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狼さんと名前

サブタイトルをつけてみました。

センスについては何も言わないでくださいお願いします……。

 とある狼がルーラスを訪れていた頃、一体の紅い竜が、大陸西の森目指して飛んでいた。


 竜の名はフラニアル・ドラグ・ルーズ、世界の守護者たる竜帝、その紅の席についている。竜帝の席には、紅、蒼、翠、黄、(かち)、白、黒の七席があり、それぞれ、炎、水、風、雷、土、光、闇の属性を持つ竜の頂点に立つ竜が座している。

 竜帝の役割は、肩書き通り世界の守護だ。人族や魔族などの種族には味方せず、世界の安定を維持することである。

 フラニアルは最近他の竜帝から、一匹の魔物に肩入れしすぎていると言われているが。


 そんな竜帝の一体がわざわざ大陸端の森を訪れる理由、それは自身が肩入れする親友に、竜帝全体の意向を伝えるためだった。


 つい先日の邪神復活、それだけでも一大事だったのだが、その折に、一匹の魔物が邪神を滅ぼしたのだ。しかも邪神は今までのように討伐され、封印されたのではなく、完全に消滅させられた。


 ごく僅かの者しか知らなかったこの出来事は、紅の竜帝によって竜帝全体に伝わった。

 当然、初めは誰も信じなかった。邪神の復活は世界の危機、それも世界全てで対処するようなものだ。それが、そこらへんの魔物によって永久の滅びをもたらされたなど、信じろという方が無理だった。冗談にしても不謹慎だとフラニアルを責める者がいたほどだ。

 しかし、フラニアルが何度も主張するので、飛行能力に優れた翠の竜帝が、邪神を封じていた島まで見に行った。


 半日ほどで帰ってきた翠の竜帝の報告は、フラニアル以外の竜帝の度肝を抜くものだった。曰く、邪神を封じていた島の封印は壊されていた。しかし、邪神の気配は無く、島は焼き野原だった。

 これを聞いて、竜帝達はフラニアルの話をおおよそ信じた。封印が無くなれば、確実に邪神の気配は掴める。世界の守護者である自身らは、世界の危機を敏感に察知することが可能だ。しかし、全く何も感じ取れないというのなら消滅は無いにしても、確実に退けられたと見るべきだと考えたのである。


 その後、フラニアルから事の顛末を聞き、竜帝達は話し合った。議題は、主に邪神の消滅の真偽と、邪神を滅ぼしたという魔物についてだった。特に後者は時間がかけられた、もし本当なら、そいつが邪神以上の脅威になる可能性があったからだ。フラニアルは終始、絶対にないと言っていたが。


