その172.アナタにヒーローを見せたくて
へーじの言葉がまだ頭の中でグルグルと周っていた。
凄く嬉しいと思う自分と、今のアタシにそんな権利は無いと拒絶する自分が居た。
へーじがイヤだと言うなら自虐的なの悪口はもう言わない。
しかし、それでも心の中で、自分がクズで在ると、何度も思ってしまう。
そんなアタシのグチャグチャの感情の中、どういう顔をすればいいのか解らなかった。
顔を挙げられないでいた。
「君は言ったよね」
へーじの言葉が路地の中で響き渡る。
「僕が『逃げた』ことが何か教えて欲しいって」
……そんな事を言った気がする。
どうせ自信満々で……アタシは言ったんだろう……。
馬鹿みたいに。
「……僕の本名は朝倉 坪侍って言うんだ」
へーじの本名を始めて聞いた。
そして、その名前はどこかで聞いた事が在る様な、そんな名前だった。
何でそれを、今言うんだろう。
「僕はね、自分の苗字が嫌いだ、嫌いだからずっと隠してた。 死んだ家族と向き合うのが怖かった」
それは、へーじの、『逃げ』。
それがへーじの逃げた事だった。
「でもね、それが間違いであるのを教えたのは君だ」
あたしは、何もしてない……。
本当は、正義を教えるなんて言えないんだよ。
アナタを見殺しにしようとしたあたしだ。
所詮、壊す事しか出来ない正義しか無いあたしには、何も教えられないのに。
何を言っていたんだあたしは。
「誰も見ない正義を繰り返している君を見ていて、僕が求めていた者が解った……君みたいな、正義の味方をずっと待っていたんだ」
……ずっと認めて欲しかった人が、今あたしを認めてくれている。
本当は凄く嬉しい。
正義を肯定してくれたと、笑って喜びたい。
なんでこんな時に言うんだろ……今のあたしは、正義を肯定しちゃいけない……。
『正義を嫌いでいなくちゃいけない』
なんで、そんな時に言うのよ……。
「正義を教えてくれると君は言った、僕は……その手を取らなかった、だけど、今度は君の手を取りたい」
止めてよ。
あたしにそんな権利なんて無いの。
大切な人よりも正義を取ったんだよ、あたしは、アナタよりも正義を取ったんだよ!!
「正義を教えてくれるんだろ? ヒーロー!」
「あたしは……ヒーローなんかじゃ……」
ヒーローなんかじゃない、あたしは、ヒーローなんかじゃない!!
否定したくて、いつもとは真逆の状態で。
声に出して否定しようとした。
しかし、なぜか抵抗して声は小さくしか出なかった。
まるで、本当は正義を信じていたいように。
「君が何と言おうと、僕のヒーローは変わらない」
―ッ!
あなたのヒーローになりたくて。
あなたにヒーローと言わせたくて。
「あた、しは……」
あたしは、もう、何も、言えない……。
あたしの目に写るのは濡れたコンクリート。
アナタを見る事は出来ない。
申し訳なくて、顔が挙げられなくて。
小さな溜息が聞こえた。
へーじの溜息である事は解る。
呆れてくれて構わないと思ってたけど、凄く心が痛くなった。
何度でも言う!
あたしにはそんな権利なんて無い!!!
へーじは本当は怒らなくちゃ行けない! あたしに毒を吐かなければ行けない!!
優しくしないでよ! これ以上、優しくされたらおかしくなる……。
あたしは……へーじよりも、正義に……『逃げ』たんだよ……?
「怒ってないよ」
え?
驚きで、つい顔を挙げてしまった。
心を読まれたような気がしてしまう。
それ程に、考えている事と、へーじの言葉はリンクした。
優しい瞳であたしを見つめるへーじと、アタシに向けて差し出される手が、そこにあった。
いつから手を出していたんだろう?
顔を下げていたあたしに、そんなのが解るわけが無い。
その手を、あたしは……取っても、いいの?
へーじの『怒ってないよ』という言葉が、あまりにも胸に染みた。
全てに許された気がした。
聞きたいけど、聞いちゃ行けないと思っていた言葉。
心が揺れる。
心臓の高鳴る音が、強く耳を劈く。
きっと、この音はあたしの音。
「手を取れ、縁」
その言葉に吸い寄せられるように、手はへーじの差し出した手へ伸びた。
触れるか触れないかで、あたしの手は止まる。
どこかで、まだ否定していた。
こんな自分が許されていいのか、と。
だけど、手を取りたいと、思う自分も居た。
手を取らせて、もとのアタシに戻りたい。
こんな、アタシじゃ無くて、へーじの望む姿へ。
信念を貫くあたしへ!!
だけど。
もう一つのアタシは否定する。
きっとまた壊す。
あたしの手は、壊す事しか出来ないから。
へーじが、また壊れることを恐れた。
あたしの手は、震えていた。
止まっていた手を、突然へーじは握りしめた。
予想外の力強い手は、あたしを強く引っ張る。
壊れるかもしれないと思っていたのに、その思いを吹き飛ばすように、強く強く握り締められていた。
両腕で思いっきり抱き締められている状況にアタシの頭は付いて来ていなかった。
取り合えず、顔が赤くなって行くのだけはよく解った。
ドクン、ドクン、ドクン。
心臓の跳ねる音が伝わる。
これはあたしの音かな。
それとも、へーじの音かな。
……きっとアタシの音。
更にぎゅっと強く抱き締められた。
強く強く。
「縁」
耳元で、名前を呼ばれた。
その時アタシの心臓の音は更に強く跳ね上がる。
……顔が熱い、男の子に抱き締められたのなんて初めてだ。
こんなにも、へーじは力強かったんだ……。
「頑張ったね」
ただ、一言。
その言葉を聞いた瞬間、涙が次から次へと零れだす。
あたしは、こんなにも弱かったのか、あたしは、こんなにも泣き虫だったのか。
その言葉が聞きたくて、その言葉が、あたしの正義を無駄じゃないと言ってくれているようで。
きっと、きっともっと色んな意味が在る。
そのたった一言に、あたしの意地っ張りや、無駄な考えが崩れる。
純粋に、心から純粋に。
人に背を預けたいと思った。
アナタに背を預けたいと思った。
へーじに抱き締められているのも気にせず、あたしは声を挙げて涙を流す。
へーじの胸に、顔をうずめた。
暖かい、暖かい……。
アタシのヒーロー。
アタシだけのヒーロー。
もう二度と、離さない。
要望がありましたので、縁視点を書いてみました。
前回の話で、?、となっていた方が居ましたら今回を読んで理解できたのではないでしょうか。
え、理解できてない?
。。。。orz
まだまだ未熟な自分ですが、完結させたら一度見直してみようと思います。
何処か。ここいらんくない? または、ここの表現おかしいよ! 等ありましたらどうぞ気軽にご連絡下さいm(−−)m
学校の勉強は嫌いですけど小説の勉強は好きだったりする私ですw
ブログhttp://wanwanoukoku.blog.shinobi.jp/




