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狼さんと友人

 一応の友人から呆れた顔で面倒と言い切られるのは結構心に刺さった。


『お前……人が真剣に考えているのに……。』


「面倒なものは面倒じゃ、事実なのだからしょうがないじゃろう。」


 そう言ってフラムは話し出した。


「だいたいなぁ、罪悪感かの?を抱いていること自体がおかしいのじゃ。

 そやつらは勝手にお主の住処に入り込んだのじゃろ?普通ならまずお主に殺されているはずじゃ。」


『物を盗られたとかならともかく、ただ勝手に入られただけで殺したりなんてしないだろう。』


「普通の魔物は()()入られただけでは済まさぬのだがのう……しかしお主は昔から色々と魔物らしくないからのう、まぁそこはいいじゃろ。

 儂が一番解せぬのは助けに行かないではなく、()()()()というところじゃ。そこまで気を荒立てるほどなら行けばよいじゃろう。」


 俺だってそうしたい。だが死ぬかもしれないと考えると体が動かないのだ。

 しかしながら、この心情は戦闘狂のこいつには分からないだろう。


『……戦うのが好きなやつには分からないだろうがな、俺は戦いが好きなわけじゃない、ましてや昨日会ったばかりの他人のために戦うなんてことはしない。

 自分でも薄情だと思うがな。』


「ここまで案じているところでお主は十分なお人好しだと思うがな。

 しかし本心はそうでないだろう?

 ただ面倒というだけで決めたことにそこまで苛立ちはすまい。」


 変なところで鋭いやつだ、いつももっと馬鹿っぽいやつなのに。


 フラムが姿勢を低くし、首を下げて俺に目線を合わせてくる。

 黄金の瞳に見つめられて俺は目を逸らした。

 完全に相手のペースだと思っているのに口が開いてしまう。


『……怖いんだよ、死ぬかもしれないのが。

 相手の強さも分からず戦うなんて死にに行くようなものじゃないか。』


 俺の言葉にフラムは目を丸くした。

 そして姿勢をもとに戻し、


「ブワハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ‼︎」


 大口を開けて笑いだした。


 こ、この野郎……。

 顔が熱くなり、ビシリとこめかみに筋が走るのが分かる。


「何かと思えばブフッ怖いときたかハハハハハハ‼︎」


『そうだよ、俺は戦うのが怖い臆病者だ、笑え笑え。』


 やけくそ気味に開き直ると、フラムは笑うのをやめ、キリッとした顔を作った。


「いや、死を恐れることは臆病ではなかろう。そうでなければ儂も臆病者になってしまうからの。生きる者として当然のことじゃろう。

 死とは恐ろしいものじゃ、自分から喜んで死ぬやつなぞなかなかおらんだろう。じゃからお主のその気持ちは至極ブフッ当ぜフフッんのものだと儂は思うぞ。」


『絶対思ってないだろ。』


 いいことを言ってるつもりなのだろうが笑いが堪えられてなくて台無しである。殴っていいだろうか。

 真剣に脳天を叩きに飛びかかろうかと考える。


「すまぬすまぬ、そう殺気立でない。

 儂を下した者がそのような弱音を吐いていると思うと可笑しくてな。」


『性格悪いな、お前。」


「なんじゃ、知らなかったのかの?

