その141.運命の女神様は知らないけど、怖い女神様なら知ってます
そこに、フラフラになっているガキが居た。
最初に見た時とは違うボロボロの姿。
服は汚れ、顔や体にも打ち付けた様な痕が見られる。
右腕が解り易いほどに赤く見えた。
袖に血がベッタリと染み付いているのだ。
その上から無理矢理何かの布を包帯代わりにしていた様だが、その包帯代わりさえも赤く染まっていた。
頭からも血が流れている様だ。
こちらは包帯で止めているわけでも無く、今も赤い血が頬を伝っている。
少し見ない間にガキはボロボロになっていた。
……最初に見た時、このガキは俺達と一緒だと思った。
俺達と同類。
人の事なんて一々考えるような人間じゃない。
一目でそう思った。
……なのに、今このガキはボロボロになって戦っている。
何故だ?
何故戦う?
オマエはそっち側じゃない、俺達側の人間の筈だ。
頭ァ割られて、腕を撃ち抜かれて、ボロボロになるまで動き回ってよォ……何がオマエをそこまでやらせる。
まずは覆面の一人である狂った男の方を撃ち抜いた。
ガキを撃ってもよかったが……あのガキには聞きたい事がある。
覆面共は最初から全員殺す予定だったんだ。
奪った金を5人分割にすればかなり減ってしまう、
最初から捨て駒にするつもりだ。
そう思うと、ガキの行動は手間が省けたのかもしれない。
「アンタの仲間じゃなかったのか……」
冷静に僕は八木に向けて言った。
八木は冷めた視線で僕を見据える。
「薬物で終わった只のガキだ……仲間なんて思った事はねーよ」
っは、解り易いくらいに悪党だなアンタ。
「やってくれたなガキ……お前のせいでメチャクチャだ」
「知らないね、僕が居た事を後悔するんだな」
パァン! と銃声音と共に僕の顔の横を銃弾が掠め飛んだ。
「口に気をつけろよガキ、オマエはもう詰んだんだよ」
……僕は何も言い返さない。
八木の言う通りだ。
今度こそ詰んだ。
武器は無い。
体は動かない。
目の前に銃を構えている八木。
もう作戦とかそんなの関係無い。
僕の負けだ。
「……サッサと撃てよ、もう抗う気は無いよ」
諦めた。
これ以上戦えないと踏んだ。
崩れるように僕はその場に座り込んだ。
目を瞑り覚悟を決める。
……。
「……?」
いつまで経っても男は撃たない様だ。
疑問に思った僕は、目を開ける。
男は拳銃を降ろしていた。
なんのつもりだ?
「何でお前……頑張ってんだよ」
無機質だった男の声に感情が生まれていた。
何処から不思議そうに、悲しそうに。
「お前の目を見たら解るんだよ……お前は俺達と一緒だ、ガキ」
……は? なんだコイツ?
「誰かの為に頑張る、とか……そんな柄じゃねーだろうが……下らねェ、つまらねェ、そう言って投げ出してりゃ良いだろーが何を戦ってんだよ、あ? 楽な事だけしてりゃいいだろ」
……確かにその通りだ。
僕は誰かの為に戦うとか、そんな人間じゃない。
痛い事なんて嫌いだし、実際なら全力で自分が危害を加えられない立場に行くだろう。
「なぁ、何でだよ……」
男は足を上げると、僕の撃たれた右腕を思いっきり踏みつけた。
「ッゥ! ァァァア……!」
痛い……! 折角布で抑えていたのに、八木のせいでまた血が滲んできた。
ふ、ざけんな! 痛ゥ……
「答えろよ、オラ」
八木の言葉と共に更に力が加わる。
「グゥゥ……!」
痛みで声が漏れる。
苦しみながら見上げた先に八木の視線があった。
あまりにも冷めた目で僕を見ていた。
八木がイラ付いている様な気がした。
頭の良いコイツはきっと、自分が解らないのが気に食わないのだろう。
「っへ、言ってもアンタじゃ解らない……さ」
吐き捨てるようにそう言ってみせる。
「……んだと?」
男が僕の肩に乗せている力が少し緩まった気がした。
少し、楽になった。
「確かに……僕はあんた達と一緒だろうさ」
他の奴等なんてどうでもいい、自分さえよけりゃーなんだっていい。
それは、あの子に会うまではそうだった。
僕とは全く正反対の子。
