その147.私は最低、きっと最低、最低で在って欲しい。
縁ちゃんが大人しくなった後、警察達は自分の仕事に戻っていった。
本来は縁ちゃんも、他の人質だった人達と同じ様に事情徴収があるのだろうが……。
あんな縁ちゃんを見た後では、幾ら警察でも話しかける気にはなれないだろう。
へーじにも救急隊員の人間が応急処置を施してくれた。
先程まで流れ続けていた血が止まっている。
怪我の事は解らないが、ひとまずは安心……なのかな?
血だらけになった男も別の救急隊員に応急処置を施されていた。
縁ちゃんが男の方を見ないようにしているのは、気のせいでは無いだろう。
自分のやった過ちは解っている様だ。
「知り合いの方も一緒に乗りますか?」
救急車にへーじを乗せた後、白いヘルメットの救急隊員と思われる人物が私達に声を掛けた。
そんなつもりは無かったのだが、へーじから離れない私達に気を使ってくれた。
有無を言わせずに直ぐに乗り込むサク。
その後に私も乗り込む事にした。
へーじの身内にも連絡しなきゃ行けないだろうし、 サクだけじゃ対応出来ないだろう。
乗り込んだ後、
縁ちゃんと目が合う。
行きたそうにしているのは眼で解った。
自分も行きたい、へーじが心配だ。
そう語りかけてくる。
子供の様に目で訴えるこの子は……本当に縁ちゃんだろうか?
だが、自分がした過ちを解っている縁ちゃんは……言葉として、口に出すのを躊躇っている。
だから言って欲しいのだろう。
……だけど。
「縁ちゃんは来ない方が良いよ」
私の言葉にショックを受けたのか、とても悲しそうな表情を浮かべる。
胸が痛んだ。
だけど、今はダメ、きっとダメ。
俯く縁ちゃんに、諭す様に私は口を開く。
「縁ちゃん……頭を冷やした方が良いよ」
へーじは多分今から手術になるだろうし、そんな状態を縁ちゃんに見せるのはマズイと思った。
今の縁ちゃんは、あまりにも精神が不安定だ。
いつ再び頭の糸が切れるかも解らない。
落ち着かせるのが先だ。
何も言わない縁ちゃんは、同意してくれたと考える。
次に私の視線は志保に向いた。
「縁ちゃんの事、お願いね」
志保は控えめに頷いてくれた。
志保にだったら危害を加えるとも思えない。
安心して縁ちゃんを任そう。
そう思った時。
「大丈夫……」
縁ちゃんが口を開いた。
か細い声で、そう言った。
縁ちゃんは私たちに背を向けると、フラフラと歩き出す。
「縁!」
心配そうな声を込めて志保が縁の名前を呼んだ。
縁ちゃんは立ち止まるも、振り向く事は無い。
「お願い……一人に、して」
それだけ言うと縁ちゃんは再び歩き出す。
その姿にいつもの元気は無い。
それに、歩く足元が覚束ない。
確実に、今縁ちゃんを一人だけにするのは不安だ。
私も呼び止めようと口を開こうとする。
しかし、
「ほっとけよ」
サクが遮る様に言った。
何を思って言ったのかは解らないが、先程縁ちゃんを止めてくれたんだ。
サクにも考えがあるのかもしれない。
「縁ちゃん……」
縁ちゃんは私達の視線から離れていく。
大丈夫……かな。
志保は、縁ちゃんの後を追っていった。
何処までも良い子だ。
ここは志保に任せておこう。
救急車の後ろのドアが閉まる。
即座に車は動き出した。
へーじは止血をされ、今は口にチューブの様な物を当てている。
眠っている様な表情のへーじをジッと見つめる。
へーじは縁ちゃんを守ってこうなった。
私が縁ちゃんを守るようにけしかける様な事を言った記憶が在る。
責任は感じている。
だけど、それ以前に。
へーじは命を張って、縁ちゃんを守った。
羨ましいなんて言ったら……ちょっと不謹慎かナ。
もしかして、私は縁ちゃんに嫉妬してる?
だとしたら、私は最低だ……。
だから……来ない方がいい、なんて言ったのかな。
違うと思いたい。
ちゃんと理由が在るのだと。
なのに、私の中には申し訳なさで一杯になる。
私が嫉妬する意味なんて無いのに……。
好きじゃないのに。
私……酷い子だ。
ボーっとへーじを見ていると、視線を感じた。
不思議に思い、顔を挙げると、何故かサクが訝しそうに私を見ていた。
……何?
「……変な事すんなよ」
「ッブ!」
サクの突然の発言に思いっきり吹いてしまった!
あらら、へーじの顔に思いっきり掛けちゃった(唾を)。
ま、まぁそれは置いといて!
「な、何よいきなり!」
「いや、ずっとへーじ見てるから……」
こんな時にまでボケないでよ!。
アタシはあからさまに溜息を付いて見せる。
「サクこそ! へーじに変な事しないでよね!」
「え、ダメ?」
ちょ! ちょっと! 何言ってんのよ!
何となく言った言葉に予想外の反応が帰ってきた。
「ダメに決まってるでしょ!」
へーじ……早く起きてよね。
私一人じゃこの馬鹿の対応は出来ないよ。
風邪の野郎が私に喧嘩を売った様です。
いいだろう……その喧嘩、高値でバーゲンセールしてやる!!
−次の日−
いや、ほんっとすんませんっした……もう生意気な事言わないんで勘弁して下さい……
あ!やめてやめて!!頭痛を重点的に攻撃しないでェェ!!
皆さん、病気の喧嘩を買うのでは無くて……大人しく薬を買ってきましょう。。
しんどー……
いけると思ったんです……39度ぐらいなら返り討ちにしてやんよ!って思ってたんですよ。。。
逆にやられました^p^