その177.シリアス? 何それ美味しいの?
「へーじ」
ああ、最初に会った時からずっと呼び捨てだったっけ……。
「アンタ、何してんの?」
そうそう、こんな感じにぶっきらぼうな言い方で………………………………………………………………………ん?
慌てて顔を挙げた。
ッゴ。
ぶつかる音が病室内に響き渡る。
どうやら、僕の顔を覗き込んできていた『誰か』と思いっきり顔を挙げた僕の頭がジャストフィットしたらしい。
「〜〜〜〜ッ! いってぇぇぇ〜〜!!」
「〜〜〜〜ッ! あっだぁぁー!!」
二人分の苦痛を込めた言葉が重なる。
「いったいわね! 馬鹿へーじ!!」
「こっちの台詞だ! 暴力女!!」
反射敵に返した言葉
僕を睨む二つの大きな瞳。
僕を見るその人は、間違いなく縁だった。
顔や頭、体中に包帯を巻いてボロボロな姿だけど、確かに縁自身だった。
暫し呆然と縁の顔を見つめる。
「な、何?」
呆然としている僕を不思議に想ったのか。縁は不思議そうに首を傾げる。
「お、おま……」
「何よ」
「本当に……縁……?」
「アタシ以外のなんだってんのよ」
ぶっきらぼうな言い方には懐かしさすら覚える。
大きな猫目の瞳、への字に曲がった意地っ張りな唇。
片方だけ結んだ学校では良くしているサイドテールの長い髪。
小柄なクセに女と思えない力を持っている彼女。
幽霊じゃないか、と、つい疑ってしまい。
足を見てしまった。
そこには当たり前の様に足が存在している。
紛れも無い事実。
こんなしょうも無い事でも良いから慌てて確認する僕は余程テンパッているのかもしれない。
嬉しさと驚きと、そして良く解らない気持ちがこみ上げた。
「へーじ、何で泣いてんの?」
縁の言葉に慌てて下を向いた。
僕は呆然としながら、まだ涙を流していたらしい。
きっと、この涙は、悲しみの涙じゃない。
両腕で思いっきり痛くなるくらいに涙を拭いた。
涙を拭いた先の顔は、いつものぶっきらぼうな表情へ。
今更遅いけど、君の前じゃコッチの方がいい気がした。
そして…………。
大きく大きくため息を付いて見せた。
先程までの自分が叫んでいた言葉が思い出される。
顔が赤くなっていくのが自分でも解る。
「お前……そこは死んどけよ……」
僕の恥ずかしさの為にも……。
「な、なによソレ!!」
ああ……僕の言葉にご不満でしょーね……しかし僕は恥ずかしさでご不満だよコノヤロー……。
何か呆れ過ぎて体中の力が抜けてしまった。
ふっつうに体が痛い、しかし、先ほどまで喉でつっかえていた苦しみは大分薄れた。
先程思いっきり叫んだのが逆に良かったのかも知れない。
何が何だか解らないといった様子の縁。
見渡すと、志保ちゃんが困ったように笑っていた。
多分、志保ちゃんが入ってきた後ろから普通に入って来たのに僕は気づかなかったようで。
その次にサクの方を向いて、思いっきり睨み付ける。
なんで『俺睨まれてんの?』みたいな顔してんの!?
なんで解んないの!? ワイ!? 馬鹿! 馬鹿ですか!?
取り合えず立ち上がり、近くにあった花瓶をサクの顔面にブン投げる。
「ぽぎゃァ!?」
見事鼻面にクリーンヒット。
「アホかお前はァァァァーー!! 嘘か!! ムダな嘘か!! その嘘になんの意味があったのか酷く気になるわァァー!!」
「だ、だってお前! お前も俺と一緒で昨日の魔法微少女(微妙な少女)!! カリリー! が終わった事に悲しんでたんじゃ無いのかよ!?」
は!?カ・リ・リー!? なんじゃそりゃ!?
