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狼さんと猪

 住処を出た俺は北へ向かっていた。

 南は妖精族(エルフ)が住んでいる、生贄の一件で印象は良くない。というか会いたくない。

 北には魔王城があるのでほとんど魔族しか住んでいない。


 魔族は人族に比べて魔力を多く持つ人が多い。そして姿が千差万別な事が特徴だ。ほとんど人族と変わらない人から角が生えていたり、羽が生えていたらする人もいる。

 後者は、その姿により人族から差別されてきたらしい。特にゴブリンやオークとほとんど見た目が同じ小鬼や豚鬼などの種族の差別は激しかったという。

 前者も前者で、魔族からは人族と似た見た目が忌み嫌われ、人族からも魔族と分かれば最悪殺されたりしたらしい。

 そんなわけで、魔王に味方する魔族はほとんどが人とはかけ離れた見た目をしている。人族に似た人々はひっそりと暮らす者が大半という話だ。

 まぁこの話は全てフラムから聞いたんだけどな。


 結局何が言いたいかというと、妖精族(エルフ)は嫌だし、魔族も魔物として迫害された種族がいる以上友好的とは言い難い。どっちもどっちだったので、俺の印象がまだ良い方に向かっているというわけだ。


 見慣れた森の景色が開け、視界を遮る物の少ない平地へと出た。

 森とは違い、太陽を遮る物が無く日光が燦々と地面を照らしている。そのせいか空気は少し乾燥している。前世で言うところのサバンナと言った感じだろうか、草の背も低くてよく似ている。


 俺は乾燥した、少し砂っぽい空気を感じながら草原にを進む。


 見慣れない景色になんだかウキウキしてくる。本来の目的は住処を探す事だか、少し探検してみようかな。





 とか思っていた時期が俺にもありました。


 草原を歩き始めて小一時間、変わらない景色に俺はうんざりしていた。初めは見慣れない景色を楽しんでいたのだが、代わり映えがなさすぎて飽きてしまった。

 しかも探検しようにも似たような場所ばかりで、やりようがない。


 太陽は相変わらず燦々と輝き、ジリジリと地面を焦がしている。湿気がなくジメジメしていない事が唯一の救いか。

 見渡す限りの乾いた大地には数本の枯れ木が見えるだけで動くものはない。


 おかしいなぁ。住みにくそうなところとはいえ、魔物一匹いないとは。


 歩きながらも俺は首を捻っていた。

 昔俺がまだ住処を持たず各地を転々としていた時には、頼んでもいないのにそこかしこに魔物がいて襲いかかってきた。

 それぐらい魔物は世界に溢れている。人の国の中にはそりゃいないだろうが、こんな人の手が伸びていない大陸の端っこには普通にいるはずだ。


 しかし現実魔物は全く見えない。

 暇だ、とても暇だ。ひとり旅で何もないまま歩き続けるのは、相当な苦行だと身をもって理解している。

 フラムでも呼ぶべきだっただろうか、でもあいつはいらん時まで喋るからなぁ。


 今はいない友人のことを考えてもやはり景色は変わらない。うんざりしていた俺はため息を一つついて決断した。


 走ろう。


 せっかくの旅だし、ゆっくり楽しみたかったのだがこのままでは草原を抜ける前に夜になってしまう。


 足に力を入れて、一気に駆け出す。

 慣れ親しんだ加速感を受けとめながら、どうせ何もいないならと思いっきり走る。

 景色が後ろに流れていく。地面があるせいか、空を走る時には無かった疾走感がある。


 ……思いっきり走るのって気持ちいいな。


 踏みしめた地面が爆ぜ、草が空高く舞い上がり、通った跡の大地は全て掘り返される。

 そんな後方の惨状に気づくことなく、狼は走る快感に夢中になって草原を走り去っていった。





 地鳴りのような音が遠ざかった後、草原のいたるところから魔物が次々と現れた。

 全てこの草原に住んでいる魔物である。


 彼らは知っていた、草原の南にある森には恐ろしい魔物が住んでいると。そしてそいつの見た目はただの灰色の狼だが、実際はとんでもない化け物で、それの前では強者も弱者も等しく有象無象だと。

 だからは彼らその脅威が森から現れたその時に、捕食者も被食者も関係なく隠れたのだ。草原は台風が通り過ぎたかのような有様になってしまったが、幸い死傷した魔物はいないようだ。


