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狼さんと村

サブタイトルが思いつかないまま話数が増えていく……。

 朝日が昇ると共に、俺は目を覚ました。

 障壁に異常はない、そして、洞窟の主である猪は、隣で幸せそうにいびきをたてていた。何事も無く、無事に夜を越えれたようだ。


 俺はテクテクと歩き、洞窟から出て、近くの池で水を浴びた。

 朝の空気で冷やされた水が、眠気を覚まし、思考をクリアにしていく。


 さて、今日の予定はあの村に到着することだが、一つ問題がある。

 昨日、猪に洞窟まで案内されていた時に思ったのだが、あの村からこの山の方に続いている道はない。普通、商人や旅人が通るためにどんなに小さくとも、一つぐらい道はあるものだ。

 しかし、あの村には、この山と逆方向の方角にしか道がない。

 それが意味することは、あの村はだいぶ辺境にあるのだろう。あの村からこちらに行く人がいないのだ。


 となると、当然、このまま俺があの村に着けば怪しまれる。

 魔物の姿で行くわけにはいかないから、【ジンカ】を使うことになるが、【ジンカ】状態の俺の見た目はお世辞にも強そうには見えない。魔法使いと言っても、本来は、後衛職の魔法使いが一人で旅をするなど不自然だ。


 そんなわけで、怪しまれずにあの村に入る方法を考えているのだが……まだこれといった案は無い。出ている案も、忍び込むとか、門番を殺して入れ替わるとか色々とアウトなものばかりだ。


 理想は一眼で強いと分かる姿になることだが……魔物の姿は勿論却下だし、【ジンカ】を使わず、魔力操作を使ったりして人間になるのは、現実的ではない。絶えず、概念を捻じ曲げた時のような、世界の修正力?が働いていて、操作が非常に面倒なのだ。一時的ならまだしも、長時間使用するのは、俺の忍耐力的な問題で無理だ。


 せめて同行者がいれば、相談でも出来たんだが……うーん、やはりフラムを……。


 そこまで考えておきながら、向こう側の入り口まで迂回するという考えが出ないあたり狼の性根はアホである。


 俺が、またまた親友を連れてこなかったことを後悔していると、ドスンドスンと地鳴りのような音を立てて猪が洞窟から出てきた。

 その巨体は高いパワーと、頑強さを感じさせる。牙は鋭く、下手な金属鎧なら貫通しそうだ。堂々とした姿は、強者の風格を感じさせる。


 いた、強そうな見た目のやつ。


「プギ?」





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 魔族が住む最南の村、ルーラスの南防壁の見張り役は非常に暇だった。


 南防壁と言っても、先を尖らせた丸太を立てて壁を作り、その外側の縁に掘りを作って、底に木の棘を設置しただけの簡単なものである。数匹の魔物なら対応出来るだろうが、もし、魔物が群れをなして襲ってくればすぐに破られるだろう。

 そんな防壁の見張り役は村の平和のためには重要な仕事なのだが、幸か不幸か何も起きないことが常だ。それはこの日も例外ではなかった。


 大きなあくびをする見張り役だったが、小さく体を揺する振動に気づく。

 地震か?と思ったが、振動は地震と言うには遅すぎるペースで大きくなっていく、まるで何かが近づいてきているように。


 見張り役がそこまで思った瞬間、彼の眼前の森から、大きな猪が現れた。

 鋭い牙に、あらゆる攻撃を弾くと言われる肉の装甲、そしてその巨躯、獰猛で有名な、ブアと呼ばれる魔物だった。

 間違いなく村の脅威となる魔物を見て、見張り役は体を強張らせた。


 まるで小山のような恐ろしい魔物の上には、何故か白い服を着た女性が乗っている。

 女性は長い黒髪を背中に垂らししていて、スタイルは細いが胸は溢れんばかりと、抜群のプロポーションをしていた。

 魔族と人族の美的感覚は、個人差はあっても、だいたい同じだ。ゆえに、彼は人族の見た目に近い自分より、さらに人族のように見えても、その女性に目を奪われた。


 見張り役が、猪と女性の美貌の両方にあっけにとられていると、女性が声をかけてきた。


「おーい、村に入りたいんだがー?」


 聞こえるように間延びした声で話す女性を見て、見張り役は我に帰り、問いただした。


「何者だ!」


 手にしていた弓に矢をつがえて、女性に強い語調で問う。自分の弓ではあの猪には傷一つつかないことは分かっていたが、何もせずにはいられなかった。


 見張り役の詰問に、女性は平然とした様子で答えた。


「旅の者だ!

