その166.「うわああああああああああああああ!!!!」
……いってぇ。
痛くないわけねーだろ。
だが、それでもずっと受けていたくない拳とはまた少し違った。
眼の前の縁は顔を挙げない。
オイオイ……泣くなよ馬鹿妹。
必死に唇を噛み締めやがってさ。
ぎゅっと握り締めている拳が少し震えていた。
返り血で血だらけで、不気味に見える筈なのに。
今の俺には、只のガキにしか見えなかった。
それ以上何か言うと、きっと『この子』は泣いちまうかもな。
「アタシは」
震える声で、縁が口を開いた。
「アタ、アタシは、間違って、無い、間違ってなんか、無い!」
……馬鹿野郎が、本当はもう気づいてんだろ。
「『お兄ちゃん』は、意地悪、だ!! う、うぇ……」
大分錯乱してやがるな。
俺の事を、そう呼ぶのは、いつぐらいかな。
「う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
路地に縁の叫び声が響き渡る。
縁の中で、認めようとする自分と、認めたくないと意固地になる自分とが葛藤している。
そう思わせるような悲痛の叫びだった。
「誰も助けてくれない! だから自分は自分で守らなきゃ行けない! どうせ!! どうせ皆アタシから離れていくんだ!! へーじも!! パパみたいに置いていくんだ!! ヤダヤダヤダヤダヤダ!!! ウァァァァ!!」
今迄溜め込んでいた物を吐き出ように縁は声を荒げる。
かぶりを振って、何度も頭を横に振る。
眼の前で、へーじが撃たれた事があまりにも衝撃的だったのは解る。
だが、縁をここまで変える程の物では無いだろう。
縁は今迄に二度、『捨てられている』
一つはガキの時の親に、そしてもう一つは最近の事だ。
どんな野郎だったかは知らないが、縁には付き合っていた男が居たらしい。
ミナミナに聞いた所、あまり詳しくは教えてくれなかったが、良い別れ方をしたわけでは無いようだ。
心に傷を負った筈の縁だったが、その後すぐにへーじと出会う。
正義に否定的なへーじにぶつかる事で、縁は心を保つ事が出来ていた。
そして知らず知らずのうちにアイツはへーじに頼る事を覚えたんだ。
縁は、今回の事で、へーじがもう自分に近付く事は無いだろうと思ったのかもしれない。
縁は、自分のせいだと思い込んでいる。
こんな事件に巻き込まれれば、誰だってイヤになるだろう。
縁はそれがイヤで、へーじとずっと一緒に居たいという気持ちが縁を歪ませた。
本人は気づいていないのだろう。
縁の親がいなくなった後に、馬鹿な妹が最初に思いついたのが良い事をすれば許してくれるかも、という勘違いによるものだったからだ。
その考えは、縁が正義の行いを始めた原点。
自分を捨てた親に帰って来て欲しい。
ならどうすればいい。
自分は悪い子だから捨てられた。
じゃあ良い子になろう。
良い子になるには良い事をしよう。
良い事は、正義の行い。
子供の頃の考えが、今歪んだ形で。
再び行われた。
ガキの頃はよ、お前を哀れに思って止めなかった。
今お前が正義に溺れ、ガキのままになっているのは、俺にも責任が在るんだ。
今度は止めてやる。
だが勘違いすンなよ。
テメーの為『だけ』じゃねェ。
親友で在るへーじの為だ。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
縁が拳を握り締めて俺に向かって走り出す。
壊れかけた大切な物に、これ以上触れて欲しくないと、触らせないように引き離そうとする様に。
直線状の顔面へのストレート。
縁の必死な形相と共に、豪腕の拳が俺に襲い掛かる。
ギリギリまで引き付けて顔を横に傾けた。
在り得ない速さの拳が頬を掠める。
無防備になった縁に向けて上から容赦なく拳を振り下ろす。
俺の拳は縁の顔面を捉えた。
「ぐっ! うぅ!」
呻き声を挙げながら縁が一歩二歩後ろへ下がった。
防御する気がねーのか、防御する余裕が無いのかは知らないが、つけこませて貰うぜ。
縁は直ぐに俺に向かって飛び上がる。
空中で縁が体を思いっきり捻る。
来るのは空中からの全体重を掛けた横の回し蹴り。
右からの蹴りを、俺はタイミングを合わせて右腕で防いだ。
すざまじい打撃音が響き渡る。
縁の蹴りは防げたものの、右腕が痺れて動かない……!
防いでもダメージを与える蹴りにゾッとする。
なんっつー蹴りだ!
単純な、野郎め!
「っ痛……」
痛みで声が漏れる。
拳が軽いと言われりゃ蹴りかァ? 単純なンだよテメーは!!
まぁ、確かに強烈な蹴りだ、防いだ右腕が芯まで痺れやがる。
俺は縁が着地する瞬間を見逃さない。
痺れた右手は使い物にならない。
そうなるのは解っていた。
溜めた左で拳を作る!