 本来は追い、追われ、命を削り合う関係である彼らだが、今この瞬間だけは対等であった。誰も争うことなく災害が去って行った方向を見つめている。

 彼らの目には安堵と、彼の狼が向かう先にいる魔物(どうぞく)への憐憫が浮かんでいた。





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 夢中で疾走すること数分、ようやく草原の終わりが見えた。地平線の彼方からぐんぐんと山々が迫ってきている、草原の隣は山地になっているようだ。


 爪を突き立て、地面を大きく抉りながら止まった。草原の乾いた土が舞い上がり、あたりに土の匂いが立ち込める。

 砂埃で悪くなった視界を風属性魔法で晴らした。


 いやー、楽しかった。こんなに思いっきり走ったのは久しぶりだ。


 爽快な走りをもたらしてくれた草原に感謝しようと思い後ろを振り向く。

 そこにあったのは見るも無残にとっ散らかった地面だった。

 等間隔にクレーターのようなヘコミがあり、地平線の彼方まで一直線にそれは続いている。当然地面を覆っていた草は根こそぎ無くなっていた。


 ……やっべ。


 思わずそんなことを内心呟いて、魔法で修復した。土属性魔法で、クレーターを埋めていく。草はそのうち生えてくるだろう。


 走るのに夢中で周りを見ないとか小学生か、と、地平線の向こうへと繋がっていく大地の再生を見ながら俺は自嘲してちょっと落ち込んだ。

 もう子供じゃないんだぞ……というか超超年寄りなんだぞ、俺……。


 ちなみに、地面を整えていた魔法を狼の攻撃と誤解した草原の魔物達が大パニックになったのは余談である。





 草原の修復を終えて、俺は歩き出した。

 だんだんと草原の乾いた土から腐葉土のような湿った土へと、変化していく地面の感触を足の裏で感じながら歩いていく。


 登り始めた山地には、木々が生い茂っていた。しかし、俺がいた森とは違って森の天井が薄いので、日光が入って明るい雰囲気だ。かすかに鳥の声が聞こえるほどの静かさと相まって、森林浴をしている気分になる。


 ずんずん山を登って行くと、あっという間に頂上に着いてしまった。

 頂上から見えるのはいくつも連なる山々。その山肌は夕日によって赤く染められている。

 ずっと遠くの空には大きな鳥が飛んでいた。


 二つほど先の山の隙間から、山々に囲まれた盆地や、その奥に平地が広がっているのが見える。盆地と平地は大きな道で繋がっていて、盆地の中には村のようなものがある。動く影が見えるので、廃村というわけではないようだ。


 こんなに早く人里を見つけるとは運がいい、あそこに向かおう。

 しかし、そう考えてたものの、もう夜も近い。寝床は早めに確保するべきである。


 ここら辺で寝る場所を探そうと思った時だった。

 背後から真っ直ぐに接近してくる魔力反応に気づく。

 反応の大きさからして魔物のようだ、当たり前だが邪神とかディエリスから感じるものと比べれば非常に弱い。


 そう楽観的に考えて、俺は反応を迎え討つ事にした。

 この前の邪神での一件は俺にもっと自信があれば、少女は傷一つ無く助けられたはずだったのだ。魔法で治したとはいえ、少女を傷つけてしまったのはなんとなく心残りだったのだ。

