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狼さんと村での生活

ぶっちゃけ蛇足回です。


本編にはあまり関係ないですがお許しください。

 あれから、俺はアフェリンちゃんに魔法を教えるようになった。


 彼女の魔法の素養は、かなりあった。何故あの程度の魔法に、あんな長ったらしい詠唱をしていたのか不思議なぐらいだ。


 俺は主に、魔力の使い方を教えていった。魔法はイメージが重要で、魔力をいかに思い通りに動かすことがカギだとか、詠唱は補助でやればいいと思うなどだ。


 逆に、俺もアフェリンちゃんに色々と教えてもらった。


 例えば、普通、魔法というものは詠唱が不可欠らしい。明らかに俺の言うことと矛盾する話に、初めは信じられなかったが、曰く、無詠唱は、相当熟練した魔法使いじゃないと出来ないらしい。

 最終的には、詠唱無くても出来るじゃん、と言うと、何十年修行しなきゃいけないと思ってるんですか、と返された。


 多分、この世界の魔法における詠唱は自転車の補助輪のようなものなのだと思う。初めから補助輪無しで走れるやつはそうそういない。そして、この自転車を走らせるのは難しいのだ。しかも、種類がたくさんあって乗り方も違う。


 俺が乗りこなせたのは、全てに通じること、例えば、体幹、ハンドルの切り方などの基本ばかり学んできたからだろう。無理やり自転車で例えたから、微妙に違うと思うが。

 確かに、この方法だと、ものにできれば便利だが、それまで時間がかかりすぎる。人間の寿命だと無理だ。魔物ならではの年の功ってやつだな、微妙な気分だ。


「狼さん、見て見て!」


 かけられた声に、思考を中断する。


 現在俺がいるのは、リビングである。リビングのテーブルに座って、適当にあった本を読んでいた。

 オワズさんは買い物、オグエルさんは仕事の木こりに行っている。


 見ると、南の部屋へ通じるドアから出てきたアフェリンちゃんが、興奮した様子で走り寄ってきた。


 ちなみに、敬語は使わないように頼んだ。なんとなくむず痒いし、アフェリンちゃんも若干無理して使っていた感じもあったからだ。


「どうした、何か質問か?」


「違うわよ、これを見てちょうだい!」


 そう言うと、アフェリンちゃんは手をお椀にして、目を閉じた。


 すると、数秒の間の後、アフェリンちゃんの手の中に小さな火が生まれた。


「おぉ。」


 思わず声が出る。アフェリンちゃんが詠唱無しで魔法を発動出来たのはこれが初めてだ。


「どう⁈」


 アフェリンちゃんが火を消す。

 その頰は赤らみ、見事なドヤ顔を披露してきた。可愛い。


「大したものだ、あとは出来るだけ早く発動出来るように練習してみろ。その魔法が完璧に使えれば、大体の魔法の基礎は分かるはずだ。」


「分かった!」


 興奮覚めやらぬ様子で、アフェリンちゃんは部屋に戻って行った。


「……随分と早く習得させたものじゃの。」


 アフェリンちゃんを見送ると、入れ替わるように、フラムがやってきた。


「フラムか。まぁ、元から才能はあったからな。」


「それにしても早いと思うのじゃが……やばいことはしてないじゃろうな?」


 そう言いながら、フラムは俺の隣に腰掛けてきた。


「別にそんなことはしてない。アフェリンを通して魔法を発動したりしただけだ。」


 本来、回復以外の目的で他人に魔力を流し込むと、相手の体を傷つけてしまう。正確に相手の魔力の通り道、魔力回路とでも言うべきものに自分の魔力を通せず、その周辺の細胞を破壊してしまうのだ。


