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狼さんと狩り

 朝が来た。

 小鳥のさえずりが聞こえる。

 天気は雲ひとつない快晴、ポカポカと暖かな素晴らしい朝だ。今日は何かいいことがあるような気がする。気がするだけだが。


 俺の一日は朝食を調達することから始まる。

 というか俺の一日はほぼずっと狩りだ。今は止まったが、少し前まで俺の肉体は成長し続けていた。それに比例して食べる量も増えていき、なかなか食料を貯めれず、今もギリギリの状態である。


 魔物が成長とはおかしな話だが、構成する魔力の量や質が上がると思って欲しい。量が増えるので体も大きくなっていくが俺は魔力操作で体の魔力の密度を上げて一般的な狼と同じぐらいの大きさに留めている。あってよかった魔力操作。


 そんなわけで今日も俺は獲物を求めて狩りに向かう。主な狩場は大陸を囲む島々だ。あそこにいる魔物はそんなに強くない上に美味い。絶好の狩場だ。



 魔力を足に込めて森の中を駆ける。

 景色が後方へ吹き飛んでいく。目的の島へはだいたい5分ぐらいで着く。速度は分からないが、流れていく景色からしてそこそこ速いと思う。島までは結構遠いし。

 ……あれ?そういえば島までの距離って測ったことないな。


 今更なことを考えていると森を抜けて海に出た。

 走る勢いはそのままに魔力を操作し、空中に固め足場として空へと駆け出す。海を越えるのはこれが一番速い。一度泳いでみたのだが、海にいたでかい蛇やタコに邪魔されて、島に着いたら日が暮れていた。あの時は腹いせにジェノサイドしまくってしまった。あの後しばらく食事にありつけなかった……あれはやりすぎた。

 過去の失敗を思い出しながら空を走る。





 目的の島が見えてきた。

 大陸の周囲にある島は小さいものから大きなものまでかなりの数があるのだが、俺のお気に入りは西側の島々で最も大きな島だ。

 なぜかと言うと、ここには俺の主食のワイバーンが主に生息している。ワイバーンは亜竜と呼ばれるドラゴンとは似て非なるものらしいのだが、ぶっちゃけただの空飛ぶトカゲである。全体的に細く、腕の代わりにコウモリのような羽があり、足がない。


 なんでそんなに詳しいのかって?前に魔法で姿を消して人族の国に行った時に冒険者達が話しているのを聞いたんだ。

 ただ、島のやつ暗い紫色なのに冒険者曰くワイバーンは緑色で足があるというが、まぁ突然変異かなにかだろう、多分。


 それで、どうしてワイバーンを狙うかと言うと、実はこのワイバーン、俺のパンチ一発で倒せるのだ。雑魚そのものである。

 そして一番重要なのだが、とても美味い。島々の魔物の中でも特に美味い。

 俺が一番好きな食べ方はステーキだ。歯切れが良く、噛むと肉汁が溢れる。脂はとても濃厚なのに後味はスッキリ……思い出したらよだれが出てきた。慌てるな俺、島はもう目の前だ。






 目的の島に着いた俺はまず魔力を飛ばして周囲の状況を把握する。たまに待ち伏せしてるやつがいるのだ。奇襲されても負けはしないが心臓に悪い。


 周囲の安全を確認し、森の中へ進む。

 ワイバーンは島中央の山に大きな群れが住んでおり、群れの雄が島の沿岸あたりまで獲物を求めて出てくる。その間残った雌が巣の子供の世話をしたりしている。

 俺が狙うのは狩りに出てくる雄のワイバーンだ。


 木々の間を悠々と進む。無防備に見えるがちゃんと魔力を飛ばして索敵を行っているので奇襲対策は万全だ。ワイバーンの体長は三メートルほどなので近づいてくればすぐに分かる。


 普通狩りといえば息を潜めるものだが、俺は魔力を体内に押し込めているせいか、魔力を発していないように見えるらしい。大きさと相まってワイバーンがちょうどいい獲物と思い襲いかかってくる時があるのだ。

 今みたいに。


 背後から急接近してくる気配に向かって尻尾を振り魔力で形成した刃を飛ばす。数瞬の間の後にドサリと何かが落ちる音がした。命中したようだ。


 後ろを振り向くと首のないワイバーンの身体が横たわっている。少し離れたところに首も落ちていた。目を見開いていて少し怖い。


 俺は近くの茂みまでワイバーンの死体を引きずり、周囲に何もいないことを確認してまだ少し暖かい肉にかぶりついた。

 本当は焼いて食べたいのだが、毎回そんなことをしていては時間がかかりすぎる。幸い魔物になった影響か食中毒になったことはないので、生のまま食べても大丈夫だと思う、多分。