「私が説明しよう!」
そう言って笑いを堪えているミホがしゃしゃり出てくる。
多分コイツは解っててやった。
絶対解っててやった。
「魔法微少女! カリリー! 魔法界から人間界にやってきたカリリーは正義の行いをする事を使命とされていた! 『カリリー! 馬鹿だから別に良いや!』というお馴染みの決め台詞で大ブレイクした迷アニメ! そんなアニメも昨日が最終回!! 地球を簡単に爆発させる爆弾を宇宙に運び出すという感動のシーン! 止める一緒に暮らしていた男の子の(良くある感じの)話も聞かず、『カリリー! 馬鹿だから別に良いや!』と一言だけ言って宇宙に爆弾を持って行ったという感動のラスト!! サクは昨日それ見てずっと感動して泣いちゃって五月蝿くって仕方無かったよアッヒャッヒャッヒャッヒャ!!」
大爆笑するミホ……。
……は?
頭の良い僕は直ぐに状況を理解しようと頭を回転させる。
最初に縁の事を聞こうとするも声が詰まり。
『……かり、は!』と言ってしまった。
事の発端はここなのだろう。
その良く解らないアニメ、カリリー? とかのを言ったのだと、頭の悪いサクは勘違いしたのだろう。
ていうか昨日最終回って、見てるわけ無いじゃん!!
ミホは、さも何かあったかのように目線を逸らし、サクは『(アニメが終わった事が)仕方が無いだろ……』とかカッコイイ感じに言い出す。
ムードに流され、サクと僕は全く違う意味である意味嚙み合って居たらしい。
サクは何処まで馬鹿なんだろうか……。
目が腫れていたのも、見たアニメで感動して泣いていたとでも適当に考えておこう。
「え? じゃぁ何? サクは僕がそんなアニメに感動してたとでも思ってたわけ?」
呆れた声でそう言うと、サクが怒りの表情を向けてくる。
「カリリーを侮辱するな! 幾らへーじでもゆるさねーぞ!!」
無駄に反応が早いサクに僕は沸々と怒りが湧く。
「うるっさいわボケ!! 幾らでも馬鹿にしてやるわ!! カリリーって何だよ!! 呼び難いは!! 馬鹿じゃ無いの!?」
「て、てンめぇ~!」
一々関わっているとメンドクサイのでここら辺でスルー。
怒りで顔を赤くしながら何かを言っているサクを無視して縁の方に向き直る。
「んで……怪我は大丈夫なわけ?」
確か頭を殴られていた気がする、脳のダメージは後から響く事になるのは良くある事だ。
この子はそういう事考えないだろうし、心配になる。
縁の頭に巻かれている包帯は妙に痛々しい。
あの人数だ。
今無事に見えていても、何処か大怪我をしていてもおかしくない。
縁は人差し指を頬に置いて「……ん~~?」と、少し考える素振りを見せる。
何故そこまで考える、僕は変な事言ったか?
「……アタシの心配してくれてンの?」
君はエスパーか。
てか、そういう言い方されると恥ずかしくなるでしょ。
「そりゃ……あんな別れ方されたら誰だって心配するでしょーが……」
僕の言ってる事に間違いは無い筈、うん、恥ずかしくなんか無い。
縁は何が嬉しいのか、ニマ〜と妙な笑みを浮かべている。
「……何だよ」
「別に?」
ニヤニヤと嬉しそうに笑っているのは何なんだろう。
何だよ気持ち悪いなぁ……
「ま、無事に逃げて来れたんなら良いけどさ……」
あの人数相手だ、深手を負っている状態で全員倒して来るなんてのは『有り得ない』し、上手く見て逃げてきたんだろう。
僕の言葉に、爆笑していたミホと、後ろで無視し続けていたが騒ぎ続けているサクと、麗しの志保ちゃんの三人の顔が一斉に曇った。
縁以外全員がピタリと固まり、暗い表情で下を向いた。
え、な、何?
これはギャグ小説です(^p^)
いきなりの展開にまずゴメンナサイorz
でも縁が死んでるなんて展開イヤダ!
といった感想やメッセージがとても嬉しかったです。
縁は案外皆さんに好かれているようで嬉しいです^^
どうぞこれからも縁を宜しくお願いしますm(--)m
※少し修正いたしました