一歩前に足を踏み出し威力をつける。
距離も位置も完璧に捉えたゼぇぇぇオラァァ!!!
ブゥン!!
「!?」
威力を付けた拳は空を切った。
着地のタイミングも完璧だった!! 何故避けられた!?
その疑問は直ぐに解決する。
着地の瞬間を狙った俺だったが、縁は着地した瞬間のコンマ数秒で上体を後ろに逸らしやがった!
以前テレビで見たイナバウアー? とかいうのを思い出した。
体の柔らかい縁だから出来る避け方だ。
条件反射にしちゃ、とんでもねェな……!
縁はそのままバクテンをしてぐるんと周る。
下はコンクリートだというのによくやる。
体勢を立て直した縁の行動は早かった。
俺に向けて突っ込んでくる。
縁の頭突きがモロに鼻に入った。
女が、チョーパン(頭突き)!?
勢いにやられて後ろに下がってしまった。
ボタボタと流れる鼻血を抑えながら顔を挙げる。
俺は直ぐに身構え、縁の攻撃を受け止めるつもりだった。
だが。
……!
縁の顔を見てしまった。
喧嘩中に相手の顔を見るのは当たり前だ。
しかし、その顔を見て俺は一瞬、間を作ってしまった。
お前の目からポロポロと流れるソレは、雨、か?
「ァァァあああああああああああああああああああああ!!!」
雄叫びを上げながら縁は拳を振りかぶり俺の顔面に叩き付けた。
「っ!!!」
っがぁ!?
完全に鼻は、イったぜクソが!!
縁はそれでも手を止めない。
立て続けに拳を振るう。
小さな子供が喧嘩をする時に、何度も必死になって殴る様に。
縁の拳は強烈で、俺の体を何度も左右に揺らせる。
けどよ、やっぱ、この程度かよ。
殴られ続けながら、俺はぼうっとしてしまう。
確かにイテェよ。
でもな、やっぱ。
軽いよ。
必死になっている縁に殴られながらも、俺は拳を思いっきり握り締める。
コイツも辛いんだろう、な。
サッサと、終わらせようぜ。
「ウォ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
殴られながらも、雄叫びを上げながら無理矢理振りかぶる。
振り下ろす瞬間に、ふと幼い頃の記憶が浮かんだ。
子供の頃に、イタズラをした縁を叱る為に一度だけ、小さな自分が、その小さな体に見合う小さな拳を作って、縁の頭を叩いた事があったっけ。
あの後、ワンワン泣かれたっけ。
そういや……それ以来か。
ガキの俺が縁を叱る事をしなくなったのは。
ゴメンな。
下を叱るのは、上の役目なのに。
ゴメンな、役目を果たせなくて、ゴメンな。
変わりに、今お前を覚まさせてやる。
頭の中で縁に謝った。
謝りながら殴るってのもどうかと思うけどさ。
渾身を込めた拳は、縁の顔面を捉えた。
確かな手応えと共に、縁は吹っ飛ぶ。
幾ら縁でも、女の子である事に変わりない。
軽い体は、大きく浮いた。
コンクリートの地面に打ち付けられ、小さく跳ねるとそのまま狭い路地の壁にぶつかった。
ずるずるともたれていた壁から落ちると、ペタンと座り込む。
「う……ぁぁ……」
縁は薄く声を漏らす。
立ち上がる様子は無い。
「う……、うう〜〜……」
先程までの叫び声の変わりに、呻き声の様な物が縁から聞こえた。
必死で食い縛るも出てしまった様な、悲しい声。
俯く縁の顔から、綺麗な雫が落ちた様に見えた。
…………。
ああ、雨だろ。
その雫はきっと雨だ。
俺なんかに見られたい物じゃ、無いだろ。
俺は、何も言わずに縁に背を向けた。
後ろから、小さな声で、『へーじ……』と、言ったのが聞こえた気がした。
……雨音が五月蝿くて、
俺は何も聞いてない。
友人達と久々に遊び、私の家で泊まる事に。
友人C「て、てめ! スプーン投げてくんなよ!!」
友人B「っは!?投げてねーし!!」←投げた
友人C[このヤロウこのヤロウこのヤロウ!!!」
友人B「痛!! 本気で殴んなよ! イテーじゃん!!」
友人A・私「…………」
私「あれ? コイツ等本当に18歳?」
友人A「俺たちはいつまで経って変わんねーな」
私「……いや、かわろーよ! 大人になろうよ」
友人A「いつまでも俺らでいれるなら、その方がよくね?」
少し寂しそうにそう言った友人Aは、何が言いたかったのでしょうか……。
友人C「え、止めろよ!」
友人B「何観戦してんだよ! っていうか助けろよ!」
取り合えずトランプをしようと提案→大富豪→友人Cが私のトランプのジョーカーを無理矢理奪い取る→喧嘩になる→嫌な空気になる→寝る。
友人達はあまり変わらず楽しく色々と遊びました。
やっぱ友人って、大切ですね。