 ともかくじゃ、お主本気で怖れているのか?」


『……ああ。』


「そうかブフッ。」


『次笑ったら本気で埋めるぞ。』


 再び爆笑しそうになっているフラムに釘をさす。

 なんでこんなやつに話してしまったのだ俺よ……。少し前の自分が恨めしい。


「そうじゃな、話が進まんわい。」


 フラムは大きく息を吐いた。


「儂の意見だがな、お主はさっさと助けに行くと良い、いや行くべきじゃと思う。」


『いや行く行かないではなくてだな――』


「お主は本当に行かなくて良いのか?」


 フラムは真剣な顔で俺を見てくる。


「おっと、怖いからとか面倒なことを言うでないぞ。お主がどうしたいかを聞いておるのじゃ。」


『どうしたいかって言ってもな……。どうにもできないだろう。』


「だから面倒なことを言うなと言っておろう。それを考えずにじゃよ。』


 フラムは諭すように話しかけてくる。

 それを考えなければ当然俺は……


『……助けに行きたいさ。』


「そうじゃろう、そうじゃろう。」


 フラムは満足気に頷く。


「お主はよく生きることがつまらないだとか言っておったの、その理由がようやく分かったぞ。

 お主は慎重すぎたのじゃろう。慎重なのは良い事じゃが、何事も過ぎれば害となる。」


『つまり何が言いたい?』


「お主、今までもそうやって危険から逃げてこなかったか?」


 息がつまり、問いに返せなくなる。

 確かに俺は今まで出来る限りの危険を避けてきた。世界の崩壊だとか目の前の喧嘩好きのように避けれなかったものもあったが、避け続けてきた。

 それは生きるためであって過ぎたことではなかったはずだ。

 しかし本当にそうだったのだろうか?考えてみればこれほど長く生きていること自体が異常だ。生きる上では必ず危険があり窮地に陥る事があるはずだ、しかしそれが俺にあったか?


 俺が俯き、黙り込んでいると、フラムはそれを図星と取ったようだ。


「その様子だと当たりのようじゃな。

 お主は危険を避けすぎた生きる上での経験らしい経験をほとんどしておらんかったようじゃ。自分より何十倍も若い儂に説教されてしまっているのが証拠じゃな。」


『…………。』


 何も言えない、俺の異世界での生活は本当に薄いものだった、フラムの言葉が否定できない。


「経験がないから知識や体験した感覚がない、それらがないから自身がひどく空虚に見えて自分が信じられんのではないか?どうじゃ?」


 だいたいそんな感じだ。

 無言を肯定と取り、フラムは続ける。


「図星のようじゃな。

 ま、それは今すぐにどうにかなることでもあるまい。

 そこでそんな我が友にアドバイスじゃ……今までの生のほとんどを戦いに費やしてきた者から言わせるとじゃな、お主は負けて命を落とすことを怖れているようじゃが、儂はお主が敗北する未来が全く想像出来ぬ。」


 フラムの言葉に驚き顔を上げる。

 確かに俺はフラムより強いが戦闘の仕方は力押しのお粗末なものだ。単純な格上や、格上と戦い慣れた者には簡単にあしらわれるだろう。

 しかし、そんな俺をフラムは負けないという。


「お主は強い、儂が保証する。自信が持てぬというのなら儂を信じてみてはどうじゃ?結構長い付き合いじゃろう。」


『フラム……。』


 再び顔を下げ塾考する。

 俺はフラムの話に納得出来た、いや出来てしまった。()()()()()()()


 異世界の生活が薄い、毎日が退屈で仕方がない。

 それは俺がそう望み行動したからだろう。俺が危険を避けに避けた結果だっただろう。

 ただ自分で望んだ通りの結果に不満を抱いているだけだ。明らかにその望みは俺にあっていなかっただけのことだ。


 危険を避けてきた結果、俺の生は死とさほど変わらないものになってしまった。安全と引き換えに俺は色々なものを手に入れれなかった。


 ここであの妖精族(エルフ)の少女を見捨て、変わらないあの退屈な毎日に戻るか。

 危険に飛び込む愚行を起こし、自らがやりたいことやりきるか。


 二つに一つだ、第一、俺の死んだような生と、まだ将来のあるあの娘の命ならばどちらを優先するかなど言うまでもあるまい。


 腕を組んで待ち続けてくれていたフラムに告げる。


『……分かった、お前を信じてみるよ。』


 フラムは目を細めてニンマリと笑う。


「やっとその気になったか、ヘタレめ。」





 その後ヘタレ発言について一悶着あったが、俺はあの兄妹(きょうだい)の後を追うことにした。

 しかし問題が発生する。


『あの二人の気配が分からない。』


「のっけから躓いたの。」


 そう、後を追おうにも痕跡が分からなかったのだ。

 洞窟を出ていった魔力の残滓は三種類あり、一つは俺でもう二つがあの兄妹(きょうだい)ということは分かったのだが、森に入ったところで途切れていた。森の魔物達の魔力の残滓と混ざってしまいわけがわからなくなってしまっていたのだ。


