その14.人を引きずってはいけません。普通やりません。
「なー、へーじー! メシ行こうぜ!!メシ!!」
等というやり取りの後、僕とこのハカは結局付き合いが続いているのである。
……不本意ながら。
「なー! 俺腹減ったんだけど」
「うるっさい、そのまま餓死で死ね」
キョトン、とした顔をした後、サクは笑う。
「バッカだなー! 腹減って死ぬわけないじゃん」
僕とコイツの出会いの時から思っていたが、この男は強烈な頭をお持ちのようなのだ。
餓死ってのは『餓え』で『死ぬ』って意味なんだよ! 何でこの言葉が解るのに、意味はわかんないんだよ!
つまる所、良くわからない頭の持ち主なのだ。
僕にはこの男の脳内が理解出来ない。
そしてしたくもない。
「ほら行こうぜー!」
と言いながら僕の首の直ぐ後ろの部分を引っ張った。
抵抗するも、圧倒的な力の差で椅子から引き摺り下ろされる。
今は昼休み中である。
お腹が減るのは解る。
だけど、
「腹が減るのは解るけど、一人で行きなよ!」
「バカヤロウ! 寂しいじゃねぇか!」
「寂しいなら他と行け! 馬鹿サク!」
「アー! てめぇ! 馬鹿って言ったな! 馬鹿っていう奴が馬鹿なんですー!」
「小学生!? ってか君もバカヤロウて言ったけどね!」
等というやりとりをしながら、僕は廊下を引きずられていく。
歩かなくて楽だけど、周りの視線が痛い。
「うるっさい! バーカ! バーカ!」
小学生の様な発言を初めたサクに対し、僕は半ば諦めてそのまま引き摺られる事にした。
僕が言い返さなくなったからか、サクもそのまま黙った。
ボケッと周りを見渡す。
皆当然ながら目を逸らした。
気持ちは解ります、でも僕をこのバカと同じ様な目で見るのはやめて。
等と思っていると一人の少女と目が合った。
ビクッと体を揺らした少女は今更反らせない様で、困った表情で僕をみつめる。
ショートカットの少女で、可愛い。
……手を振っておこう。
引き摺られながら、ヒラヒラと手を振る。
再びビクッと体を揺らすも、同じ様に手を振り返してくれた。
良い子だなぁ。
人生をマイナス路線で突っ走る僕にとってささやかな癒しがそこに在った。
癒しは通り過ぎて行く、曲がり角を曲がるまで癒しの少女を見ていた。
見えなくなると、あの雪の日の事を思い出した。
あんな癒しの少女とは正反対の暴力女が脳裏を過る。
「……」
もう会いたくない筈なのに、縁が浮かんだ。
最後に言った言葉を思い出した。
「ねぇ、サク」
何となく僕を引きずるサクに向けて声を出す。
「あー?」
適当な返事が返ってくる。
「『正義』って何だと思う?」
その言葉を出した瞬間、サクは立ち止った。
突然に立ち止まったので、勢いで僕は一瞬浮いた。
サクの僕の服を持つ手に力が入ったのが解った。
僕は驚いて、サクを見上げた。
その表情はいつものアホ面では無く、困ったような、驚いたような表情をしていた。
サクはたまにこの様な表情をしていた。
それは必ず廊下を歩いている時、
時々この表情をする。
そして、前に向けている目線を別の方に反らす。
目線を別に反らすのだ。
今回は、目線を反らす事は無かった。
その瞳はそのまま真っ直ぐ僕を見た。