 だから、これから俺は出来るだけ自分を信じて行こうと思った。今迎え討つと決めたのもその一環だ、邪神に勝ったというのならそこら辺の魔物に負けるわけがないだろう。

 大丈夫、俺は強い。


 そう己を鼓舞していると、目の前の木々をなぎ倒して反応の正体が現れた。


 現れたのは巨大な猪だった。

 口には太く鋭い牙が伸び、ゴツゴツした体からは、硬くごわついた毛皮の下にはぶ厚い筋肉の層があるのが分かる。赤く血走った目が俺を睨んでいた。


「ブゴォォォォ!」


 怒りに満ちた咆哮が空気を震わした。そして猪の巨体が黒光りする岩で覆われていく。土魔法の一種だろう。

 猪は俺に牙を向け、地響きとともに突っ込んでくる。


 俺は逃げ出したくなる気持ちを抑えて、魔力を纏い、猪の突撃を正面から受け止めた。

 轟音が俺と猪の額から鳴り響き、凄まじい衝撃が体を突き抜ける。

 しかし、不思議と衝撃だけで痛みは感じない。猪の攻撃力が俺の防御力を上回らなかったのだろう。


 突撃を受け止められた猪は、目を見開き、固まっている。

 その隙を逃すはずもなく、額をぐっと押し込み、猪の顎の下に頭を潜り込ませた。そして、一気に頭を持ち上げ、カブトムシのように猪を掬い上げ、ひっくり返した。


「プゴォ⁈」


 ひっくり返した猪の上に飛び乗り、魔力操作によって熱せられた爪を、猪の首元に突きつける。熱に耐えきれず、猪の首元の岩装甲が溶けた。


 自らを守っていた鎧が容易く破られるのを見て、猪の目から敵意が消えた。そしてその巨体を覆っていた岩の鎧が解かれていく。抵抗する気は無いようだ。


 このまま爪を突き出せば、猪の命は容易く潰えるだろう。

 しかし俺は、それ以上爪を近づけず、猪の上から爪を突きつけたままゆっくりと降りた。

 猪は殺してこない勝者を訝しんでいたが、おとなしく立ち上がった。


 今までの経験として、この世界ではよほどの力がないと、相手に情けなどかけれない。魔法なんていうものがある以上、何が起こるか分からないしな。


 だが、今の戦闘で圧倒的な実力差があるのは分かった、猪もそうだろう。殺さないで済むなら、それに越したことはない。

 例外として、明らかなクズとか、下衆なやつは殺すだろうがな、後で問題になったら面倒くさいし。


 まぁ、とりあえず相手が何であろうと、殺しておくというのが一般的なんだが。なんだかんだで、まだ平和な現代人としての感覚が残っているのかもしれない。腹が減っていないというのもあるが。

 それに、殺して食べるよりも、もっといいやり方がある。


 俺は精神感応(テレパシー)を使って、猪に自分の住処まで案内するように言った。

 大抵の魔物の知能なら、言葉は理解出来なくても何となく意思は伝わる。抽象的な感覚も伝えられるのも、この技能の長所だ。


 猪は突然頭に響いた声に、辺りをキョロキョロと見回していたが、俺の他に誰もいないことを確認すると、まじまじと俺を見つめてきた。とりあえず首を縦に振って肯定の意を伝える。


 猪は目を丸くしていたが、俺が早く案内するように促すと、くるりとこちらに背を向けて歩き出した。案内してくれるのだろう、俺もそれについて行った。





 猪に案内されて、着いたのは山の頂上から少し降りたところにある洞窟だった。

 木々の中にひっそりと存在し、岩で出来た入り口は景色に同化している。洞窟のすぐ近くには、猪が水浴び出来そうなほどの大きさの池もあった。


 なんだこれ、俺が住んでいたところより良くないか?

 なんとなく釈然としない思いを抱きながら、猪の後を追って洞窟に入った。


 洞窟の中はひんやりとしていて、壁には苔が生えていた。ヒカリゴケと似たような種類なのか、ぼんやりと光って洞窟の壁を照らしている。


 いくつかの横道を通り過ぎると、行き止まりについた。

 そこには干し草?のようなものが敷き詰めてあるだけの簡素なものだった。しかし、天井が開かれており、夕日の光が行き止まりの部屋全体を照らしている。夜なら月光が降り注ぎ、幻想的な景色となるだろう。


 やっぱり俺のところより良い、こっちはただの横穴だったというのに。


 嫉妬を込めた視線を猪に向ける。

 突然、理不尽にも睨みつけられた猪はビクッとしていた、哀れ。


 そんな猪を放置して干し草の端の方に歩み寄り、横たわる。丁寧に乾燥させられた天然のベットは、柔らかく、良い香りがして非常に心地よい。ちなみに俺の前の住処では、固い岩の上にごろ寝だった、えらい違いである。


 圧倒的な敗北感だ、なんだこの寝心地……フワフワじゃないか……。


 そのまま落ちそうになる意識を留めながら、自身を中心として、ドーム状に魔力の障壁を何重にも張る。実力差が分かった今では襲ってこないと思うが、念のためだ。


 半透明の障壁の向こうから、勝手に寝床の一角を占領した俺に、猪がなんとも言えない視線を向けてくる。それを無視して俺は意識を手放した。

お読みいただきありがとうございました。


正直この話の大部分が蛇足な気がしますが、書く練習ということで……。


※2/5 色々とおかしかったので修正しました。

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