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狼さんとデジャヴ

 匂いを追いながら森を走る。

 あちこちで他の匂いとぶつかってうまく辿れない。


「グペッ⁈」


 しかもさっきからこのように魔物が飛び出してきて撥ねてしまっている。邪魔なことこの上ない。


 四日も経ってるしもう手遅れか……?

 そろそろ海に出てしまう。そうなったら追い続けるのは難しい。

 ……ん?あれは……。


 そう思っていると匂いの先に強い魔力の反応をつかんだ。

 しかもその強さがそこらへんの魔物が出すものではない。


 二人の手がかりかと期待しながら向かうと、魔力の元が見えてきた。

 魔力の元は光の箱のようなものだった。

 正方形をしていて、地面に接している四隅からは杭のようなものが見える。

 そして結構大きい、一辺十メートルほどはあるのでないか。


 箱の近くまできて止まる。

 光っているせいか箱の中はよく見えない。

 ちょっとつついてみると手応えがない、実体がないのか?


 意を決して前足を突っ込んでみると、スルリと入れれた。やはり実体がないようだ。

 しかし接触しているところが激しく光ってバチバチしてる、痛くないのは毛皮が防いでいるからだろう。


 ずっと触っていたくないので箱の中に入った。……全身がバチバチして背中がゾワッとした。

 箱の中は小さな泉が一つあり、その側に敷いてある緑色のシートの上に見覚えのある青年が寝転んでいた。


 よかった、間に合ったか……いや、肝心の妹の方はどこだ?


 あたりを見回しても光の壁の他に何もない、まさか泉の中にいるわけもないだろう。青年が知っているだろうか。


 青年に近寄り声をかける。


『おい、起きろ。あの娘はどこへ行った?』


 青年は呻くだけで起きない。軽く揺さぶっても尻尾で叩いても起きない。

 変だな、冒険者ならすぐに飛び起きそうなものだが。


「うぅ……ファルン……。」


 悪夢でも見ているのだろうか、青年は顔をしかめて呻いている。


 どうにかして起こしたいが……魔法でもかけられたか。

 そう思い、青年の体内の魔力を視る。

 自分の魔力ほど正確には視れないが、魔力操作を使ってきた恩恵なのか他人のものでも魔力の乱れや異変ぐらいは視れる。


 青年の頭らへんの魔力に青年のものではない別の魔力が混ざっている。

 当たりだ、精神系の魔法をかけられている。

 なかなかの強さだが、行使者の魔力で強引に強めた単純な魔法のだろう。これなら魔力を取り除くだけで済む。


 自分の魔力を操作し、何者かの魔力を集め、青年の体から取り除いた。


『起きろ。』


 再び青年を叩きながら声をかけると青年が飛び起きた。


「待て!ファルン!……ん?」


 青年は当たりを見回し、俺を見ると眉間にしわを寄せた。


「なんでお前がここにいるんだ。」


『いては悪いか、わざわざ手を貸しに来てやったのに。』


「何……?

 いや、それよりお前ファルンを見ていないか?」


『見ていないが……むしろなんで一緒にいないんだ?』


 俺の質問に答えず青年は頭を抱えた。何かブツブツ言っている。

 話しが見えないので説明してもらいたいのだが。


「なんで……俺を置いて……」


『何があったんだ?なんであの娘だけいない?』


「ファルンが……俺を置いてどこかへ行ってしまった。」


 なんだと?

 あの娘がそんなことをするとは思えないが。


『少し外に出てるだけじゃないのか?』


「違う、ファルンには一人で結界から出ないように言っている。それにファルンだって一人でここの魔物と会ったら危険なことぐらい分かっているはずだ。

 それに食事を取っていたら突然眠くなったんだ、そしてファルンが自分のことは忘れろと……。」


 食事に何か盛られたのか。

 ずいぶん大胆なことをする。

 しかし自分のことは忘れろか……遺言のようで不吉だな。


「おお、やっと見つけたぞ。

 まったく、ついて行くもののことも考えて欲しいのじゃ。」


 背後から声とともに突風が吹いてきた。

 声がした方を向くと空中に翼を広げたフラムがいた。やっぱデカイなこいつ。


「りゅ、竜帝様⁈」


 青年がフラムを見て腰を抜かしている、竜帝ってなんだろうか。


「こいつがお主の探していた妖精族(エルフ)か?一人足りんようじゃが。」


『それなんだがな、妹の方が兄を眠らせてどこかへ行ってしまったらしい。』


「妹というと、生贄に選ばれてた方かの?それはまずいのではないか?」


『そうなのだが、どこに行ったかこいつも分からないらしい。』


 ふむ……とフラムが考え込む。

 フラムの言う通り妹は生贄と選ばれているので護衛の青年ほどの戦闘力はないだろう、一人にしておくのは危険だ。


「竜帝様と平然と会話するなど……お前は本当に――いや、今はいい。

 竜帝様、許可なく話す無礼をお許しください。

 ……お頼みしたいことがあります。」


「なんじゃ、言ってみよ。」


「どうか私の妹を探し出してもらえないでしょうか。」


 青年がこうべを垂れる。

 フラムは俺に勝手について来ただけだし、わざわざ頼まなくてもいいと思うのだが。


「それについてはすでに協力しておる。

 儂の友人のやる気を煽った手前、最後まで見届けねばなるまい。」


「――!

