その143.思いが、心が、感情が、
外は夕暮れ、だろうか?
真っ赤な太陽で目が眩む。
大分長い事この銀行内に居たようだ。
肌寒い風が傷に浸みる。
アタタ……自分でも驚く程に無理したもんだな。
眩む目に慣れた頃、大勢の野次馬が集まっているのが解った。
その中でも一際うるさい人間が居るようで、うるさい声が耳に障る。
「へーーーじーーー! へぇぇぇぇぇじいいいいいぃぃぃ!!!」
この無駄にデカイうるさ過ぎる声。
なんだか久しぶりな気がする上に、懐かしい、いつもの日常だ。
なんであの馬鹿が居るのかは知らないが……。
そちらに視線を移すと見慣れた三人の姿が見えた。
涙目になってブンブンと手を振っているサク。
安心した様な笑みを向けるミホ。
その隣で志保ちゃんが僕を見つけた後、控えめな笑みを見せ、そしてキョロキョロと辺りを見渡しだした。
親友である縁を探して居るのだろう。
心配しなくても縁は後ろから来てるよ。
それを見せるように、後ろを振り向いて確認する。
そこで、僕は固まってしまった。
縁は確かに僕の後ろを歩いてきていた。
だが、僕の視線は縁を通り越して更に奥。
既に警察達は銀行の奥へと消えていった。
銀行の広間には誰も居ない筈だった。
だが、そこに目を血ばらせた覆面が居た。
血だらけの片手をぶら下げ、もう片方の手は拳銃を握っていた。
銃口の向きは、縁。
後ろを向いている縁は気づいていない。
他の野次馬達も、銀行内までは見えていないらしい。
僕に肩を貸している警察官も気づいている様子は無い。
つまり、気づいているのは僕だけ。
背筋を冷たい物が走り抜ける。
ふざけんな!!
折角……折角助かったのに、もうすぐでいつもの日常に帰れるのに!
やらせるか!
やらせるかやらせるかやらせるかやらせるかァ!!!
僕に躊躇いは無い。
歯を食い縛って体を突き動かす。
時間は無い。
肩を貸してくれていた警察官を押し退けて走り出す。
痛がっている暇なんて無い、
決めたんだ! 守るって! 絶対に……絶対にやらせるかァァァ!!
驚く縁の表情が近付いて行く。
あいっかわらず……色々な表情するよね君は。
後一歩で縁に手が届く。
突然の事で動けないのか、
幸か不幸か縁はそこから動くことは無かった。
その最後の一歩を踏み出す。
最大限まで手を伸ばし、縁をそのまま突き飛ばした。
縁は簡単に浮いた。
あんな怪力馬鹿なのに、女の子の様に軽い。
嫌、女の子だけど……。
あまりにも簡単に突き飛ばすことが出来た。
女の子である事を今更認識してしまう。
驚いた表情のままの縁が離れていく。
縁が視線から消えると、その先に居たのは覆面の男。
引き金を丁度引く瞬間が見えた。
男の血走った瞳が驚きの色へと変わったのが解る。
ザマァみやがれ。
最後まで、お前たちの思い通りになんかさせねーよ……
させてたまるか!
パァン。
短い銃声音。
一瞬、胸を強く押された気がした。
僕の体は後ろへ倒れる。
倒れながらも、頭の隅で冷静に考えていた。
胸を撃たれた、心臓の近くを撃たれたか。
血が止まらない。
目の前が霞んで来る。
出血多量による眩暈。
固い床に打ち付けられる。
銀行内の床とは違うコンクリートの固さ。
倒れた痛みが在る筈なのに、それよりもドッと眩暈が襲った。
突然の眠気は、危機的状況に体が一時的に停止させようとしているのだ。
目蓋が降りる前に、呆然と僕を見下ろす縁が立っていた。
その表情には、いつもの豊かな表現が無い。
全くの無表情。
未だに何が起こったのか、理解出来ていないのだろう。
目を瞑る前に僕を見下ろす縁が無事か確認する。
大丈夫そうだ。
ん、良かった。
僕はそのまま目を瞑る。
「ア……ア……」
意識が断ち切られる前に、か細い声が聞こえる。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
耳を劈くような、悲鳴とも絶叫とも取れない声が。
響き渡る。
その声の主が誰かは僕が一番解ってる。
僕の意識は断ち切られる。
ドス黒い夢の中へ。
永遠に夢を見続ける事になるのかな……。
後悔は、していない。
始めて護りたいと思えた物を、護れたんだから。
これでちょっとは、
見直してくれよ……。
……ゆかり。
銀行編はこれにて終了……しかぁし! 展開はまだまだ続きます(−−;)
感想返信遅くてすいませんorz
でもちゃんと返しますよ(・v・)