 十分ほどで鱗まで残さず食べきった。少し生臭かった……不味くはないがやはり肉は焼いたものが良い。

 火属性魔法で焼くと毎回炭になってしまうのだが、練習をすればいけるだろうか。

 俺はそんなことを考えながら茂みから出て次の獲物を探しに行った。






 肉を鱗と一緒にバリバリと嚙み砕き飲み込む。本日二十体目のワイバーンは俺の腹の中に納まった。

 今日は少々狩りすぎたきがする。やはり美味しいものは我慢出来ないな。

 乱獲は止めていたんだが……でも二十体ぐらいじゃワイバーンは全滅しないし、なんで止めてたんだっけか。


 しばらく思い出そうとしたのだが、思い出せない。食べてしまったものは仕方ないし明日から控えればいいか。


 さて、もう日も暮れてきたし、あと一体を保存用に確保して洞窟へ帰ろう――と思った次の瞬間、


 一筋の閃光が空を切り裂き、地面を抉った。衝撃が空気を震わせ、轟音が大地を揺らす。


 ……危ない危ない、なんだ今のは。

 俺は惨状の現場から数キロ先の木の上にいた。

 見ればついさっきまで俺のいた場所に一キロほどの大きなクレーターが出来ていた。しかも抉れた地面がマグマのように煮えたぎっている。

 回避出来たから良かったものの、直撃していればやけどしていただろう。

 あんな攻撃、ワイバーンが出来るはずがない、別の何かだ。そんなものはこの島にはそうそういなかったはずだが。


 俺は襲撃者の姿を探す。閃光が飛んできた方向に巨大な魔力の反応があった。

 目を強化し、敵を視界に収める。

 ワイバーンのようなひょろっとした見た目ではない。逞しい黒い体躯に太い手足、そして立派な二対の羽。


 間違いない、あれはドラゴンだ。ワイバーンのような亜種ではなく正真正銘本物の竜だ。

 ドラゴンの周りにはワイバーン達が付き従うように飛んでいる。


 思い出した、あいつが出てくるから乱獲しないようにしていたんだ。


「グオォォォォォォォオ‼︎」


 ドラゴンが咆哮する。世界が震えているかのような大音響だ。俺も震えている――歓喜で。


 魔力を操り、四肢を強化する。

 魔力を空中に固め、グッと力を溜め、一気に踏み込んだ。


 空気が破裂する音が辺りに響く。


 目の前にはすでに竜の顔がある。目玉がこちらを向いていない、どうやら視認できていないらしい。


 強化した前足を躊躇なく振り下ろす。


 重く生々しい爆発音が辺りに響く。真っ赤な血飛沫が辺りに飛び散った。


 音が消えた時には竜の頭はすでになかった。代わりに首から鮮血が吹き出ている。

 そして俺は心の中で拳を握る。やったぜ。

 ワイバーン達はさっぱり状況についていけてないようだ。首のない自分たちのボスを見て固まっている。


 そんなワイバーン達は放っておこう。それよりもドラゴンだドラゴン。


 俺がこんなにも喜ぶのには訳がある。

 このドラゴン、めちゃくちゃ美味いのだ。

 前にもワイバーンを狩りすぎた時に出てきたのだが倒して食べてみると美味い美味い。

 ワイバーンの乱獲を控えたのはドラゴン肉中毒になりそうだったからである。


 今回の乱獲はこのことをうっかり忘れてたのでしょうがない。ないったらない。


 前回までは近接戦で仕留めたので閃光のような遠距離攻撃を知らずちょっと焦ったが怪我もしてないしいいだろう、ドラゴン肉も手に入って結果オーライだ。






 その後、日は落ちてしまったが、ドラゴンを解体し、肉の六割ほどを魔法で生み出した小さな火を使い、じっくり焼いて食べた。

 非常に美味だった、思わず遠吠えしてしまった。流石ドラゴン、ワイバーンとは格が違った。


 しかし、改めて乱獲はこれからも自重しようと誓った。本当に中毒になりそうだ。

 また数ヶ月後には忘れていそうだが……。


 何はともあれ、朝の予感は間違ってなかったな。

 俺は残ったドラゴン肉を風属性の魔法で浮かせて上機嫌で夜の空を駆けて行った。

お読みいただきありがとうございました。

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