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159/189

その158.女性

 意識と無意識の境界線と言うべきか。

 僕はそこに居た。

 見えないし、動けない、だけど誰が居るかは解った。

 気配と言うべきなのか……そんな不確かな物を感じ取った僕は不快な気分になる。

 そういう理屈的な物を抜いたのはどうも好きになれない。


 最初にクラスの皆や先生が来たのが解った。


 だけど直ぐに帰った。


 別に帰った事には不満は無い。

 取り合えずは純粋に嬉しかった。


 サクとミホだけ残ったのも直ぐに解った。


 それも嬉しかった。

 アイツ等らしいと言えばそうだ。


 長い時間の後、サクが何かを語りだし、その後にサクが外に出て行くのが解った。

 ミホも少しの間居たけど、慌てたように出て行った。


 どちらも何かの話をしていた。

 おおよそだが、サクは縁の話をしていたのが感覚的に解った。

 しかし、ミホが何の話をしているのかは解らなかった。

 いや、ミホが解ってほしくなさそうで、

 それに無意識に気づいた僕は解ろうとしなかっただけかもしれない。



 僕は一人になった。


 意識が有るのか無いのかの曖昧な状態は中々どうして暇でしかない。


 動けないけど、考える事は出来るんだ。


 もう一人の僕が言った言葉を今更に理解した。

 考える時間は幾らでも有る。


 縁は、どうしたんだろう。



 ……どんだけ考えたとしても。

 結局僕は動けないんだ。


 何も出来ない。




 その時、部屋に誰かが入ってきた。


 ……誰だ?

 忘れ物を取りに来た……という具合では無い。

 ミホやサクで無いのは確かだ。

 

 志保ちゃん?

 それも無い、あの子はきっと今頃は縁を探し続けているだろう。


 もしかして……縁?



 だけどそれも違う気がした。

 いつもの豪快な感じが無い。


 淡々とした動作には、何か懐かしいものを感じた。


 部屋に入ってきた人間は僕のベッドの隣の椅子に座った。



「無茶をしましたね」


 

 気絶している僕の体は言葉を聞き入れる事は無い。

 しかし、透き通った声が僕の耳にハッキリと聞こえた。

 少し低い程度の、それは女性の声だった。

 

 心に届くその声は、確かに知っている声だ。


 届く筈の無い声に最初は疑問を感じたが、直ぐに納得する。


 そうか、これは夢なんだ。


 いやいやオカシイとは思ったんだよね。

 見えていないのに、サク達が居るのが解ったり、話している事を聞いていないのに何となく解ったり……そりゃ夢だわ。

 

 僕の額にひんやりとした心地いい感触が伝わってくる。

 女性が僕の額に手を置いたのだ。

 その手に優しい物を感じた。

 これはやはり夢だ。

 僕の知っていると思った女性は、こんな優しく僕には触れない。

 

 現実的な思考を常とする僕は、直ぐに夢だと思い至ったのだ。


 夢だったら何だって出来る。

 僕から声をかける事も出来るかもしれない。


『別に無茶をしたつもりは無いけど……』


 僕とは違い、驚く様子を見せずに、女性は直ぐに言葉を返してきた。

「そうでしょうか? それにしては、随分と……ボロボロですね」

 笑った様な言い方に、馬鹿にされているようで少しムッとしてしまう。


『……別に、只の気まぐれでしかないよ』


「そうでしょうか?」

 女性は再び同じ言葉を繰り返す。

 そして続ける。


「医師免許の無い上で、設備の何も無いあの空間で人を捌きましたね」

 銀行内で僕が中年の体から弾丸を取り出したのは紛れもない事実だ。

 あの状況とはいえ、罪にはなるだろう。


「度を超えた正当防衛に、警察は目を瞑るでしょうか」

 犯人の一人を黒コゲにした。

 自分でもやり過ぎたとは思う。


「……どれもこれもが、自らも警察に捕まる覚悟が在った上での行動でしょう」



『……』

 その通りだ。

 『死ぬ覚悟』も、『捕まる覚悟』もあの時には在った。

 


 『殺す覚悟』も。 


 何故そこまでした。


「何故そこまでした」

 僕の思った言葉を彼女は暗唱するかの様に零した。

 その言葉には、何処かしらの怒りまで見えた気がする。


「話は聞いています……一人の少女の為にそこまでしたんでしょう」

 何処で聞いたんだか。


「へーじ」

 

 僕の名前を呼ぶのは久しぶりじゃない?


