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その157.舞台だけあっても意味が無いでしょ?舞台と人で、始めて物語は始まるの

 縁ちゃんの過去。

 縁ちゃんが養子である事を始めて知った。


 そして、サクが、縁ちゃんを嫌う理由がわかった。

 それは決して縁ちゃんが血の繋がらない存在だから、では無い。

 

 縁ちゃんでなく、『正義』が嫌いなのかもしれない。

 

 自分の妹は、『正義』という言葉に縛られているんだ。


 サクの過去を私は知っている……。

 サクは昔から体が大きかった。

 昔、その見た目のせいで悪役の様に扱われていたらしい。


 そのせいもあるのかもしれない。


 サクは手に持つ缶ジュースを一気に飲み干すと、固い缶ジュースを握り潰す。

 生まれながらに持つ巨体や力は、成る程、悪役として見られる事はあるのかもしれない。


 

 そして、私とへーじに背を向ける。

 サクが向いた方向はこの部屋から出るドア。


「どこに行くの?」


 本当は聞かなくてもなんとなく解る。


「……変な方向に歩き出した『下』を止めンのは、『上』の役目だ」


 下が縁ちゃんで、上がサクなんだと思った。

 その言葉が、縁ちゃんを大切な妹と見ている気がして、何か嬉しく思う。


 ってことは、『正義』は変な事じゃ無いんだ。

 と、私は簡単に推測した。

 縁ちゃんの今迄の『正義』を、そこまで力ずくで止めようとはしなかった。

 

 サクは、きっと縁ちゃんが嫌いなわけじゃない。

 サクは、血が繋がっていない、なんて理由で毛嫌いする人間じゃない。



 何処までも馬鹿な男だけど。

 馬鹿だからこそ、余計な考えがそこに無い。



 縁ちゃんとはまた違う光、いや炎と言った方が、サクらしいかもしれない。

 縁ちゃんの掠れた火に、自らの火種を付けに行く気なのだ。

 きっと今の縁ちゃんと出会えば戦う事は免れないだろう。


 しかし。


「今の縁ちゃんと、喧嘩して勝てるの?」


 私は幾度か縁ちゃんとサクが喧嘩をしているのを見ている。

 だけど一度も勝っている所を見た事が無い。

 サクが弱いので無く、縁ちゃんが強すぎるのだ。


 何も言わないサク。

 サク自身も、そんな事は解ってるんだ。



 だけど、サクは小さな声で笑い飛ばす。

 まるで寝ているへーじを起こさないようにするかの様に小さく。


「悪いけどよ、勝算がどうとか考えて動くんじゃねェ、感情で動くんだよ」


 少しだけ振り返ると、ニッとサクは笑う。



 それはとても馬鹿らしい考え。

 感情で動くのなんて、人は馬鹿げていると思うだろう。

 だけど、それが必要な時もあるんだと私は思うよ。


 何も言わなくなった私に、もう用は無いと思ったのだろう。

 サクは部屋から出て行った。

 

 また私とへーじだけが部屋に残った。





「…………」


 私とへーじの二人だけ。

 喋れないへーじと、喋らない私。

 勝手に口が動くような私達には不釣合いな光景だと思わない?

 そんな勝手な私は、勝手にそう思って、クスリと小さく笑う。


「へーじ、知ってた?」


 聞いてるかどうかなんて知らない。

 私が喋りたいから喋る。


「私ね」


 そこで口を噤む。

 自分が何を言おうとしてるのか、解らなかったのだ。

 私は、何て中途半端な人間なんだろ。


「……」


 そして何て卑怯な人間なんだろ。

 相手が答えられない状況で、押し付けるように、自分が満足したいからって私は……私は。


「へーじの事」

 それでも勝手に口が動く。

 何でだろう。

 私は何で『今』言おうとしてるの?


 きっと正直なサクが羨ましかったんだ。

 口に出さなくとも、正直に動く縁ちゃんが羨ましかったんだ。


 だから言いたい。


 今更、私もアナタ達の舞台に上がりたいと思った。

 

 見ているだけで良いなんて、ただ不貞腐れてただけの言葉だったんだ。

 私こそが、誰よりもアナタ達に憧れていた。

 そして、同じ舞台に上がらなければ見えない物が、手に入れれる物があると。


 本当に、今更だけど。



「へーじの事が好き」



 そう思い切って言った後、顔に血が上がっていくのが解る。

 慌てたように、私は小さく『かも……』と付け足した。

 確かに自分でも解っていないのは確かだけど、逃げるように言葉を付け足す私は何処までも卑怯なのだ。

 聞いている筈の無いへーじを前にして言ってもこのざまだ。

 本人を前にして言ったら卒倒するだろう。


 笑ってしまう。


 へーじを子供と、サクを子供と、縁ちゃんを子供と、妹を子供と。

 そう思っていた私自身があんまりにも子供だと理解した。


「……私も縁ちゃんを探すよ」


 言いたい事は言えた。

 私は舞台に上がるよ、でもね。

 傍観者だった私が、突然主役の一人になる気は無いから安心して。

 私はまだまだ背景(脇役)で構わない。

 あなた達の世界を作り出す背景で構わない。

 だから、縁ちゃんを探しだして、アナタ達のステージをもう一度作るよ。


 ヒロインがいない舞台なんて……むさ苦しいだけだしね。


 そう心の中で零し、一人クスクスと笑う。


 私は立ち上がって、サクの後を追う事にする。

 サクは多分考えなしに縁ちゃんを探す気だ。

 だったら二人の方が見付け易いだろうし……。


 ドアを開けて、一度だけ振り返る。


 主役は今も眠り続けている。


 自分の出番はまだだと言うかの様に、安息の眠りについている。


 私はそれを見て再び笑う。


 今回のステージのヒロインは縁ちゃん。


 私は脇役。


 だけど。


「次のヒロインは、私だからね」

 そう言って悪戯っぽく何時もの様に満面の笑みを向ける。

 見ていなくて良い、寧ろ見ていない方が良い。

 聞いていなくて良い、寧ろ聞いていない方が良い。


 見て、聞かれていたら、きっと私は赤面してしまう。

 嘘吐き少女は、本音を喋るのが苦手。

 嘘を付くのが当たり前になってたから。

 嘘付き少女は嘘を吐くだけ。


 本音を喋るのが、とっても恥ずかしいから。

 

 ドアを開けて外に出る。



 ドアの外には廊下が続く。

 サクの後を追う為に走りだそうとした時。


 廊下の壁にもたれ掛っている女性が居た。


 急いでいるので、あまり関心して見る事は出来なかったが。


 パジャマ姿を見ると、この病院に入院している女性なのだろう。

 綺麗な黒髪をなびかせるその女性は、誰かに似ている気がした。

 

 誰だっけ……さっきまで見ていた様な気がするんだけど……。

馬鹿という一言で区切らなければ、きっと様々な馬鹿が居るでしょうけど、きっとサクのような馬鹿は、良い奴という遠まわしな言い方なんだと思う。

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