その10貧弱毒舌男と元気溌溂男
あの暴力女と出会ってから3日が経った。
あの後の事は思い出したくもない……
僕は文字通り姉貴に締め上げられたのは言うまでも無い。
というか言いたくない。
冬休みも終わり、新学期が始まった。
周りはザワザワと五月蠅く耳に障る。
短い様で長い冬休みに変わっただの変わらないだのと下らない会話がチラホラと聞こえる。
全くもって下らない。
変ろうが変わるまいが、この世界が変わる事は無い。
いつもと同じ下らない毎日。
机の上で頬杖を付いて、自分のクラスを冷めた瞳で見渡す。
皆消えないかな……
そんな言葉が頭を過る。
ッハと我に返ってから、可笑しくなった。
僕程最低な人間はきっといないだろうな。
こんな事を考えてはいけない。
「へーじっ!」
大声と共に背中に衝撃が走った。
「ぶほぁっ!?」
衝撃と共に冷たい床に叩き付けられる。
顔面から床に落ちた。
もの凄く痛い。
痛い!!
「……!]
声にならない痛みが半端じゃない!
椅子から叩き落とされ、見事に顔面から落ちれば誰だって痛みで悶える。
「何寝てんだ?」
おまえのせいだよ!
顔をさすりながら立ち上がる。
そのさいに、クラスメート達の、またか……という視線を感じた。
手を貸すとか無いんですね。
やっぱお前ら消えろォォ!
てか好きでこけてるんじゃないんですけど!
立ち上がる僕に満面の笑みを向ける男が居た。
「よっ! へーじ!!」
「サク……毎度うざいよ」
そう言いながらサクを睨む。サクがでかいので見上げる形になる。
「? 何でお前上目づかいなんだ?」
死ねェェェェ!
男に上目づかい何かするかァァァ!
この大男、本名は穴見 早句間。
僕が何故こんなムサイ男と知り合いなのかは、結構前に遡る。
まぁ、回想という名の語りでもと、
僕みたいな暗い男が、こんな如何にもな男と知り合いなのは疑問に思われるだろう。
それは本当によく解らない出会いだった。
高校に入って間もない頃、クラス表を前に大騒ぎしている大男が居た。
「何だこれ!? どうやって見るんだ!?」
と、周りの方々に聞いていた男がサクだ。
当然、目を合わせない様にする周りの方々。
当然僕もそのつもりだった。
だが、ワンテンポ遅れて目が合ってしまった。
遠巻きで見ていた僕にづかづかと近づくと、大男は笑いかけた。
目の前に居るけど、目を合わせない事に決めた。
もう、見た目でめんどそうだ。
「なぁ!」
無視だ無視。
「おい!聞いてんのか?」
無視。
「そこのチビに聞いてんだよ」
「黙れデカ男、デカくなりすぎて頭ぶつけて死ね」
「お!言うねェ〜」
しまったァァ!!悪口に即座に反応してしまったァァァ。
仕方なく目を合わせる。
……デカイ。
改めて見るとかなりデカイ。
180〜190と言った具合だろうか?
ヒョロいのでは無くゴツイ。
見たまんまスポーツをしていそうな筋肉質な体だ。
大男は笑いかけて言った。
「クラス表わかんねぇんだ、教えてくんない?」
番号表見て、クラス表見て同じ番号見たらいいだけじゃないか。
バカか?バカなのか?
こんなバカと居たら変な人と思われる。
「嫌だ」
そう言うと。大男に背を向ける。
そのまま歩き出す。うん、ナイス判断、僕。
「おいおい待てよ」
……何でついてくるんだ。
無視して歩き出す。
「待てって」
スピードを上げる。
「おい!」
追いかけてくる。
更にスピードを上げる。
ここから大男とのデットレースが始まった。
「待てやァァァ!」
「何で追いかけてくんのォォォ!?」
「何で逃げンだよ!」
「追いかけてくるからだ!」
デカイ男が追っかけてきたら普通に逃げるわ!
い、いかん!しんどい!!
目の前の曲がり角を瞬時に曲がる。
「ぬをぁ!?」
間抜けな声が後ろから聞こえる。
後ろを向くと、大男が壁に突っ込んでいた。
あまりにものバカさに立ち止まってしまった。
馬鹿だ!あまり例を見ない馬鹿だ!
イノシシ並か!?(突っ込む的な意味で)
「フ、フフフ……」
大男が小さく笑う。
「てめぇぇぇぇ!」
大声と共に僕に向かって再び走り出した。
「何でェェェ!?」
慌てて僕も走り出す。
再びデットレース!
3日経ってる_l ̄l○
今度こそ・・・
題名の溌溂って言葉は合っているのだろうか。