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その11.廊下を走っちゃいけません。知ってます。

 デッドヒートは続いていた。

 廊下を行き交う人々は何事かと振り返る。

 残念ながら一人一人見ている余裕は僕には無い。

 本当に直ぐ後ろに居るからだ。

「待てってェ!!」

 大男が手を伸ばす。

 タイミングよく僕は曲がり角を曲がった。

 手が僕の髪の毛を掠ったのに鳥肌が立つ。

 体力も、運動能力も、かなり分が悪い僕が逃げきる方法は一つ。

 地形を完全に理解する事。

 学校に入って一日目にして学校の見取り図は頭に叩き込んでいる!

 え? 何でそんな事してるかって? バカな不良共から身を守るためだぁ!

 何ですか? 学校始まる前から必死だな(爆)ってか? 文句あるか!

 実際、今役立ってんじゃん!!

 だが、振りきれる筈の大男は何時までたっても振り切れない。

 つか、さっきから捕まりそうなんですけど。

 大男の運動神経は予想以上だったようだ……。

 等と考えている余裕が無い! 考えてたけども!

 額から汗が滲む。何で僕がこんなに運動しなくちゃならんのですか!?

「ちょ!! ホント何!? 僕なんかした!?」


「やってねぇよ!」

 

「じゃあ何で追いかけてくんの!?」


「うるせぇ! とにかく止まれ!」

 男の息遣いからも結構限界である事が解った。


「OK! 解った! 一回止まろうよ!」

 曲がり角を曲がりながら大声を張り上げる。


「とか言ってお前止まらないだろ!」

 大男も曲がり角を曲がってくる。


「いやいや! 止まるって!」


「解った! 信じるぞ!?」


 信じるんだ!?

 赤の他人ですよ!? 僕!? 恨んでんのに信じるんだ!?


「じゃぁ1、2の3で止まるぞ!?」


「待て待て!! 1、2の3!! じゃ解り難い!! 4、5の6の方がよくないか!?」


 ど、どうでもいいわ! 疲れてんのによくそんなに喋れますね!?

 実は余裕有るでしょ!!


「嫌!ホントどうでもいいよ!!じゃあ君がやれば!?」


「俺がやっていいのか!? 本当にいいのか!? 実はやりたいけどやらしてやってもいいぞ!?」


「何その小さな優しさ!? そんな気遣いいらないんですけど!!」


「じゃあやっていいんだな!? 後でやりたいとか言ってもやらせてあげないぞ!?」


 喋りながら走るのは辛いんですが! コイツほんと何!?


「うざいわ!! 早くやってくんない!?」


「行くぞ!!1、2の」

 結局そっち!?


「3!!」


「ふう……疲れたな……」

 等と呑気な声が遠のいていく。


「……あー!! てめぇ!!」

 今更気づいたか!

 止まるわけないじゃん!

 フハハハハ!バーカバーカ!

 と、取り合えず心の中で毒づく。

 大男が何か言っているようだが、無視してそのまま走り切る。


「待てよぉ!!」

 遠くで大声が聞こえる。


「バーカ!! バーカ!!」

 遠巻きに大声で心の中で思った罵声を浴びせる。

 疲れすぎて僕の頭もハイになっている様だ。

 今思うと、恥ずかしい、そしてめちゃくちゃ小悪党っぽい……。



 走り切った後、僕の後ろにあの大男は居ない。

「僕の勝ちだ」

 勝ち誇った笑みが自然に零れる。

 周りの人たちが訝しそうに僕を見るが気にしない。

 腕で額の汗を拭う。

 これであの大男とはもう会わないだろう!

 同じ1年だからまた会うかもだけど!


 だが、本当に直ぐ出会うとはこの時の僕は思ってもみなかった。


ピンポンパンポーン!といった間抜けな感じのチャイムの音が廊下に響き渡る。


『あーあーあー。』

 野太い男の声が響き渡る。


 何だろう?

 自然と視線が泳いだ。


『学校中を走り回ってるバカな新入生の2人、今すぐ生徒指導室に来なさい』


 うん、ぼくじゃない、ぼくじゃない。

 高校が初めてではしゃいじゃう人なんていっぱいいるよねぇ〜

 ダメだなぁ。

『2人の特徴は、片方はデカイ男、もう片方はチビ』


「誰がチビだ!」

 しまった!瞬間的につい突っ込んでしまった!?

 チビって言葉は好きじゃないんだよなぁ。

 うわぁ、周りの視線が痛い……。


 でかい男に、チ……チビなんていくらでもいるよねぇ〜

 僕チビじゃないし…うん、多分。


 放送はまだ続いていた。

『後、1、2の3で止まるとかなんとか言って、デカイ方は止まったがチビはそのまま走り去ったという情報も来ている』


「ぇぇ〜」

 あまりにものありえなさに声が漏れた。

 ていうか近くで見てたでしょ、これ絶対。

 情報鮮明過ぎだし。


 僕は深く、深く溜息を付いた。


 そして廊下を歩き出した。


 生徒指導の部屋もしっかりと頭に叩き込んでいる。

 初っ端から呼ばれるのを予想して覚えたわけじゃないのに。

 そして再びあの大男に出会うと思うと、再び溜息が零れた。


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