その178.世話の焼けるお姫様
「あー……えっと、違うんですよへーじさん」
最初に口を開いたのは志保ちゃんだった。
困った顔も可愛いなァ、とか思ったけど口には出さない。
「どゆこと?」
僕の疑問にミホが軽く首を振った。
「んま、口で言うより目で見るほうがずっと良いってね~」
そう言うと部屋主である僕の断りも入れず、勝手にテレビをつけやがる。
無造作にチャンネルを変えて行くと、ある一つのニュースで止めた。
真面目な表情をしている女性のニュースキャスターは、何か見覚えのある所に居た。
『二日前、この路地で大勢の若者達が倒れているのを発見されました。 警察の方では暴走族同士の衝突では無いか、と考えられています。
しかし、倒れていた若者達から話しを聞くと、『女にやられた』 と、証言しています。
青年の中には鼻や歯が粉々になり、『ごめんなさい、ごめんなさい』と繰り返し呟く等、精神病院に搬送された青年も居る程で、この状況を女性が作り出されたとは考え難く、青年達が何かを隠しているのではないか、と警察は疑っています。
真相が解れば直ぐに報道したいと思っています。』
そこでミホがテレビを消した。
再び病室内に静けさが戻る。
志保ちゃんはまだしも、騒がしいはずのミホやサクさえも黙りこくっている。
……いや、これは黙る。
え、何? え?
この子……もしかして、あのボロボロの状態で、あの傷だらけの状態で、あの疲労を溜めた状態で。
全員ブッ倒して来たァ!?
ん、んなアホな……。
「何で皆黙ってんの?」
キョトンとしながら君は何を言ってんですが。
多分、皆色んな意味で喋れないんですよ!
色んな意味合いで!!
不思議そうにしている縁を無視して近くに居たミホにコソコソと耳打ちする。
「え……ええ~……何コレ? どゆこと?」
ミホも僕に合わせるように声を小さくする。
「見た通りでしょー! この子の凄さは私達の範疇外だった! て事!」
「ぇぇぇー……うっそでしょー……」
僕の心配を返せ……そして僕の涙を返せ……。
っというか気になってたんだけど。
「二日前って何さ」
「へーじ二日間起きなかったんだよ?」
え、ウッソン! もうそんな経ってんの!?
「アッハッハ! 寝顔は中々可愛かったよーん?」
そう言って笑われてもイヤなのだが……。
寝ている間に何かしたんじゃ無いんだろうな……。
ミホならばやりそうで、普通に怖い。
「何よ、アタシだけ除け者にしないでよ」
何が気に食わないのかお姫様は頬を膨らませている。
別に除け者になんてしてないから……君の在り得なさに呆れてるだけ。
何故か先程まで耳打ちしていたミホが妙な笑みを浮かべていた。
楽しい、とかの笑みでは無く、何やらコチラもご不満? といった感じだ。
「……アッハッハ! 縁ちゃ~ん? 何々~? 私がへーじと喋ってたらイヤ~?」
何か馬鹿にした様な言い方だ。
「なッ!? べ、別にそんな事無いですよ!!」
明らかな慌てぶりは、別にそんな事無いわけも無さそうに見えた。
「本当~? じゃぁそんな怒る必要無いよね? ね?」
何故ミホが挑発した様な言い方をしているのか僕は理解出来なかった。
縁が意味も無く怒るのは今に始まった事じゃ無い。
そしてそれをいつも笑っているミホが、今はいなかった。
ミホの言葉に、詰まったように口を閉じる縁の顔は徐々に赤くなっていく。
「ア、アタシは……別にそんなつもりじゃ……」
必死に出した言葉は何とか繋げ様と搾り出した言葉に過ぎなかった。
ミホもそれが解っている様で、
イヤな笑みを浮かべて追い討ちをかけるように口を開く。
「じゃ、いいんじゃ無いの? 私が……ううん、へーじが誰とどうしようと、ね?」
そう言うと、業とらしい程にミホが僕の首に腕をまわして来る。
まぁ要するに抱き付いて来たわけだ。
普通に僕はギョッとした。
眼の前にミホの綺麗な顔が在る。
唇の柔らかさや、まつ毛の数が解るほどに近付かれ、一気に顔が赤くなる。
「ちょ、え、ミホ!?」
声が裏返る。
突き放そうとするも、ミホは予想以上に力強く抱き締めていた。
まるで、何か必死になっているように……。
無意識に助けを請おうと辺りを見渡した。
この部屋には、後二人の人間が居た。
志保ちゃんはミホを止めてくれるだろうし、
サクは無理矢理にでも引き離そうとするだろう。
しかし、僕の予想とは違っていた。
志保ちゃんは暗い顔で俯き。
サクも視線を逸らしていた。
二人共ミホと共犯であるかのように。
志保ちゃんは辛そうに、サクはなんの感情も示さず、ひたすらに目線を逸らす。
二人が頼りにならないと理解した瞬間、直ぐに縁の方を向いた。
縁の顔は真っ赤になっていた。
その表情は怒りや悲しみでは無かった。
目線が右往左往するも、何度も僕とミホの方に視線は帰ってくる。
その度に目線を逸らしていた。
動揺した様に目は見開き、小さな声で『あぅ……ぅぅ~』と唸っていた。
君は犬か、と突っ込みたくなったがココは抑えた。
「へーじ……」
小さく僕の名前を呼んだ。
どうしていいか解らなくて、助けを呼ぶ様に。
無意識に出たのか、僕を呼んだ事に気づいていない様だった。
気づいたのは呼ばれた本人の僕と、ミホだけだと思う。
いつもならミホは表情に出さない。
全てその笑顔の裏に感情を隠す。
しかし、微かに表情が変わったのを見逃さなかった。
顔が眼の前に在る状態じゃ無かったらきっと解らなかっただろうと思う程に、本当に微かに。
「……あっそ、どーも思わないなら、私が貰っちゃうよ? へーじの事、私大好きだしー!」
そう言ってミホはケラケラと笑った。
「ッ!?」
「は、ハァ!?」
縁の体が硬直した様にカチッと固まると同時に、僕も裏返った声を挙げていた。
な、何言ってんだコイツ!?
