その17.割って入っていいプライベートは話せる範囲まで
僕はこの駄目教師が嫌い、とまではいかないが苦手かもしれない。
何故なら。
駄目教師は頬杖を付いて、サクの方を見ると、ニヤッと嫌な笑みを浮かべた。
「お前、犬に喧嘩売って負けたんだって?」
「んな!? 何でしってんだよ! それにアレは負けたんじゃない! 奴が援軍さえ呼ばなければ!」
そう、この男は何故か何でも知っている、会う度に最新の私的なプライベートを知っているのだ。
犯罪くさいが情報源は未だに謎である。
というか、こいつ休みに何やってんだ。
「何動物虐待してんのさ」
「虐待では無い! 決闘だ! そしてむしろ虐待されたのは俺の方だ!」
「犬に虐待されたの!? どういう状況!?」
駄目教師は今度は俺の方を向くと、ニヤッと再び嫌な笑みを浮かべた。
「お前は夜中に、女の子に吹っ飛ばされたんだってなぁ」
「……何でしってんですか」
この情報はどっから来るんだ?
「何!? お前女の子にぶっ飛ばされたの? ダサ!」
「犬に虐待された奴に言われたくないよ!」
「まーそう言うなよ、何でもその女の子、大学生の男4人を一人でノしたって言うじゃねーか」
だから何でそこまでしってんだ。
フォローか? フォローのつもりか? じゃあ最初っから言わないでください!
「まぁ、『あの子』ならやれねー事もねーか」
……え?
「知ってるんですか!?」
何故ここまで反応したのか自分でも解らない。
ッフー、と一度大きく煙を吐くと、駄目教師はニヤッと笑う。
「知りたいか?」
僕は頷く。
「だったらソイツに聞くんだなぁ」
そう言って、タバコで僕の直ぐ横を指した。
「サク?」
指差されたサクは、先程までのアホ面は消え去り、一気に顔が青ざめていった。
何で、サクがこんな反応をするか理解出来なかったが、サクは小さな声で何事かを繰り返していた。
「あいつの、ことだったのか? でも……何で?」
「サ、サク?」
再び名前を呼ぶも反応は無い。
突然の急変に僕自身が驚いていた。
先程廊下で見せた表情を見せていた、困った様な、驚いた様な。
目線は定まらずウロウロとしていてなんか怖い。
「サ……」
再びサクを呼ぼうとした瞬間、食堂内で激しい音が鳴り響いた。
ドンガラガッシャーン!! と言った具合の金属音がぶつかり合う音が繰り返し鳴り響く。
え? 何? 何!?
慌てて、そちらを向くも既に野次馬で見えない。
僕の耳に周りの声が聞こえた。
「おい! 何だ!?」
「喧嘩だ! 喧嘩!」
周りの雑音で状況は理解出来た。
どうやらどこぞの馬鹿が暴れている様だ。
それが解ると、僕は呆れたように視線を元に戻した。
馬鹿共め、めんどくさい事してくれるよ。
「止めなくて良いんですか?」
視線を駄目教師に向けながらも一応言ってみるが、反応は解っている。
「いやだ、めんどくせー」
やっぱり。
そして駄目教師は付け加える。
「勝手にやらせとけよ」
「なにいってんですか! ダメですよ!!」
何の為の先生だよ!
こういうめんどくさい事の為にいるんでしょうが!!
こうゆー、うるささは僕は嫌いだ。
イライラする。
「じゃあお前も来いよ」
「え゛?」
嫌だ! と言う前に駄目教師は立ち上がると僕の腕を無理矢理引っ張った。
「ちょ! ちょっと! やめてくださいよ!」
「い・や・だ」
そう言うと駄目教師は再びニヤッと笑った。
……この笑い方が本当に嫌だ。
サクは無言で立ち上がると、後を付いて来る。
やはり顔色は変わらない。
何故そんな顔をしているかは理解出来ない。
唯、サクが小さく零した声が、はっきりと聞こえた。
「『正義』なんて言うから、アイツみたいな事言うから……」
言葉の意味は理解出来なかった。