 ありがとうございます!」


 青年は深く頭を下げた。

 なんだろう、フラムが頼られているとは異様な光景だ。俺の知っているフラムはこんなに威厳のあるやつだっただろうか。突然喧嘩をふっかけてきて負けて飯をたかって帰るようなやつではなかったか。


「して友よ、そやつの妹が行った先に心当たりはあるかの?」


『……十中八九一人で邪悪なやつに会いに行ったのではないか?』


 フラムにされてきた迷惑行為を考えていたら答えるのが遅れた。

 いかんいかん、今はそんなことを考えている場合ではなかった。


「そういえば、妹はこれは里に言われたことではなくて自分の決断だと言っていました。

 しかし何故ファルンが生贄のことを……?」


「元から里で盗み聞いたのかもしれぬが……多分お主らの会話を聞いていたのではないか?」


『あの時寝てなかったのか……。』


 本人の目の前で話していた俺らが悪いが、なんて運がないのだろう。あの時少女が起きていなかったらこんなことにはなっていなかったわけだ。


「まぁ反省など後でもできよう、今はその女子(おなご)の後を追うのが先決ではないかの?」


『そうだな、今悔やんでも仕方ない。

 あの時の話を聞いたということは、あの娘はおそらくこの先の海に向かったのだろう。』


「ファルンは魔法は得意だが接近戦はできないはずだ。魔物を避けながら進んでいるならば、今から追いかければまだ追いつけるはず――」


『それはどうだろうな。』


「何?お主の速度なら追いつけるじゃろう。」


 フラムが首をかしげる。

 確かに速度的には追いつけただろう、あの娘が魔物を避けているなら。


『ここに来てから探っていたのだが、海へ向かう方向に魔力の乱れがあるのを捉えた。おそらくあの娘のものだと思う。』


「つまり?」


『魔法を連発して強行突破してるようだ。

 そしてついさっき反応が海に着いた。』


「もっと早く言え!」


 青年が海の方向へ走り出そうとするのを前足を足に引っ掛けて止めた。

 転びかけた青年がこちらを睨んでくる。


『落ち着け、俺が捉えた時にはほぼ海に着いていた。余計な混乱を与えたくなくて黙っていただけだ。』


 嘘だ、言うタイミングを逃しただけである。

 捉えた時にはほぼ着いていたのは間違いではないが。


『あの娘の反応は海の向こうに行ってしまった、飛ぶようにな。

 あの娘は飛行魔法のようなものは使えたか?』


「いや、ファルンは回復や防御が得意であとは少しの攻撃魔法しか使えないはずだ。」


「となると――邪悪な存在とかいう胡散臭いのに連れ去られたと見るべきじゃろうな。と、するとなおさら早く向かった方がいいのではないか?」


『そうなのだが……俺が一つ確認したいことがあってな。』


 そう言い、青年を見る。

 正直これは無駄なことだし、本当なら急ぐべきなのだろう。しかしどうしても当人からの反応が知りたい。


「確認したいこととは、俺に対してか?」


『そうだ、本当ならお前の妹に聞きたいのだがな……。

 今から俺はお前の妹を助けに行くつもりだ、お前はそれを良しとしてくれるか?』


「……?

 どういう意味だ?」


『正直俺はあの娘を助けれるか分からない。

 それに助けに行くならお前らを滅ぼすと予言されたやつと戦闘になるだろう。

 もしその戦いで負けたら、そいつが俺を妖精族(エルフ)からの手先と思い、怒り、お前らの里を滅ぼすかもしれない、そうなったらあの娘が生贄となることが犬死と同義になる。

 そうなったら俺は何の責任も取れない、死んでいるだろうしな、だからそれでも俺が助けに行っても良いかと聞いている。』


 そう、俺はあの娘を助けに行くことが正しい行いか分からないでいる。


 もちろんフラムの言葉には納得している。だからここにいるわけだしな。

 しかしフラムが言ったのは俺個人のための話だ。俺が勝手に動くだけ。


 だからどうしても当人に聞きたかった。勝手に助けるがその結果は知らない、それでも動いて良いか、と。


 青年は顔をしかめてこっちを見て――いや、何だろうこの顔に既視感がある。

 最近、というかついさっきこんな顔をされたような――


「お前、めんどくさいやつだな。」


 青年の後ろでフラムがうんうんと頷いていた。

お読みいただきありがとうございました。

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