笑っていてるミホは冗談なのかもしれない。
が。
抱きついた上に言われちゃタチが悪すぎる。
「何言ってんだよミホ!!」
「良いじゃーん! へーじだって私の事別に悪く思ってないでショー?」
そう言って悪戯っぽく小さく舌を出す。
顔が身近にあるわけで、こんな近くでそんな仕草をされれば誰だってやられるだろう。
冗談と解っていても!
僕は慌ててミホから目線を逸らす。
自分がボロボロの怪我だらけにも関わらず変に意識してしまうのは男の性だから仕方無い……。
目線を逸らした先に縁の顔が在った。
顔は真っ赤に染まり、微かに震えていた。
パクパクと口を動かし、その後にぎゅっと思いっきり目を瞑った。
「不潔! サイテー! 変態! へ、へーじのッ!! へーじの嘘吐き!!」」
え! 僕!?
何故か僕に対してボロクソに捲くし立てると、ドアをバァン! と勢い良く開けて飛び出して行った。
ミホでは無く、僕にボロクソに言うのはオカド違いでは無いだろーか……
何となく納得が行かない……。
縁がいなくなった瞬間、ミホは突然手を離した。
先程まで離さなかったクセに、意図も簡単に。
「……なんのつもりだよミホ」
「……別に」
ミホはえらく素っ気無く応えた。
あまりにもその言葉に感情が無かった。
先程まで感情豊かに縁を茶化していたクセに……妙に冷たくなったな。
僕は縁が出て行ったドアと、ミホを交互に見た。
目線だけで小さな訴えを見せたつもりだ。
ミホは小さく、馬鹿にした様に鼻を鳴らす。
「……ふん、何怒ってんのよ」
……別に怒ってるつもりは無い。
ミホにしてはやりすぎじゃないとのか、と言いたいだけだ。
僕がした様に、今度はミホが『僕と縁が出ていったのを交互に見た』
まるで追いかけろ、と言うように。
なんだよそれ。
君がやったんでしょーが。
「……あのときになんの約束をしたのかは知らないけどね、縁ちゃんはへーじが嘘をついたと思ってるみたいだよ?」
最後に、思いっきり嘘吐きといわれてしまった。
……何を約束したかな。
ミホは、あの夜、別れた時の様に、僕の胸をトンッと軽く押した。
「待ってるよ」
そう言って、ミホは微笑む。
あの時と同じ様に。
そして、あの時と同じ様に、僕は何も言い返せなくなる。
いつも見せるミホの笑顔はクセの様な物だ。
だけどこの笑顔はクセとは違って見えた。
無理に作った様な、何かを押し殺すような。
きっと聞いたら否定するだろうね。
君は。
「ん……行って来るよ」
それだけ言うと僕は立ち上がる。
覚束ない足取りでドアに向かう。
「へーじ!」
ドアを開けた所でミホに呼び止められる。
振り向くと、何かを僕に投げつけてきた。
ソレは少し重みのある四角い箱。
これは……?
「女の子ってのはプレゼントに弱いのよん?」
そう言ってミホは僕に向けて軽くウィンクをしてみせる。
ったく……準備良すぎだろ。
「ありがとな!」
そう元気な声を出して軽く手を挙げる。
ミホは笑顔のままヒラヒラと僕に手を振っていた。
それを横目に僕は廊下に出た。
世話の焼けるお姫様を探しに。
小説家になろうサイトがリニューアルして使いにくくなりました!
しかも感想を入れるのに新規登録をしなくては行けない様になったとか!
なんとまァめんどくさいことを(--;)
こんなんじゃ感想書くのめんどくさくなったりしないかと心配です(;_;)
もし『感想入れようと思ったけど新規登録? メンドクサー><』 という方(いるかは解りませんがw)よければブログの方に感想を書いていただいても構わないです^^
でわでわ、話はまだまだ続きますよ!
http://wanwanoukoku.blog.shinobi.jp/