな……。



≪溜息が多い所が嫌い≫



 何よりも。

 素直になれない自分が嫌い。 


「縁、振り向くなよ」


 へーじは耳元で小さくそう囁いた。

 アタシの心臓が思いっきり跳ねているのも知らずに。

 ウルサイ程に、ドキドキドキドキ。


 私の肩越しに、後ろから二つの腕がにゅっと出てきた。


 え?


 え? え? え!?


 こ、こここここれはもしかしてまさかホントに!?

 う、後ろから抱きつこうとしてる!?

 えぇぇえぇああぁぅああぁぃぃぅぇぇえ!?


「おい、動くなよ?」


 そんな風にまた耳元で囁かれる。

 アタシの心臓が跳ね上がるのも知らずに。

 …………。

 そりゃ……。

 

 動きますとも!


「ヒィヤァァァァ!!!  へへへへ変態ィィ!?」

 アタシは恥ずかしさと驚きと照れと……後、なんか色々の思いで。


 アタシは回し蹴りをしていた。

 必然的に振り向いているのだけれど、強烈な蹴りと一緒に。



「へぶっ!?」

 へーじは変な声を挙げていた。

 っていうか吹っ飛んでいた。

 っていうか血反吐出していた。

 やってしまった。

 またやってしまった!

 思いっきり自己嫌悪に落ちてしまう。

 


「へ、へーじ、ごめん……」

 謝っても遅いのは解ってまス……。


「ごふぅ……ひ、久し振りだわこの感じ」

 血反吐出しながらへーじは何とか立ち上がろうとしている所だった。

 

 そういえば最近へーじを攻撃していなかったっけ。

 なんて冷静に考えていた。

 ……じゃない! ケガ人を思いっきり蹴っ飛ばすって……アタシってばとことん終わってるわね……


 やってしまった。

 と、アタシは肩を竦めた。

 今日何回目の『やってしまった』なのかは既に解らない。

 その時。

 胸の所で肩を竦めるのと一緒に何かが動いた、


 首から何かが下がっていた。


 それは。


 赤いロザリオ。


 あの時欲しがったロザリオ。

 ついロザリオを手に取っていた。

 近くで見ると、何故ロザリオが輝いていたのかが解った。

 真中にキラキラと輝く水晶があったのだ。

 赤く輝く水晶の中には、何かの花弁らしき物が入っていた。

 ガラスケース上だと解らない事が解る。

 それが、今自分が手にしているという事を更に強く印象付けた。


 何で、何でこのロザリオが……?



≪約束を守るのが嫌い≫

≪嫌いな所が沢山解るって逆に良くその人を見てるって事なんじゃないかな≫


本当に親しい人だったら、嫌いな部分と同じくらいに、それ以上に、好きな部分が在るって私は思っています。

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