その106.僕も、君も、『天の邪鬼』、フン……別に良いんじゃない?
再び、町中まで戻って来ると手を離した。
未だに目を合わせない君は何何だ……。
顔を赤らめたまま、すねた様な、すぼめた口を小さく開く。
「ほ、本当にキスなんてしてないから……」
上目づかいで、縁はそう言った。
解ってますが、なにをまだ言ってるんですか。
「あ〜……はいはい、してないしてない、」
軽くあしらう様に適当に手をプラプラと振ってみせる。
そんな僕の態度に何か、カチンッと来たのかは知らないが……。
「な! 何よそれ!」
怒りを込めた声が飛んでくる。
どれですか。
僕は呆れつつ、サッサと歩き出す。
後ろから慌てて付いてくるような足音が聞こえた。
「アタシは! 本当に……」
「してないんだろ、解ってるよ」
いい加減、めんどくさいので縁よりも先に答えてみた。
「わ、解ってるなら良いのよ! うん……」
戸惑った様な言い方をする縁に、僕はため息を漏らす。
思っていた以上に、彼女はシャイガールらしい。
まぁ、別に良いけど。
歩く僕に無言で付いてくる縁。
控えめな足音に、苦笑する。
プロレスを見に行っていた際に困惑しまくっていた僕の様だ。
そして、その時とは違い、今は大分落ち着いている僕。
ま、テンパッてる縁はさて置き、これからどうするのだろう。
男女で無いと入れない所、は、もう入ったのだ。
やる事は終わった。
そういえば、それからは何も聞いて無い。
強いて言うなら、ご飯を食べに行くぐらいか?
腹の空腹で、既に12時は過ぎている事を推理してみる。
推理なんて大それた物じゃないけど……
それは後ろで歩いている縁に聞くのが一番だと思う。
なんせ今日の発案者だ。
それなりに計画があることを祈る。
つまらんプロレス見て、予想外の事実を知らされて、挙句に気絶して変な夢を見る。
こんな休日って……どんなの。
昼飯でも食べて、この不幸の連鎖を断ち切ろう!。
とりあえず、普通の行動がしたい!
そうと決まれば、即行動。
まずは縁に聞いてみよう。
「あのさー……」
そう言いつつ、振りむくと。
僕の後ろをずっと歩いてきていると思っていた彼女は、遠くで立ち止まっていた。
あれ?
縁は何処ぞの店のガラスケースを熱心に見ているご様子だ。
何を見ているのか気になって、立ち止まっていた縁に近づく。
視線の先にあったのは、ガラス越しの首飾り。
上半身だけの黒いマネキンに掛けられた赤いロザリオ。
銀色では無く、真っ赤なそのロザリオは、確かに目に惹かれる物があった。
縁は、そのロザリオを熱心に見つめていた。
何故こんなに食い入る様に見つめているのかは解らない。
ガラス越しに車の玩具を見つめる少年と似ていた。
目をキラキラとさせ、はっきりと欲しいとは言わずとも、見ているだけで幸せそうな表情。
「……欲しいの?」
僕は、そう縁の直ぐ後ろで囁く様に言った。
僕の言葉と共に、縁が弾かれた様にガラス窓から離れた。
なんだよいきなり、と思いつつ。
僕は縁の行動に驚くことは無かった。
思った事を直ぐに行動する様な子だ。
きっと無意識に、この赤いロザリオを見ていたのだろう。
僕と目を合わせずに、口をすぼめて、「……別に」
と小さな声で言った。
女性の付けるような可愛らしいデザインと、綺麗と思わせるきらびやかなデザインは、中々に見える。
そして値段も中々……0が1,2,3、4……
……数える気が失せるな、やめとこう。
だが、このロザリオに縁が釘付けになったのは以外だった。
こんな格闘オタクで熱血マニアがこんな可愛らしいアクセサリーを?
……ゴリラが付けた方が似合ったりして。
俯いている縁が目の前に居る。
いつもの暴力的な姿が見れない。
落ち込んでいるようにまで見える。
ふん…………縁も、女の子なのかもしれない。
何て言葉が頭に過ぎった。
プロレスなんて、色気の無い所に連れて行ったり。
いきなり殴りかかってきたり。
女の子らしくは見えない。
だが、普通に恥かしがったり、ロザリオをジッと見つめる姿は。
普通の女の子なんだな。
何て思う。
この子は、感覚が他人とはずれている。
それはきっと、こんな事に、縁が無かったのかもしれない。
名前は縁なのにね……別にどうでもいいけど。
僕の脳裏で浮かぶのは二人の言葉。
一人は志保ちゃん。
縁は、本当は女の子らしいと、楽しませて欲しいと、
二人目は駄目教師。
女を落とすのはプレゼントらしい、……落とすなんて気はサラサラ無いけどさ。
落とす……まぁ、喜びはするかもね。
「……買うかな」
僕はそれだけ言うと軽く辺りを見渡す。
「え……、え?」
驚いたのか、縁が変な声を上げていた。
まぁ、無視するけど。
お、銀行、あったな。
少し大きめの銀行を見つける。
やはり町中の都会に来ると、こういうのも直ぐに見つかって良い物だ、うん。
残念だが、今の手持ちでは、このロザリオには手が出ない。
姉から少しづつだが、お小遣いは貰っている。
特に欲しいものは無いので、お小遣いは結構溜まっている。
買えるだろ、多分。
困惑している縁を無視して、銀行に向けて歩を進める。
「ちょっと! い、いらないわよ! アタシみたいなガサツで乱暴な女が……あ、あんな可愛い物欲しがるわけ無いじゃない!」
あー、何か言ってるけど聞こえない聞こえない。
銀行に向かいながらも、縁は何かを言っていた。
困惑と驚愕と焦りが入り混じった声で何かを言っている。
聞こえない聞こえない。
アレだ、まぁ……膝まくらのお礼?
気絶した僕を運んでくれたんだろ。
君に借りを作るのは嫌だし。
仕方無く、買ってやる事にする。
そう、仕方無くだ。
縁はまだ、何かを言っているようだった。
完全に聞いて無い僕には、何にも聞こえないけど。
彼女の声は、何処と無く震えていた。
そんなに嫌なら、力付くで止めりゃいいのにさ。
……意地っぱりな、女の子だって事は良く解ったよ。
とうとう……とうとう公表しちゃったよぉぉ……
恥ずかしい! 恥ずかしすぎるぞォォ!!
アレなんですよ、恥ずかしいんです。
じゃぁ書くな?
無理!
シャイボーイですが何か。
そんなシャイボーイでも恋はします。
バレンタインが近いですね。
取り合えず……チョコを貰える男は……
地獄に堕ちろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
どうせ貰えないさ!
私は貰えないさ!笑えよ!無様な私を笑えよ!
アハ! アハハハハハハ!!
……いけませんね、つい発狂してしまいました。
なんか有名な人が言ってましたよね、
『未来に何かしら有るんじゃね?』
と……。
なんかこんなんだった。
…そうさ!期待して何が悪い!今年こそ!!今年こそギブミーチョコ!!
そんな話を今日、友人としていた。
モテモテな友人『どうせ貰えないんだろ? 毎年期待して悲しくない? ッハ!(失笑)』
……ここをお借りして一言。
コホンッ
もてる男は皆死ねェェェェェェェェェェェ!!!!。
……いけませんいけません。
また、つい発狂をしてしま(略)