『まずいな、俺はそんなに細かい気配感知なんて出来ないぞ。』


「最西端の海に行くと言っていたのだろう?そこら辺を探してみれば良いのではないか?」


『まず海に着いているかどうかも分からないしな……。』


 高精度な索敵となると、俺が出来る範囲はせいぜい五キロがいいところだ。

 だがここから海までは少なくとも五キロ以上はあるだろう。時刻もすでに日が落ちかけている。彼らの進む速さが分からないが、ここから半径五キロ以内にいることは恐らくない。


『走りながらの索敵は精度が落ちるしな……。』


「海あたりで呼んでみたらどうじゃ?」


『それ邪悪な存在とかいうのに気付かれるんじゃないか?』


「そもそもそいつは何者なんじゃ?邪悪な存在とは胡散臭い。」


『知らん、妖精族(エルフ)の占い師が占ったのだとさ。』


「ますます嘘くさい、そんなやつ本当にいるのかのう……?」


 その世界の占いは魔法の一種なので、かなりの確率で当たるという。そのかわり内容が抽象的らしいがここまであやふやなのものなのだろうか。せめて魔物かぐらいは分かりそうなものだが。


『俺らが考えても仕方ないけどな、それよりも探す手段を考えないとだ。』


「そうじゃ、お主犬じゃろう、匂いで辿れぬのか?」


『犬ではなく狼なのだが……まぁ確かに鼻は良いと思うぞ。でもあの二人の匂いなんて分からないと思うが……。』


 そう言いつつ地面の匂いを嗅ぐ。

 やっぱりよく分からな――ん?、これは……


『……毛布?』


「ん?何か分かったかの?」


『俺の毛布の匂いがする。』


「はぁ?」


 フラムの頭にハテナマークが浮かんでいる。


 間違いない、これは俺の毛布の匂いだ。俺が転生してからおよそ百世紀後に作り、それからの ずっと俺の愛用品だった毛布。

 元の魔物の匂いはほぼないが、毎日使っているだけあって俺の匂いと魔力が染み付いている。ここまで強く痕跡が残るほど使い込んでいたのはあの毛布ぐらいだ。


『でもなんで毛布が……?』


 あの兄妹(きょうだい)は勝手に持っていくような性格ではないだろう。


 ……あれ?でも妹の方がが何か言っていたような……?


『おはようございます、狼さん。この毛布とても気持ちよかったです。ありがとうございました!

 ……あのもし予備等があればお一ついただけませんか……?』


『『ううん……いいぞ……。』』


『本当ですか!ありがとうございます!』


 ……うん、言ってたな、もっと寝ていたかったから適当に返した覚えがある。

 それで持って行ってしまったか……適当に返した俺も悪いのだが……そんなに欲しかったのか毛布。


『俺の毛布を持って行ったみたいだ、これならある程度辿っていける。』


「色々と解せぬが……とりあえず問題は解決というわけじゃな?」


『あぁ、今から二人の後を追う。フラムはどうする?』


「なんじゃ、置いて行く気か?無理にでもついて行くぞ?」


『そうだと思ってたよ。だが急ぐからな、ちゃんとついて来いよ?』


 フラムにそう言うと、俺は全身に魔力を巡らせる。

 自分の魔力と匂いなら全速力で走ってもちゃんと追えそうだ。


 思いっきり地面を蹴り飛ばし、俺は数百世紀ぶりの全力疾走を開始した。





 凄まじい衝撃波を残し、捉えきれない速さで森の中に消えていった狼を見て紅い竜帝はことばを漏らす。


「これほどデタラメな力を持っとるくせに、何に負けると思っとるのじゃあやつは……。」


 神の域に到達した己でさえ底の知れない狼の言ったことを思い、フラムはため息をこぼす。

 そして置いていかれないように巨大な翼を広げ飛び立った。

真剣な雰囲気が上手く書けませんでした。

お読みいただきありがとうございました。

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