 この村に用があってな、ここから入れないか?」


 こんな辺境の山に何の用が?と思った見張り役だったが、敵対の意思を感じなかったので、とりあえず弓を下ろした。

 そして、まじまじと女性を見つめる。女性には、角や翼は生えていなかった。


「貴様は人族か?この村に何の用だ?」


 本来このような質問は、村の門番の仕事なのだが、退屈だった見張り役はつい聞いてしまった。


「こんな見た目だが、人族じゃないんだ。村では、軽く食料とか買いたい。」


「それじゃあ、そのブアはどうした?」


「ブア……?あぁ、こいつは知り合い……いや、師匠のような人から贈られたんだ、旅では護衛が必要だろうってな。」


 当然ながら、強者の部類に入るブアをテイムすることなどほぼ不可能だ。しかし、魔族には、魔物をテイムするということ自体が稀なことで――魔物を戦わせるより自分達で戦った方が早いため――見張り役はあの魔物を従えれる人がいるのか、すごいな、ぐらいにしか考えていなかった。


「それで、そろそろ入りたいんだが良いか?」


 女性に言われて、見張り役は自分が明らかに職務外のことをしていることに気づき、慌てて謝罪した。


「あぁ、すまない。その判断は俺にはできないんだ。面倒なのだが、向こうの入り口に行ってもらわなきゃならない。」


 そう説明すると、女性は眉間に皺を寄せ、明らかに面倒くさいといった顔をした。


「えぇ〜、面倒だな……。まぁいい、手数をかけてすまなかったな。」


 が、見張り役に文句を言うつもりはないようで、猪に乗ったまま、渋々と防壁に沿って歩いて行った。


 見張り役は、ズシンズシンと言う音と共に遠ざかる後ろ姿を見送って、珍しい客もあったものだ、とひとりごちる。

 あのを連れた旅人を相手する門番は骨が折れるだろうなぁ、というか旅人にしては服は綺麗だし、荷物も少なくないか?と思ったが、自分には関係の無いことだと考えないことにした。


 俺みたいに退屈するよりは、仕事に追われる方がいいだろうと考えた見張り役は、再び退屈な任務へと戻った。





 ふ〜、なんとかなったな。


 猪の背の上で揺られながら、俺は一息ついた。


 あの後、猪についてくるよう頼み、渋々ながらの承諾を受けた俺は、【ジンカ】を使い、魔力で鞄などの旅荷物を作成した。鞄も何も、入れるものを持っていないのだが、手ぶらでは怪しまれると思ったのだ。

 そして、出来立ての鞄を肩にかけ、猪にまたがり、山で襲ってくる魔物を蹴散らしながら山を降りていった。

 あれは楽しかったな、前世で言うところの戦車に乗っているようだった。乗ったことないけど。


 しかし、第一村人に警戒されてしまったのはまずかったな、猪、いや、ブアだったか?の見た目が凶悪すぎたか。

 まぁ、俺自身は大丈夫だったからいいか。人族じゃないというのも嘘じゃないし。


 そんなことを考えながらズンドコズンドコ歩いて行き、村の逆方向に出れたのは一時間ほど後だった。辺境の街とはいえ、そこそこの面積があるようだ。


 ……あれ?これ普通にこっち側に迂回してくれば、(こいつ)連れてこなくても良かったんじゃ?


 あまりにも今更なことに気づいてしまった。

 やめよう、猪戦車は楽しかった、それだけで十分だ。


 人気のない、木を組み合わせて出来た簡素な門の前に立つ。門番はどこだろうか。


 キョロキョロと視線を彷徨わせていると、門の上から声が飛んできた。


「うわ、なんだこのでっかい猪!」


 上を見上げると、村を囲む柵に沿って建てられた櫓の上に一人の魔族がいた。がっしりとした体型で、バイキングのような格好をしている。手には長槍を持ち、頭の側面には、二本の角が生えていた。


