その127.いや、っていうかアレは無理でしょ、誰でも無理だから、絶対に無理
大きな音に駆けつけた時には、既に誰もいなかった。
床に撒き散らされた油に、切った様な後がある何重にも絡まったコード。
何があったかは直ぐには理解出来なかった。
だが、仲間の一人がこの部屋の方面に向かっていったの見ていた。
ふむ……。
状況から察するに、あのガキにやられたか?
油に大量のコードが散らばったそれは、妙に手の込んだやり方だ。
最初に投げつけてきたコショウの塊を思い出す。
あの覆面は、捕まった後から逃げた?
では、ガキは何処だ?
辺りを見渡してみる。
特に変わった事は無い……いや、変わっている。
部屋の隅に行くと、頭上を見上げた。
上に配置されているのは大き目の排気口だ。
その排気口の真下に不自然に置かれている椅子。
表情に、無意識の笑みが漏れた。
面白いガキだ。
どおりで探し回っても見つからない筈だ。
排気口内を移動してやがるのか。
気づくのは、俺か八木ぐらいだろう。
既にやられたと思われるオッサン風味の覆面は何処に行ったかわかりゃしねぇ。
残るは狂った若い男だけだ。
頭のおかしいガキに、頭の良いガキを見付けれるとは思えない。
俺が殺しとくか。
体が小さいのがこんな所で役に立つとは思わなかったが……あまりにも、汚過ぎる。
排気口内を匍匐前進で進む僕の気持ちは、一言で言うなれば最悪。
服は既にホコリまみれ。
気分はブルーな状態で次の部屋へと向かう。
張り巡らされた排気口の中は、上から全てが丸見えなわけで。
奴等が見えたとしても冷静に対処する事が出来る筈だ。
気づかれないように移動を続ければ、僕にも勝機はあると思う。
まぁ……こんな狭い中で気づかれれば蜂の巣にされると思うけど。
だからこそ慎重に。
……ッフ! クールでナイスガイな僕にはお茶の子さいさいさ!!
うん、言い方が古い。
等とどうでもいい事を考えていると……目の前を、
とんでも無い物が横切った。
凍りつく僕。
その横切った『奴』は、僕を嘲笑うかのように後退して僕の目の前で止まる。
叫びそうになる声を必死で押し殺すが、
正直に我慢の限界。
ただただ、『奴』が早く去っていく事を祈るのみ。
だが、『奴』は去るどころか怯える僕を楽しんでいるように、
長く黒い二本の触覚を僕に向けた。
黒い光沢が、薄暗い中でもハッキリと見えてしまう。
カサカサという擬音を従わせ、地を我が物顔で歩き、
『奴』が来れない高い所へ行っても、
『奴』は空さえも簡単に攻略し、その羽で飛び回る凶器!!
異常なまでな生命力は、ゾンビを思わせ、それだけでも寒気が走る。
唯一勝てるのは市販の奴専用対策兵器か、主婦の凄腕敏腕スリッパ叩きだけだろう。
しかし、今の僕にはそんな対策兵器も、スリッパ、もとい叩きのスキルさえ無い。
僕には打つ手が無いのだ。
子供用のカバンから何か解決策になるものがあるか考えたが、否、ある筈が無い。
っていうか狭いから背中に手が回らない。
もう一度言おう。
狭いのだ。
そして匍匐前進状態の僕は、前しか進めないのだ。
しかし、名前を出すのさえおぞましい『奴』は、目の前に立ちはだかっている。
今、僕は恐ろしい銀行強盗や、怪力馬鹿女の縁の方が恋しく思えた。
落ち着け、落ち着くんだ僕!! こんなピンチ何度も潜り抜けてきた。
そうさ! 今回も僕の知的なナイスアイデアで……うん、無理。
イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ!!!
ちょ! 待って!! 排気口にこんな悪魔がァァ!! 予想外過ぎる!! というか、え? マジで? え? ちょ! 何で近づいて来てんの!?
何で何で何で何で!!
やだ! やめて! お願い!! 無理! 来ないで!! 虫が苦手とかじゃなくて、コイツが無理! 嘘!!
イヤだってばァァァァァァァァァ!!!!
―5分後。
ゼーゼーと、自らの息使いが良く聞こえる。
精神的な疲労がやばすぎる……
『奴』はどうどうと、僕の上を沿って歩いていきやがった。
その感触に叫びそうになるのを必死にこらえ、半ば泣きそうになっていた。
耐えた……僕は耐えた! いや! 頑張ったよ!! 見つからないように声を押し殺し!!
いやー! 普通じゃ出来ないね!! 流石僕!
これで見つからずに済んだ!
と、一人ガッツポーズをしつつ、自分で自分を賞賛していると……。
「おい」
下から男の声が聞こえた。
え? ウッソン。
「そこに居るんだろガキ」
男の声に答えずに、その場で固まる。
「……お前の今の位置は、こっちからでも居るのが解る位置なわけよ」
恐る恐る下を見てみる。
丁度、排気口の出れる四角い柵がそこにあった。
成る程、確かに運悪くここは上手い事僕が見える様だ。
……見つかってたよドチキショォォォ…
僕の必死な努力は無駄だったようだ。
寧ろ叫んどきゃ良かった……。
なんだかんだで127話もやってるんですね〜……
長!!
無駄に長!!
未だに銀行強盗編から抜け出てない始末……
2009年になるまでに終わらしたいとか言ってたのが懐かしい(遠い目)
嘘付きじゃないんだから!!
いや、嘘つきましたけども……。
どうでもいいですけど、シャンプーって目に入ったら痛いよね