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その167.「……ステージのラストは、主人公とヒロインって決まってるんだよ」

 体を引きずる様にして、その路地から出た。

 路地から出てもまだ町の光からは程遠いのだが、出来るだけ縁を一人にしてやりたかった。

 空を見上げると、顔面に雨が降り注ぐ、殴られた部分が染みる。

 そこで自分がずぶ濡れな事に気づく。

 縁の事で頭がいっぱいで、それ所じゃ無かったのだ。


 暫し空を見つめ、傘を持ってこようかと思ったが、縁が受け取る筈が無い。

 傘を投げ返されるかもしれない。

 今はそんな元気も無いと思うけど、な……。


 歩き出そうとした時、足がフラ付き、慌てて壁に手を付いた。

 流石に、限界な様だ。


 幾ら軽いと言っても、殺人パンチを何発も食らったんだ。


 まぁ、縁を止める事は出来た。


 後は『アイツ』に任そう……。


 何故アイツの事が頭に浮かんだのかは解らない。

 居る筈の無いアイツは今も病院で寝ている筈だ。

 アイツの変わりに止めにきたんだ、そんなの解ってる。

 

 なのに何でかな。


 アイツが居る気がした。


 足が縺れてバランスを崩した、俺は前のめりに倒れていく。

 地面が近付いていくのが解る程に俺は冷静だった。

 縁を止めれてホッとしたのかもしれない。

 緊張の糸が切れたのか、全身から力が抜けていくのが解った。



 ……。


 「……?」


 俺がびしょびしょの地面に倒れる事は無かった。

 誰かが支えたようだ。

 俺なんかよりもずっと小さな体。

 顔を挙げれない程に消耗していた様で、俺を支えてくれた奴の顔を見る事は出来なかった。

 だけど、何となく、見なくても誰だか解る。


「お疲れ様」

 そっと、耳元で俺の良く知る人物はそう言ってくれた。


 掠れた声で、「おせーよ」と言ってみる。


「……皮肉が言いたきゃまた今度聞いてやるよ」

 ムカつく言い方で返されたが、今はその言い方が心地よく思える。



 ああ、疲れた……後は任せたからな。

 これで、安心して寝れる。

 うちの馬鹿(縁)を頼んだぜ。











「サク……」


 僕の肩に凭れ掛かるようにしてサクは意識を失っていた。

 僕が支えていなければ、直ぐに地面に倒れてしまっていただろう。


「ボロボロ……だね」

 ミホがそう呟いた。

 確かにサクはボロボロだった。

 顔は腫れあがり、鼻もおかしな方向に曲がっている。

 服で解らないが、きっと服の下も腫れあがっているのだろう。


 サクをここまで追い込む事が出来るのは縁ぐらいだろう。


 つまり、この先に縁が居るのだろう。

 

 そして、サクの最後の表情を見た様子だと『負けた』わけでは無いようだ。


 暴れまわる縁を、体を張って止めたのだ。


 馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど、ここまで無茶をする馬鹿だとは思って無かったよ。


 ……後は任せて、ゆっくり休んでよ。



「……」


 ミホが無言で僕に寄りかかるサクに肩を貸した。

 今度はミホに寄りかかる形になる。

 巨体のサクに肩を貸すのは大変そうに見えて、僕もサクに肩を貸そうと、動こうとした。



「いいよ」

 ミホはそっけなくそう言う。


「サクは任せて、へーじは縁ちゃんをお願い」


「縁は……いいのか?」

ミホは緑を探していた筈だ。

サクを放っておくと言うわけでは無いが、少し気になった。


ミホはそこでニッといつもの笑顔を見せる。


「へーじに、任せるよ」


優し気にミホはそう言った。

それは僕一人で縁を連れて帰らなければならないという事だった。


……別に嫌だというわけじゃ無い。

僕も縁を探しにここまで来たんだ。

だけど、会ってどうするかなんて……考えていなかった。

縁は僕が撃たれたのを見てオカシクなった。

結果的に、彼女を追い込んでしまったのは他ならぬ僕なんだ。

そんな僕が行ったら、返って逆効果なんじゃ無いのか?

僕なんかより、ミホが行った方が、良い気がして来る。


「へーじ」


 俯く僕に、ミホが声をかけて来た。

反射的に僕はバッと顔を上げた。

優しく微笑むミホは、サクを担いでいない方の手で軽く拳を作って見せ、トンっと僕の胸を 軽く押した。その表情は、僕の心を読み取っているかの様に思えた。


「私が行っても意味が無いよ、緑ちゃんが今待っているのは、『へーじ』なんだから」


 ミホのその言葉が心に突き刺さる。

僕は、彼女を守ると行った。

彼女は、その言葉を信じて待っているのだろうか?

助けを、誰かが手を伸ばしてくれるのを。

ずっと一人で戦っていたヒーローが、実は救いを求めて居たなんて……滑稽な話しだな。



ミホは再びニッと笑い僕の胸を強く押すと、雨音に負けない程に、ハッキリと、堂々と言った。


「頑張れ、男の子!」


 そう言って僕に悪戯っぽくウィンクをして見せた。

 僕の胸を力強く押したミホが僕自身の心を揺らした。

 


……ミホ

「ありがとう、頑張ってみるよ」

僕はミホの目を見て、心から感謝の御礼を口にした。

本当に、この子には助けられてばっかりだ。


 

 何故かミホは驚いた表情を見せ、みるみるうちに顔が赤くなって行く。

「あ、や、あっと……えと、あっあはは!」

目線が右往左往している。

……ど、どうした。



 その後、落ち着いたのか小さくため息をついて見せる。


「……ステージのラストは、主人公とヒロインって決まってるんだよ」


「……え?」

 あまりにも小さな声は、雨の音で消え去った。


 聞き直そうと思ったが、ミホの少し暗くなったような表情が聞き直して欲しく無いと言っているようで、僕は聞き直す事は出来なかった。



「……ん、行っといで」

ミホは無理に笑った様に笑顔を作りそう行った。


「ああ、行ってくるよ」

 ミホに背を向けた。


 ここは大人しく従う事にした。

 いつまでもここで時間を掛けているわけにも行かないだろう。

 ミホの唇が、震えている様に見えたのは気のせい……かな。



 


 縁が待っている暗い路地の中へと、足を踏み入れた。

今回頑張っての2本立て〜!

頑張ったよ! 頑張りましたよ!!

思うんですがシリアスなのに私のせいでシリアスが台無しになっていないだろうかとたまに不安になります。

でも仕方無いじゃない! 本編が今マジメだから! ふざけたいじゃない!!


 ……ごめんなさいでしたー。。


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