 フラニアルが自慢気に、儂の友人じゃ、と話して、先に言え!、と怒鳴られたりしながらも会議は続いた。

 そして、竜帝全体の結論は当人の意思を見極めるとなった。つまり、件の狼を竜帝達の前に召喚しようというのである。


 問題は誰が連れて来るかだったが、その役目は自ら親友と言い張っていたフラニアルとなった。本人も、適任じゃな!、と満足気だったので反対意見は出なかった。





 紅い巨体が、森に降り立つ。

 隠しもしない膨大な魔力に、森の魔物達は急いで逃げ隠れた。竜帝の前では、ほとんどの魔物は雑魚同然である。


 紅い竜はいつも通り、一直線に友の洞窟まで向かう。


 洞窟の前に立った竜は、穴を覗き込み、洞窟の奥の方へ話しかける。


「おーい、出てこい我が友よ。儂じゃ、フラムじゃぞー。」


 いつもと同じ呼び声、しかし、面倒くさそうに出て来るはずの友人からの反応が無い。

 寝ているのか?と思い、さらに大きな声で呼びかける竜、その声は森中に響き渡り、魔物達を怯えさせた。

 しかし、それでも友人からの反応は無い。不審に思ったフラニアルは周囲を見回して、木の上で隠れていた猿型の魔物をつまみ上げた。


「おい、お主。ここにいた者を知らぬか?」


「キキィ⁈」


 突然の浮遊感と、目の前に現れた竜の顔に猿型魔物はパニックになったが、フラニアルがさっさと答えろと魔力を強めながら急かすと、慌てて身振り手振りで説明した。


「何、北の方に行ったじゃと?」


「ウキィ!」


 ブンブンと激しく首を縦に降る猿型魔物、話たから早く離してくれと目が訴えている。

 フラニアルは猿型魔物を木の上に戻し、軽く礼を言うと、北に向かって飛び立った。


 上空から魔力の跡を探りつつ、北に向かって飛ぶ。しかし、森の中には何の痕跡もない。

 まぁ、あやつはいつも魔力を出しておらぬからの、と思いつつ北に向かって飛び続けたが、ついに森の終わりが見えてきてしまった。


 しかし、フラニアルに訪れたのは落胆ではなく、友の痕跡を見つけた喜びだった。

 森を出た先の草原の大地に強い魔力の残滓があったのだ。これほど強い魔力の残滓は、間違いなく自身の友のものだとフラニアルは確信した。


 問題は何故黙って出て行ったのかだが、多分忘れているだけじゃろうとフラニアルは推測する。

 その予測はほとんど正解だった。狼は親友の紅い竜のことは考えてはいたが、事後報告でいいだろ、と適当に流していたのだ。


 草原に降り立ち、はっきりと残る魔力から使われた魔法を推測する。


 フラニアルは自らの友が行使する魔法が、世間一般のそれとは全く違うことを知っている。


 普通、魔法というものは簡易的なものでも詠唱が必要だ。熟練者ならば、詠唱破棄も不可能ではないが、よほどの才能があるか、既存の魔法を何度も反復して感覚で覚えなければならない。


 しかし、あの狼の魔法は全く違う。その最たる点は、思い描いたことをそのまま現実に投影しているかのような自由度だ。

 フラニアルはあの狼が同じ魔法を使っているところを見たことがない。正確に言えば、同じような魔法でも微妙に違うのだ。例えば、火炎を放つ魔法でも、竜の形をしていたり、収束させて放ったり、逆に拡散させたりと様々なバリエーションがあった。


 他にも発動後の魔法を途中で変更したりと、とにかく無茶苦茶なのだ。フラニアルで無くとも分かるほどに。


 あいつは大丈夫なんじゃろうか、一人で行くとか不安しかないのじゃが。


 そんな事を考えながら、フラニアルは地面の調査を終わらせた。


 結果は予想通りというか、不安の増すものだった。

 地面の土は、地平線の向こうまで一直線に草が無く、掘り返されたかのような不自然さがあった。そして、魔力の残滓は地面の表面にしかない。

 この状況と、親友の性格からフラニアルはこう推測した。なんらかの物理的な要因で草原をめちゃくちゃに荒らし、慌てて魔法で修復した、と。

 そして、多分その物理的な要因というのは、思いっきり走ったりでもしたのだろう。跡がまっすぐ向こうまで続いている。


 フラニアルは北に伸びる走行跡を見て、追いかけることを決心した。


 北の地で、親友がさらに何かやらかしそうなのが心配であり、楽しみでもあるのだ。なんにせよ早く会いたい。


 善は急げと、紅い竜は翼を広げ、その体を青空へ舞い上げた。





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「?」


「どうかしましたか?」


「いいや、なんでも。」


 なんだか、誰かに噂されているような気がした。くしゃみも出ていないし、気のせいだろうか。


 俺と猪は鳥魔族さんに連れられ、村の中心に向かっていた。


 歩くたびにワンピースの裾がひらひらと動いて、違和感がすごい。なんとかして服を変えれないだろうか、魔力で作られているようだから、技能で弄ってみようか。

 あと、歩くたびに胸が揺れて邪魔くさい。バランスが崩れるというか、とにかく邪魔だ。

 前世では、大きな胸には夢と希望が詰まっていると思っていたが、実際に自分がなると夢も希望もない。残念だったな、前世の俺、でも柔らかいのは確かだぞ。


「あなた、どこから来たの?」


 とてもくだらないことを考えていると、鳥魔族さんから質問された。


 どこから、と言われても返しに困る。とっさにいい感じの嘘が思いつかなかった俺は、正直に話した。


「大陸の西の方からな、ちょっと事情があって新しく住むところを探しに来た。」


「……それなら、ここから南にある草原を越えて来たのかしら?」


 この村から南にある草原というと、俺が走り抜けたところだろうか。

 だいぶ雑に通り過ぎたが、確かに越えた。


「まぁ、そうだな。それがどうかしたか?」


「いえいえ。

 そんな遠くから大変だったでしょう。」


「そうだな、大変だった。」


 暇で。


 その後も、猪の事とか、どんな旅をしてきたのかとか、この村についての事とか、他愛ない話をしながら歩いていると、鳥魔族さんが立ち止まった。


「ここが私の家よ、猪さんは隣の倉庫を使ってくださいな。」


 案内された家は、途中で見た村のどの家よりも大きかった。豪邸というわけではないが、明らかに他と比べて高級というか、まず倉庫が付いているのがこの家ぐらいだ。


 ……この人、何者だよ。


 じっと鳥魔族さんを見つめる。俺の視線に気づいた鳥魔族さんは、それに込められた意図を察してお辞儀をしながら自己紹介した。


「自己紹介がまだでしたね、私の名前はオワズ。この村の村長を務めさせてもらってます。」





 猪を倉庫に入らせ、鳥魔族さん――オワズさんに連れられるままにドアをくぐった。


「あ、そうそう。

 同居人がいるのだけど、今買い物に行ってもらっているから後で紹介するわ。」


「分かった。」


 家の中を紹介してもらいながら一通り見た。

 オワズさんの家の間取りは、キッチンと繋がったリビングが家の中心にあり、北が玄関で、南、西、東の三方向に一つずつ部屋があった。こういう家はワンLDKって言うんだったか?


