その13.バカと何とかは紙一重。
僕たちは2人仲良く廊下に並んでいた。
隣を見ると、さっそく貰った飴を開けていた。
小さな飴の袋に醤油味と書いてあった。
……ウェ。
その意味不な飴を勢い良く口に入れた。
瞬間、
「ウボハァ!?」
無意味な発声と共に吐き出した。
きたないね。
「まっずぅ〜」
当たり前でしょ……てか、あの教師は何時もこんなの食ってるんだろうか。
「バッカみたい」
ボソッと零した声に、大男がこちらを向いた。
やばい、聞こえたかな?
大男は僕に満面の笑みを向けた。
何だコイツ?気持ち悪い。
「俺、穴見 早句間!!サクって呼んでくれよ」
何自己紹介してんの?
「嫌だよ」
それだけ言うと歩き出す。
「お前なんて名前?」
何で付いてくんのさ、気持ち悪い。
「さあね」
冷たくあしらう。
「なぁ、待てよ」
こいつは本物の馬鹿かい?冷たくしている意味が解らないのか?
「なあ、仲良くしようゼ」
「嫌だよ」
同じ言葉を吐き捨てる。
はっきりと言わないと解らないのかい?
「お友達ゴッコかい? だったら他の奴とやれば?」
後ろから声はしなかった。流石にムカついたかい?後ろから殴るかい?
殴ればいいじゃないか、これで君とはオサラバさ。
「俺は、」
声がした、まだついてきていたのか。
『お前と、友達ゴッコがしたいんだよ』
「はぁ!?」
意味の解らない発言に、振りむいてしまった。
そこに早句間と名乗った大男が居た。
満面の笑顔を僕に向けていた。
何故笑顔を向ける?
怒らないのか!?
その表情に、逆に僕がムカついた。
「ムカつくね、」
無意識に声に出た。
「そうか?」
早句間は笑顔を崩さない。
「へーじ、だよ」
名乗っておこう……しつこそうだ。
早句間は更に笑顔を輝かせた。
「名乗ったんだから、もうつきまとわないでよ」
それだけ言うと僕は歩き出した。
後ろから声はしなかった。
変わりに。
僕の背中に衝撃が走った。
「のわぁ!?」
と、間抜けな声が漏れながら廊下に倒れる。
痛い、背中がヒリヒリする……。
これは掌による攻撃な気がする。
暫く痛みに、モゾモゾとしか動くことが出来なかった。
「何、モゾモゾしてんだ?思春期か?」
何でだァァ! 君が背中を叩いたんだろうがァ!
しかも思春期関係ないと思うなぁ!
僕は痛みに耐えながらも、思いっきり早句間を睨んだ。
悪い悪い、と笑いながら早句間は倒れている僕に手を伸ばした。
僕は訝しそうに、その手を見た。
怒りで僕を叩いた様には見えない。
本当に、友達同士がやる様なつもりで背中を叩いた。そんな感じだ。
本当ならこの男の手を取るのに抵抗がある。
しかし、この男の馬鹿力のせいで一人で立つのは難しそうだ。
仕方なく! 僕はその手を取った。
グイッという具合に、その馬鹿力で僕の体は簡単に浮いた。
そしてそのままストンッと着地し、廊下の上に立っていた。
お解り頂けただろうか。
この男の力の異常さに、一瞬ポカンッとアホ面をかましていた。
「よろしくな! へーじっ!!」
ぼけっとしている僕の手を、無理矢理取るとブンブンと思いっきり振りやがった。
痛い!! 地味に痛い!!
痛みに我に返った僕は、思いっきり手をはらった。
「痛いって!」
「もう僕につきまとわないでよ?」
そう言うも、早句間は何も言わず唯笑っていた。
何も言わない事をOKと判断した僕は再び踵を返した。
しかし、僕の考えは甘かった。
この男はずっと僕に付き纏うことになるとは思いもしなかった。
これが、僕とサクとの出会いだった。
え? 嫌ってる割にはあだ名で呼ぶのは何でかって?
結局、1年間一緒のクラスでさ。
呼ばないと何故か再びデットレースを繰り広げる事になるからだよ。
あれメッチャしんどいから!
まぁそれ以外でも、何かあんのかもね。
ま、呼びやすいし、ね。
感想が増えるとやっぱり嬉しいですね(照)