 だが、強力な魔法ならともかく、小さな火を生み出すぐらいの魔力ならアフェリンちゃんの体を傷つけることもない。いつもよりゆっくりと発動すれば普通に出来るしな。


「なんじゃそれ……。」


「そうすれば自分で発動するイメージも掴みやすいと思ってな。」


「どうやるんじゃ、儂にもやってみてくれ。」


「お前は必要ないだろ。」


「いいじゃろ、減るもんでもないし。」


「俺の魔力は減るのだが……。」


 そうは言いつつも、フラムにも魔力を流してみる。


 うーん、竜だからなのか、フラムだからなのか、アフェリンちゃんよりも魔力を通しやすい気がするな。魔法の熟練度とかも関係あるのだろうか。


「おぉ〜、これは良いのう。あぁ〜。」


 フラムから風呂に入ったおっさんみたいな声が聞こえてきた。


「どうした、変な声を出して。」


「これは良いのう、お主の魔力がじんわりと回って温かくなってきよる。」


 魔力を流し込んでいるのはフラムの肩だ。

 あれか、サ○ンパスの温かいやつみたいなものか。


「へー、そんな感じなのか。俺にもやってみてくれ。」


 座る向きを変えて、フラムに背中を向ける。


 が、何もしてくる気配がない。

 不思議に思い、振り向くと、フラムが苦い顔をしていた。


「いや、悪いが儂にそんなことは出来ん。」


「いやいや、魔力を流し込むだけだぞ?回復魔法と同じような感じだ。」


「他人に回復魔法をかけることなど、まずないからのう。それに、回復魔法とは精度が全く違うじゃろう、他人の魔力の通り道なんてどうやって探るんじゃ。」


 そう言って、フラムはお手上げと言うように肩をすくめた。

 本当に出来ないらしい。俺も魔力がじんわりと回るような感覚を知りたいのに。


「なんだ、竜帝とか言ってるのに出来ないのか。」


「竜帝だろうが苦手なものはあるわい。というか、儂が得意なのは戦闘の方じゃからな?」


 フラムがムッとした顔をする。


「はぁ。そうだよな、お前は戦闘好きの脳筋だもんな。こんな風な細かいことは出来ないよな。」


 ピキッ


 フラムの額に青筋が浮かぶ。


「……良いじゃろう、そこまで言うならやってやろう。」


 フラムが、ポン、と俺の肩に手を置く。


「お、やってくれるのか。」


 言ってみるものだ。

 何だかんだで、フラムは魔法とか戦闘のセンスは良いし、こういうのも出来るだろう。


「あぁ、儂の全力を尽くしてやろう。」


「おぉ、ありがとう。ちょっと強くても大丈夫だぞ。」


「あぁ、分かっ……た!」


 その日、ルーラスの住人の全てが、爆発音を耳にした。


 仮にも竜帝の座につく竜の、範囲を極限まで狭めた渾身の炎は、狼の全身を焼き尽くした。


 その後、大喧嘩をして、家主に説教された挙句、アフェリンに呆れられる二人の姿があったそうな。


「……散々じゃ。」


「……全くだ。」


「元はと言えばお主が煽るからじゃぞ?」


「お前が乗ってきたからだろ。」


「狼さんも!竜帝様も!聞いていますか⁈」


「「はい」」


「今回はリビングぐらいで済みましたけどね!アフェリンや、周りの家の人達にまで被害が広がったらどうするつもりだったんですか⁈本来竜帝様はにこんな無礼なことは言えませんが我慢できません!そもそも口喧嘩が原因で魔法を使い始めるだなんて――」


 ちなみに、リビングは狼が修復した。





 くだらない喧嘩と説教から三日後。

 俺は朝から少し新しくなったリビングで、オワズさんと話して暇を潰していた。


「だから、あの喧嘩はフラムがふっかけてきたんだ。俺は悪くない。」


「狼さん、どんな理由があっても喧嘩は良くないことです。先に竜帝様が手を出したのかもしれませんが、反撃したのは事実でしょう?」


「あの馬鹿が全力でくるからだ。室内で火を使うとか頭おかし痛っ。」


 最後まで言い終わる前に背後から頭を叩かれた。

 振り返ると手を手刀の形にしたフラム(馬鹿)が立っていた。


「誰が馬鹿じゃ、この阿呆。」


「誰が阿呆だ。」


「お主に決まっておるじゃろう。

 というか、しつこいぞ、いつまであの喧嘩を引っ張るんじゃ。」


「お前も昨日言ってただろう。昨日の事も忘れたのか、馬鹿め。」


「なんじゃと?」


 互いの胸ぐらを掴んで拳を固める。

 パワーは多分俺の方が上だ、一撃でノックアウトしてやる。


「オッホン!」


 三日前の喧嘩を再開させようとした俺達の拳は、すっ、と下ろされた。


「まったく……狼さんも、竜帝様も、子供じゃないんですからやめてください。

 それともまだ私の言いたいことが分からないんですか?」


 フラムと一緒に首をブンブンと振る。


 あのお説教はもうごめんだ。


 チラリと横目でフラムとアイコンタクトを取る。ついでにフラムの思考も読む。


 よし、同じ事を考えているようだ。


「いやー、よく考えれば儂にも非があった気がする、すまなかったのう。」


「いやいや、俺の方こそ、俺の発言が良くなかった気がするし、お互い様だ。」


 お互いにがっしりと握手をする。


 ……この野郎、全力で握ってきやがる。ここまで一緒だったか。


 目の前のフラムの顔には脂汗が滲んでいる。俺の握力で奴の手が軋む音が聞こえるようだ。


「ハハハハハ……ぐぅっ!」


「……!」


 一見仲直りしたように見えて、全く自分の非を認めていない二人を見て、オワズはため息をつく。

 一人はともかく、もう一人は竜として長く生きてきたはずだが、何故こうも子供っぽいのか。


「とにかく、喧嘩はやめてくださいね。まったく……。」


 仲直りの握手(偽)をしている間に、オワズさんは、自分の部屋に戻ってしまった。


 バタンとオワズさんの姿がドアの向こうに消えると、俺達は手を離した。


「ハァッ……手が潰れるかと思ったぞ……たわけめ……。」


「お前が全力で握ってくるからだろう。」


「明らかに初めから潰しに来てたじゃろ⁈」


「気のせいだ。」


 フラムを軽く流して、この後のことを考える。


 オワズさんはこの後家事をしてくれるので暇ではないだろう。アフェリンちゃんの部屋にでもお邪魔しようか。


「そういえば、お主、仕事はどうした。いつもならいない時間じゃないか?」


 手を再生したフラムが質問してきた。


 オワズさん宅の住人で一番早起きなのは、オグエルさんだ。あの人は、朝早くから夜遅くまで木こりの仕事をしている。お陰で全然会うことがない。会話したのも自己紹介の時を含めても数回ほどだ。


