その12.貧弱毒舌男&元気溌溂男とダラダラ駄目教師
「失礼しまーす」
生徒指導の重たいドアと共に部屋に入る。
「あ!てめ!」
ゲェ!!このデカ男!先に来てやがったか!
目を合わせない、合わしちゃいけない。
獰猛な動物と目を合わせてはいけません。
「おー、来たかー」
気の抜けた声が、奥から聞こえた。
出てきたのは。
20代半ばといった具合の中年……に見える一応若い青年。
だが、その落ち着き払った様子や、年取った人間の放ちそうなオーラが出ているのだ。
やる気の無さそうな垂れ目に、ずれた眼鏡……これ本当に教師か?
僕たちの目の前に来ると、めんどくさそうに頭を掻いた。
「あー……アレだ」
どれだ。
「廊下はー、走っちゃー、いけまー」
あまりにものスローテンポに無意識にイラッとしてしまう。
教師みたいだけどム、ムカツク……
「せん!」
大男が教師が言い切る前に高らかに言った。
お前が言うのかよ! そして五月蝿いよ!!
横で大声を出されちゃ敵わない。
「そうソレ」
ソレってのはさっき大男が言ったソレか。
「じゃ、帰って良いよ」
……は?
それだけ言うと教師を踵をかえした。
「え? あれ?」
怒んないの!?
「先生!! もっと言う事があるんじゃないですか!?」
デカ男! 良い事言うじゃないか! 1ミリだけ見直したよ!!
「お菓子くれるんじゃないんですか!?」
僕の1ミリ分の見直しを返せ……何でお菓子!?
教師は振り向くと訝しそうな目を向けた。
だが、この教師にこの目をする権利は無いと思うが。
教師はポケットを弄ると、何かを大男に投げつけた。
慌てて取ろうとするも、顔面に命中。
「おぼ!?」
うわ、馬鹿だ。
顔に当たりながらも飛んできたものを手に取る。
飴ちゃん。
大男の顔がみるみる輝いていく。
「本当にくれるんだ!?」
僕の突っ込みに、教師が今度は僕にその視線を向ける。
「欲しいのか?」
いりませんけど!
「んだよ! あげねーぞ!」
「……君は黙ってて」
慌てて手に持つ飴を隠すこの男を見て力が一気に抜けた。
「放送でよんでおいてこれは酷くないですか?」
表面上は敬語で。
再びボリボリとめんどくさそうに頭を掻く。
「嫌、お前ら呼んだ先生用事でどっか行っちまってさぁ〜」
どういう事で?
「お前らが来たら適当に言っとけって言われたから」
適当すぎません!?
まずい、まずいぞ、いままでに会った事の無いタイプのダメ教師だ。
この学校大丈夫か!?
「じゃーな」
そう言うと部屋の奥にダメ教師は消えていった。
友人のジュースを勝手に飲んでお腹を壊して寝込んでます。
でも、何故か良い事した気分。