その151.もし君が居たら
だけど僕が今見ているのは学校の中の映像だけ。
家の中の映像は無かった。
僕の考えに合わせるかのように映像は僕の家へと変わった。
昔の家に比べて小さくなったが、それは構わなかった。
問題はそこじゃない。
映像では、母が僕を殴っていた。
守る様に蹲る小さな僕にお構いなしに拳を振り上げる。
それを止めようと泣きながら母の腕を掴んでいる姉。
優しかった母は父が捕まってから消え去った。
仕事には向かうし、料理も作る。
そこは変わらなかった。
だけど、突然僕を殴り出す事が毎日の様に起こった。
姉には手を出さない。
別に僕が憎いとかで無く。
父が、僕と被るらしい。
まだ、殴られるだけなら良かった。
殺される事は無かったから。
それに、いつか元の優しい母に戻る事を僕は期待していた。
だが、期待はある事を機に、消え去った。
映像が変わる。
いつもの様に仕事から帰ってきた母の表情は真っ青だった。
この時の僕には解らないが、後から解った。
仕事がクビになったらしい。
いつも以上に、執拗に僕を蹴る、殴る。
「なんで……なんで私がこんな目に合うのよ……なんでよ、なんでよ」
ブツブツと呟く声は、小さな僕に言っても無駄な事だ。
終いには、僕の首を締め出した。
「なんでよ! 教えなさいよ!! 教えなさいよおおおォォォォォ!!!」
今迄殴られて来たが、初めてまずいと思った。
意識が遠のく。
その時、最後に僕が見たのは、鬼の形相の母。
そして、その後ろに立つ姉。
涙を浮かべながら、姉の手には包丁が握られていた。
目を覚ますと、そこは病院だった。
医者や警察から色々と話しを聞き、何が起こったのかを理解した。
姉が母を後ろから刺し、僕を助けてくれたらしい。
姉は正当防衛になる物も、警察に連れて行かれた。
母は僕に向けた虐待が露見して捕まった。
その後、捕まったその日に刑務所内で首を吊って自殺した。
あまりにも簡単に母は死んだ。
これも大きくニュースに放映された。
母を刺した姉。
息子を殺そうとした母。
まだ父の事件が人々の記憶から消え去っていない時に取り上げられたニュースだ。
その名前の苗字で、僕の父の家族である事は解っただろう。
いじめは悪化し、味方である筈の教師ですら僕を軽蔑の視線で見ていた。
『朝倉』
僕の苗字。
僕の苗字が僕を苦しめた。
その時から、僕は期待する事をやめた。
皆、母や父の様に死ねば良い。
胸の中でドス黒く溜まるそれは負の感情。
当時、中学生に上がって間もない時だった。
そこに光の無い目を持つ僕が居た。
『本当に最悪の過去だね』
五月蝿い……。
耳元で聞こえる声は、僕自身の声。
『君の母親みたいにさっさと死んじゃえば良いのに』
五月蝿い。
『子供という枠内でも、死を覚悟する事は出来た筈だよね?』
う、るさい……。
『なのに君は死ぬ思いは在っても行動する事は無かった、かといって立ち向かった分けでも無い』
……。
僕の過去の映像は流れ続ける。
『君は待っていたんだ』
映像の中に、僕の知っている過去の中に、居ない筈の人物が居た。
僕よりも身長が低いのに、イジメられている僕を守るように立ちはだかる少女。
猫目の鋭い瞳は苛めっ子達を睨む。
きっと、僕がこの年の時、この子はこの位の年なのだろう。
いない、君はここにはいない。
何で、なんで!?
「やめろ! やめろ! やめろォォォォ!!!」
叫び声を挙げていた。
お前の馬鹿らしい行動に、吐きたくなる!
最悪の偽善だ!! 余計に辛くなるだけだ!
お前が僕ならば気持ちは解るんだろ!
過去に君が居たら……そんな事を考えても無駄だって解ってるだろ!
…………。
「そうさ……」
無意識に言葉が漏れた。
蛍光野郎が……『僕』が何を伝えたいのか、言われなくても解る。
彼女が。
この時に居ればきっと。
僕はまた違っただろうね。
「そうさ! 僕はずっと待っていた! 彼女の様な正義の味方を!!」
子供なればに正義を信じていた。
子供の様な僕と、年ながらに冷静な考えを浮かべる僕。
そんな物が存在するわけが無い。
きっといる、僕を助けてくれる
全く正反対の考えが、僕の行動を鈍らせた。
死ぬ事も、抵抗する事もしなかったのだ。
「何が言いたい!! 僕をどうしたい!! 笑いたいのか!?」
叫び声は悲鳴の様に、泣き声の様に。
『……』
何か……言えよ……
バイトを始めました。
高校のときに少しやっただけだったので自身は無かったんですが良い人ばっかりでこれから迷惑をかけないように頑張りたいですね〜
部活とバイトの両立って大変そう。。。
でも頑張りますよ><