「おお、ちょうど良かった。村に入りたいんだが、手続きとか必要か?」


 俺はそう門番らしき魔族に尋ねた。

 しかし、門番らしき魔族は、猪の上に乗った俺を見て驚き、そのまま固まってしまった。

 何度も声をかけても反応がないので、勝手に入っていいかな?と思い始めた頃、やっと門番らしき魔族は再起動した。


「い、いや、特に手続きは要らない。王都ならともかく、こんな辺鄙な街じゃあやるだけ無駄だからな。」


 そう言って門番は櫓から降りていった。門番の姿が見えなくなって数秒、ゆっくりと木の柵、もとい門が開いていく。


 猪に乗ったまま、共に村への第一歩を踏み出す。

 門番が思い出したかのように言った。


「ようこそ、ルーラスへ。」





 のどか。


 ルーラスという村を表すのは、この三文字だった。

 門から入ってすぐの大通りには、様々な建物が点々と建ち並んでいる。どの建物も作りはしっかりしているが、年季を感じさせる古いものばかりだ。

 通りに見える人々は魔族だけだ。あまり多くはないが、閑散としているわけではなく、人々の間には活気がある。ただ単に、人口が少ないと言った感じだ。

 まさに田舎という感想を抱かせる村だった。


 それでも俺は、久しぶりに訪れた人里にワクワクしていた。むしろ前世で人付き合いが苦手だった身としては、人が少ない方が気楽でいい。


 猪から降りて、大通りを進む。通りの人々の視線が痛い、やはりこのでかい猪は目立つようだ。

 早く宿かどこかに預けたい。いや、そもそも、預かってもらえるのか?体長五メートルぐらいあるが。

 ……着いてから考えよう。


 まず宿の場所を聞くために、近くの鳥が擬人化したような見た目の魔族に話しかけた。ただし顔はリアル鳥である。


「すまない、ちょっといいだろうか?」


「はいはい、なんでしょう。」


「この村に宿屋はあるだろうか?出来れば、こいつを預かってくれるようなところがいいのだが。」


 猪を指差して言う。鳥魔族さんはちょっと考えていたが、すまなそうに口を開いた。


「ごめんなさいね、宿は一つあるのだけど、その魔物を預けれるとなると心当たりはないわ。」


「そうか……。」


 この大きさの魔物を置けるスペースがある宿屋は無いようだ。普通の馬からどんなに大きくても三メートルほどだ、当然といえば当然なのだが。


 どうしよう、こいつ食べてしまおうか。そうすれば腹も膨れて、宿にも泊まれると一石二鳥なのだが。


 狼の内心を悟ったのか、猪がジリジリと後ろに下がる。


 あ、そもそもお金持ってないじゃないか。


 今更かつ、一番重要なことに思い至る。

 最悪猪を食べるなり、山に帰すなりすれば良いと思っていたが、このままだと俺まで野宿する羽目になる。


 いや、猪を売れば……、と俺が真剣に考えていると、俺の様子からあてがないと気づいたらしい鳥魔族さんが提案してきた。


「私の家に来るのはどうかしら?見たところこの街に来たばかりでしょうし、宿屋以外に泊まるあてはないんでしょう?

 今は空いている倉庫があるから、その魔物の場所も取れると思うわ。」


 なんとも有難い提案だ。

 だが、失礼かと思ったが、少し気になったので、質問してみる。


「あの、有難いのだが、何故そこまでしてくれるんだ?親切にしても、俺の見た目はほぼ人族だとおもうんだが。」


 人に似た魔族と、異形の魔族の間には軋轢があるはずだ。思えば、村の南の壁で会ったあの見張り役の魔族も人寄りだったが、実はそんな諍いは無いんだろうか?


 そんな俺の疑問に、鳥魔族さんは嫌な顔一つせずに答えてくれた。


「あぁ、そんなことを気にしているのは王都の人ぐらいじゃないかねぇ。こんな小さな村では支え合いが大切だからね、見た目程度の事を気にしても仕方ないじゃない。」


 そう言って鳥魔族さんは朗らかに笑った。

 良い人なんだな、自分たちの敵の姿をした人を、仕方ないの一言で受け入れるなんて、普通は出来ない。


 お辞儀をして、謝罪する。


「すまない、好意を疑ってしまって。」


「いえいえ、私がズレているだけかもしれないしね。気にしなくて良いのよ。」


 ふふふっと笑う鳥魔族さん。鳥顔で表情は分からないはずなのに、ニコニコ笑っているように見えるから不思議だ。


 うん、有り難く泊まらせてもらおう。


 確認の意を込めて、猪に視線を向けると、食べられないならなんでも良いという意思が返ってきた。

 問題ないようなので、鳥魔族さんに泊まらせて欲しいと伝える。


「ささ、来ると決めたなら早く行きましょう。行動は早い方が良いわ。」


 そう言って、鳥魔族さんは村の中心に向かって歩き始めた。俺は猪を連れて、後に続いた。

お読みいただきありがとうございました。


※2/13 少し加筆しました。


※7/1 修正しました。

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