見知らぬ人間の為に動き、誰であろうと助けを求められたら助けに行く。
それが自分にとって傷つくような事でも、あの子は躊躇わない。
そんなあの子に惹かれた。
八木、そして覆面達と僕は近いと自分でも思っている。
僕はきっとそんな最低な人間なんだ。
そうである事を自覚している。
だけど、そんな僕だけど。
この男と違う部分がある。
そこだけは確信出来るんだ。
それ以上何も言わない僕に、めんどくさくなったのか、呆れた様な溜息を零す。
「ッハ……そろそろ死んどくか? ガキ」
八木は肩から足を退けると、変わりに僕の頭に拳銃を押し付けた。
冷たい銃口の感覚が嫌でも伝わる。
それでも、僕に恐怖は生まれなかった。
僕には八木達が知らない物を知っている。
そう、あの子は悪に対して異常に強い事を。
そして、希望が僕には見えた。
男にはきっと見えていないだろう。
「運が……無かった、な」
僕は掠れた声を絞り出す。
「あァ?」
男の動きが止まった。
少し考えて見せた後、八木は小さく笑った。
「クク……確かにな? 俺が来なかったら、助かってたかもなァ? 運命の女神様は……必死に頑張ったお前に笑い掛ける事は無かったんだなァ」
八木はそう言った後、また楽しそうに笑って見せた。
運命の女神? ……ッハ、確かに笑えるね。
「運命の女神なんて知らないよ……」
僕も八木と同じ様に笑って見せる。
「僕にはもっと怖い女神様が付いてるんでね」
確信を込めて僕はそう言い切る。
「……?」
八木は不思議そうな表情を見せた後、口を開いた。
「何言ってんだ? おま……」
八木が言い切る前に、八木の頭が揺れた。
「が……ァ?」
八木はうめき声を上げ、横に倒れた。
八木が倒れた先に。
怖い女神様が居た。
八木の頭に命中させたであろう上段蹴りを丁度下ろす所であった。
揺れる長い黒髪に、気の強そうな大きな猫目。
その瞳が僕を見下ろす。
微かに顔が赤く見えるのは気のせいだろうか……?
「遅いよ」
僕の言葉に、ッキ! と僕を睨みつける女神様。
その瞳が「何よ! エラソーに!」 と言って居る気がして、少し笑いそうになってしまった。
何かッホとしてしまうこの感覚。
この子の顔を見て安心して居た。
シャクだけど、安心してしまったんだから仕方無い。
我等が女神様はそっぽを向いてしまった。
笑ってしまった僕に、腹を立てたのか?
「……だ、誰が怖い女神様よ!
怒ったような言い方だが、髪の毛から覗く耳が真っ赤になっている。
『怖い』よりも『女神様』に反応したらしい。
「プ……クク」
または笑ってしまった。
堪えられない程に可笑しかった。
さっきまで死ぬかもしれない戦いをしていたのが嘘のようだ。
そっぽを向いていた縁は怒ったように僕の方を向いた。
僕が笑ったのが気に食わなかったらしい。
しかし、真っ赤な顔で睨まれても怖くない。
暴力女のクセに、可愛い所あるじゃないか。
今回もちょこっと長めです!やっと縁とへーじが合流!!
っはー……やっとここまで来ましたよ〜ってもまだ続きますけどねw
突然ですが、人に自慢は何ですかと聞いたら、皆さんは何て答えるでしょうか? 足が速い、力が在る、頭が良い。人それぞれに色々あるでしょう、しかし、ある私の尊敬する作家さんのオマケにあった言葉なのですが。
『すべてが閉ざされ、出口も見えなく、自分をほとんど信じられなくなった時、
「君なら出来る。
オレは何も心配していない」と言われた。
ひとつ自慢せよと問われれば、
僕は迷わず,友‘と答える』
自分の事で無くて、すばらしい友達を持った事を自慢だと、この作者は言われました。
この作家さんを私は尊敬に値する方だと思っています。
私はまだまだ鼻垂れなガキです。
しかし子供のままではいられないでしょう。
もう後2年したら20代に入ります。
それまでには、こんな素敵な大人になれるように頑張りたいです。
ちなみに私の自慢できる事は……
結構血液型当てれます! すごくね!?
3回に1回は当たりますよ! え? 少ない? そんな馬鹿なww