表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/189

その175.冷静に何ていられない、僕は機械じゃないどんだけ望んでも機械になれない

 僕が今見ているのは白い天井。


 ……ここは?

 目を開けた先は、どこかで見た事のある場所だった。

 そこは僕が居た病院。


 倒れた後、誰かに運ばれた様だ。


 体中にチューブが繋がっていた。

 口に当てられた呼吸器が僕の呼吸に合わせて白く曇る事を繰り返していた。

 僕が最初に寝ていた時よりも色々な設備が残されていた。

 相当悪化していたらしい。



 しかし、なんで僕はここに居る?


 確か、僕は縁と居て……それで……。


 ぼーっとする頭は、徐々に動き出す。

 僕は倒れて……



 薄らと残っていた意識の記憶を辿る。

 縁に背負われ。


 そして……。


 最後に覚えているのは、離れて行く縁。

 僕は車に乗っていた。

 車に乗っている僕を見つめる縁。

 その瞳に迷いは無かった。



 縁の後ろから、大勢のガラの悪い男達が向かってくるのが見えた。


 縁の表情に恐怖は無く、寧ろ僕に向かって笑いかけている様にさえ思えた。

 いつもの正義を貫くつもりなんだ。

 結局は、正義の味方でしか無いんだ彼女は。



 ……! そ、そうだ! 縁は、一人で残って!!


 薄れた意識でも、状況だけはつかめていた。


 幾ら縁でもあれ程にボロボロな状態で、大勢の人間を一人で倒せるわけが無い。

 僕を見つめる縁に『行くな』と叫ぼうとした。

 だけど声は出なかった。


 手を伸ばそうとした。

 しかし体は動かなかった。


 離れていく縁を見ることしか、僕には出来なかったんだ!!



「縁!!!」


 叫び声を上げて布団から転げ落ちた。

 同時に体についていたチューブや呼吸器がすべて外れた。


「!、?、ッガぁ……」

 体中が軋む。

 引き千切るような痛みが僕を襲い、立て続けに胸をブチ抜かれた様な苦しみが襲う。


 い…た……い…!!


 余程、体は限界らしい。

 しかし、それでも僕は立ち上がろうとする。



 折角解り合えたのに、折角あの子の事が解ったのに。

 あの子が僕を見てくれたのに。


 何故離される、何故!!



 壁に手をつき立ち上がろうとする。

 しかし、体は言うことを聞かない。


 ……どうした! あの時は立ち上がったじゃないか! あの子に合う為に、走ったじゃないか!!

 なんで、動かない!





 ドアの開く音と共に聞き覚えの在る声が聞こえた。

「だぁーから! 俺はもう大丈夫だって!」


「何言ってんのよ! さくまっちアバラ折れてんだよ!?」


 サクとミホだ。


 ミホと僕の目が合った。

 最初に僕を見た時のミホの表情は驚き、そして喜びへ。

 しかし、僕が立ち上がろうとしているのを認識した瞬間、怒りの表情へ変わった。


「何やってんのよ!!」

 先に僕に駆け寄ったのはミホだった。

 血相を変えて僕に怒りの声を向ける。

 

 余程動いては行けない体なのか……。

 その怒りを込めた言葉の裏に心配と必死さが見えた。 


 それでも、それでも!!


「……かり、は!」


 ゆかり、と言おうした。

 しかし、声が詰まって言葉が思うように出ない。

 自分の弱った声に自分自身が驚いていた。

 途切れ途切れでしか声が出ない。

 まだ起きて直ぐじゃ体は中々動いてくれない。

 だが、今はそんな事知ったこっちゃ無い、今は縁だ!


 怒りの表情を見せていたミホの表情が、縁の名前を出した瞬間に曇った。


 その表情は、縁に何かあったと言っている様で、血がサーッと引いていくのを感じた。



「それは……」


 そこで途切れると、ミホは口を噤んだ。

 僕と目線を合わせないように顔を逸らす。


 まさか……まさか!!


 考えたくない事実。

 しかし、その可能性があるのなら、頭の良い僕はそれを考えてしまう。


 あの人数だ、それに全員武器を持っていた。


 まさか、死……。



 自分でも顔が青くなるのが解る。


 


「仕方がネーだろ……」


 そう言ったのは、サク。


 呆然とする僕は、その言葉の意味が解らなかった。


 仕方が、無い? 何が?

 何が『仕方が無い!?』



「な、にが、仕方、無い、だよ!!」


「ちょ、ちょっとへーじ!」

 止めようとするミホを無視して、僕は震えながら立ち上がる。

 体を支えたのは純粋な怒り。


「……アイツが決めた事だ」

 そんな僕を止める事無くサクはそう言った。


 ……ッ! 確かにそうだ。

 あの子が決めた事だ。

 一緒に逃げればいいのに、馬鹿みたいに義理を通してあの女は残ったんだ。


 いや、あの子だからこそ残った。



 だけどな! 

 それを仕方無いで済ませる様な、簡単な事じゃ無いんだよォォ!!!


「アイツはもういないんだよ」

 いつものサクとは違う、冷静な淡々とした言い方だった。



「サ、ク! う、そだよな! 嘘……だよなァ!!!」

 サクは比較的に嘘はつく人間では無い、なのに嘘である事を望んだ。


「へーじ……」

 同情を向ける様な視線をサクは向けた。

 その視線が、言葉に出さなくても余計に真実を伝えた様に思えた。


 嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!


「ふざ、けんなよ!! これから、だろ!? あの子は、もう、偽善なんかじゃ、ない!! 本当の正義だ!! この僕が認めるんだ! あの子を、ヒーローは死なないんだろう!?」


 言ってしまった。

 自分で認めたくない言葉を。

 サクは軽く首を横に振った。

 まるで、『残念だ……』と言う様に。


 サクに言っても意味が無いのは解ってる。

 だけど、言葉にせずにいられなくて。


「返せよ!! あの子がいなきゃもう僕は、 僕じゃねーんだよ!! 僕のヒーローを返せヨォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


 叫び声は、泣き声に変わっていた。

 サクの胸倉を掴み、体が危険な状態である事も忘れ叫んでいた。


 声にもならない叫び声は、嗚咽も混じる程に、喉が痛くなっても叫び声を挙げていた。


 サクの胸倉から手を離すと、僕はそのまま崩れるように座り込んだ。

 押し殺そうとしても、嗚咽は漏れる。

 悲しみが、押し寄せてくる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