「あそこまで人を信じる事をしなかったアナタが、どういう風の吹き回しですか」


 その言葉に嫌味が含まれているのが解った。

 ……っは、成る程。

 毒を含む言い方は僕と似ていて、やはり彼女なのだと理解する。


「親に捨てられ、叔母に捨てられ、友に捨てられ、自身を捨てたアナタが……今更人を信じるんですか?」


 今度の言葉に怒りは無い。

 心の底からの疑問という感じだった。


 ……そんな事言われてもさ。

 自分でも解ってないって言ったら怒られそうだ。


 だけど。

 

『知らないよ』


「……え?」

 冷静沈着な彼女が少し困惑した様な声を挙げた。

 まさかそんな言葉が帰ってくるとは思わなかったのだろう。


『ただ……ほっとけないだけだ』


 そう、ただ『ほっとけない』だけなんだ。

 それ以上も無いし、それ以下も無い。


「それだけ? それだけの為にそこまでの覚悟を?」

 

 そんな呆れたような言い方されても……。

 それ以外何も言えないのだから仕方無い。


 しばし呆然とするかの様な間が空いた。

 

 その後、女性は更に呆れたと言わんばかりに大きな溜息を吐く。


『馬鹿にするなら好きなだけしろよ……本当にそれ以外言えないんだから』



 しかし、女性は馬鹿にする所か、フフ、と小さく笑い声を挙げた。



「そのほっとけない子を、今ほっといて良いのですか?」


 何か嫌味ったらしい言い方だ。


『……仕方無いだろ、動けないんだから』

 そうさ、ほっとけないあの馬鹿を追いかけたいのは確かだけどさ。


 彼女は再びクスクスと笑い声を挙げる。

 それがどうした、と言うのかのように。


「アナタの友達が言ってたじゃないですか」


 ……? 何を言ってたっけ?


「感情で動く、でしょう?」


 

 

 …………感情。


 理屈云々では無い根性論。

 僕が最も馬鹿にしていた熱血論。




 その言葉と共に、僕は思いっきり起き上がっていた。


 起き上がると同時に体中が悲鳴を挙げたのが解った。

 その痛みに歯を食い縛る。


 痛みが和らぐと共にゆっくりと辺りを見回した。



 そこには誰もいなかった。

 薄暗がりの狭い部屋には僕だけだった。


 やっぱり夢だったのか。


 そうさ、あの人が居るわけも無いか。


 

 ……さて。

 動けたんだし、ほっとけない馬鹿を、助けに行くか。


 僕は立ち上がり、部屋を後にする。


 行動は、感情に任せて。




 





 部屋を出て走り出すへーじの後ろ姿を目で追っていた。

 顔に掛かる長い黒髪がを掌でそっとどける。


 その痛がりながらも少しでも急ごうとしている背中を見て、薄く笑った。


 へーじは、今強くなろうとしている。

 私は、見守らなければならない。

 

 亡き親に代わり、私が最後まで見届けなければならない。


 へーじは素晴らしい友達を持ったと思うと嬉しかった。


 実はこっそりとへーじ達の会話を聞いていた。


 へーじの為に変わりに止めに行こうと走り出した男の子と、へーじに思いを寄せるが為に力になりたいと思う少女を私は見ていた。

 どちらもが似ている様で全然違う意味合いで。

 

 本当に……良い友を持ちましたね。


 へーじが暗がりから消えていく。

 

 そこで噴出すように笑ってしまう。


 へーじの気になる子ってどんな子でしょうか?


 将来的には、私の義妹になるかもしれないのだから気になってしまう。

 

 是非、一目みたいですね。


 簡単に考えて、再びクスクスと笑った。


 姉として、純粋に変わりつつ在るへーじが嬉しく思えた。 




更新が遅くなってもうしわけありませんでした(汗

家庭の事情と言うべきでしょうか。。


次の更新は早く出来る様に頑張りたいです!

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