 同居人が帰って来るまで待っていてと、リビングで緑茶のような飲み物と煎餅のようなお茶受けを出された。あと縁側と猫がいれば完璧だったのに。


 生前、一度はやってみたかった組み合わせは叶わなかったが、お茶と煎餅は美味しかった。というかまんま緑茶と煎餅でびっくりした。俺以外にも転生者がいたのだろうか。





 リビングの椅子に座り、テーブルに置かれた煎餅擬きを食べながら、オワズさんとこの家まで案内されていた時と同じような話をしていると、玄関の扉が開く音がした。同居人とやらが帰ってきたらしい。


「あら、帰ってきたわね。ちょっと待っててちょうだい。」


 オワズさんが玄関に続く扉に消えていった。


 どうしよう、第一印象は大事だよな。


 魔力で鏡を作り、手櫛で髪を整えてみる。

 うむ、良くなったのだろうか。よく分からない。


 扉が開く音に鏡を魔力に戻す。ただの魔力となった鏡は空中に霧散していった。


 扉からオワズさんの後に続いて二人の魔族?らしき人が入ってきた。

 一人は、頭からガゼルのような角が生えていて、黒くて細長い尻尾がある老人。頭はヤギだろうか、白い毛で覆われていて目が見えない。

 もう一人は、高校生ぐらいの見た目をした少女だった。白い肌に赤い目、一見アルビノのように見えるが、この村にいるということは魔族なのだろう。


「紹介するわ、私の同居人のオグエルとアフェリンよ。」


 オワズさんが手で二人を示す。老人の方がオグエルで、少女がアフェリンのようだ。


 こちらも椅子から立ち上がりお辞儀をする。

 オグエルさんは、よろしく、と言って会釈をしてくれたが、アフェリンちゃんはオグエルさんの後ろに隠れてしまった。人見知りなのだろうか。


 オワズさんは、あらあら、と困ったように笑う。


「ごめんなさいね、恥ずかしいみたい。そのうち慣れてくるだろうから、気にしないであげて?」


「大丈夫だ、気にしていない。」


 小さいうちはそんなものだ。俺が生理的に受け付けないとかではないと信じたい。


「それじゃあ、俺からも自己紹介させてもらおう。

 俺の名前は……」


 ……なんだっけ。


 自分の名前が思い出せない。フラムは俺のことを名前で呼ぶことは無いし……あれ?俺の名前ってなんだ?


 ズキリと頭が痛む。


 ふと思い出し、この前ディエリスに直してもらったステータスを見る。しかし、名前の欄は空白だ。


 痛みが強くなっていく。


 突然黙り込んで、ステータスを開き始めた俺を訝しむようにオワズさんとオグエルさんが見てくる。アフェリンちゃんも、オグエルさんの背中からこっそりと覗いていた。


 頭痛に耐えられず、考えるのをやめる。


 なんで名前が思い出せないんだ?そもそも、俺に名前ってあったっけ?


 よくよく考えたら、前世はともかく、今世で俺は名前を付けられた覚えがない。生みの親がいないのだから当たり前と言えばそうだが。


「ちょっと、大丈夫?」


 オワズさんが心配そうに言ってくる。


「気にしないでくれ。少し頭痛がしただけだ。」


 オワズさんはまだ気にしているようだったが、とりあえず引き下がってくれた。


「さて、俺の名前なんだが……諸事情で言えなくてな、狼さんとでも言ってくれ。」


 いつかの妖精族(エルフ)の少女が言っていた呼び方を思い出し、口にする。今の見た目だと違和感しかないが、咄嗟に出てきたのがこれなのだから仕方ない。


「諸事情ねぇ……旅人さんならそんなこともあるのかしらね。

 分かったわ、これからよろしくね狼さん。」


「旅人さんじゃったか、改めてよろしく頼む。」


「……よろしく。」


 オワズさんに続いて、オグエルさん、アフェリンちゃんと挨拶してくれた。

 アフェリンちゃんも挨拶してくれた事に、少しホッとした。

お読みいただきありがとうございました。

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