 オグエルさんより少し遅くオワズさんが起きて朝食を作ってくれる。その後に俺、アフェリンちゃんと起きてくるのが常だ。ちなみにフラムは一番遅い。


 現在は前世で言うところの九時ぐらいだ。俺のいつもの出勤時間をとっくに過ぎている。


「いつもは午前なんだけどな、午後担当の人に変わってほしいと頼まれた。」


 午後担当の人とはメルスのおっさんの事だ。

 昨日の交代の時に、用事があるから代わってくれないか、と頼まれたのだ。

 用事については、聞いても教えてくれなかった。真面目な用事だから本当に頼む、と頭を下げられたから言及しなかったが。


「ほー、では午後から仕事か。ご苦労なことじゃの。」


 そう言ってフラムは興味を失ったように、キッチンの方へ行ってしまった。お菓子か何かを探しに行ったのだろう。


 俺も席を立ち上がる。


 最近会ってないし、猪の様子でも見に行こう。





 オワズさんの家の隣には結構大きな倉庫がある。昔は村中の農具や武器類などが置いてあったそうだが、それらを個人管理することとなり、使わなくなったそうだ。


 倉庫の鉄扉を開ける。微妙に錆びついていて、扉の擦れる嫌な音がした。

 扉を開けると獣臭い空気が流れ出てきた。


「久しぶりだな。」


「プゴッ?」


 猪は倉庫のど真ん中に鎮座していた。出入り口と反対側の壁の窓からの日光を浴びて幸せそうに目を細めていたが、俺が声をかけると、目を開いて振り向いてきた。

 ……今の鳴き声が、あれ、誰だっけこいつ、のような感じがするのは気のせいだろうか。


 猪の世話はオワズさんがやってくれている。俺が仕事を始めて家賃を納めるようになってからやり始めてくれたのだ。こちらが遠慮しても、年寄りは体を動かしていた方が良いんですよ、と言われて押し切られてしまった。その時まで知らなかったが、オワズさんは結構なお年らしい。

 まぁ、猪の世話と言っても、魔物は排泄もしないので餌を与えるぐらいだ。そうでなければ、オワズさんに悪くて、とっくのとうに屠殺しているだろう。


「どうだ、ここの住み心地は、気に入ったか?」


 猪から肯定の意が返ってきた。餌が自動で貰える上に、安全が保障されているのだから文句は無いのだろう。野生の環境と比べれば天地の差だ。


 猪の目の前に移動してしゃがみこむ。


 改めて見るとデカイなこいつ。


「……ちょっと太ったか?」


「ブゴッ⁈」


 なんとなく、こう、頰のあたりが膨らんでいる気がする。


 ちょっと美味しそうだ……冗談だから後ずさるな。埃が舞う。


「そうか、お前が運動できるスペースが無いのか。」


 倉庫は大きめといっても、この猪もだいぶ大きい。走り回ったらあちこちにぶつかるだろう。とはいえ、運動不足は良くない。魔物に生活習慣病があるかは知らないが、体に良くはないだろう。病気になると味も落ちそうだし。


 まだ昼までは時間がある。


「よし、運動しに行くか。」


 猪が、何言ってんだこいつ、と言った視線を向けてくるが、本気である。


 目の前にあった猪の牙を掴む。猪がキョトンとしている間に瞬間移動の魔法を使った。

 行き先は村の周りの山、無人だし、走り回るには最適だろう。


 視界が、薄暗い倉庫の中から明るい山の中に切り替わった。突然のことに猪は呆然としている。


「ほら、呆けていないで走るぞ。」


 猪の上に飛び乗って背中を叩く。


 髪を後ろで適当にまとめる。前回猪に乗って学習したことだ。まとめておかないと、後ろでなびいて枝とかに引っかかるのだ。邪魔なことこの上ない。


 何気に、女になって気にしたのはこれぐらいかもしれない。人から狼になってしまったわけだし、ちゃんと人型になれたのだから別にいいか、と案外受け入れているのだろうか。

 この世界には魔法という便利なものもあるし、性別で苦労したことはあんまりなかったこともあるだろう。あったとすれば体を洗う時くらいか。


「いくぞ、あっちだ。」


 再度猪の頭を軽く叩く。


 突然の山中に猪は状況が飲み込めていないようだったが、俺が指差した方向に走り始めた。

お読みいただきありがとうございました。


※ 4/14 少し修正しました。

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