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狼さんと三つ目の技能

「邪神はどれほどの攻撃を受けても、弱りはしますが死ぬことはありません。」


 そうだったな、あの老人もそんな事を言っていた。

 人の悪感情を糧に生きているんだったか?嫌な生き方だ。


「ですが、今邪神の気配は全く感じません。それで、あなたが何をしたのか聞きたいのです。」


 少し離れたところで聞いている青年も興味があるのか、じっとこちらを見ている。


『説明が難しいのだが……俺の特技、か?

 俺は魔法系のスキルを持っていないが魔法は使えるだろう?』


「……特技で魔法って使えるようになるんですか?」


『なるんじゃないか?俺はなったしな。

 ともかく、俺はいくつかそういう能力を持っているんだ。』


 ディエリスはあまり納得していないようだが、人間鍛えれば嘘みたいな事だって出来るんだ。こんな世界でなら魔法を使えるようになっても不思議ではない、と思う。


「それで、その能力であの邪神を殺したというわけですか?」


『まぁそうだな、ざっくり言えばそんな感じだ。』


 俺の持つ技能は魔力操作、精神感応(テレパシー)――そして最後の、あの老人を葬った技能は”概念干渉”だ。


 この技能は俺の技能の中でも特におかしい性能を誇る。名前の通り概念に干渉して、現実を書き換えてしまう力だ。

 あの老人は()()()だった。だから俺はその概念(不死身)を捻じ曲げて、一時的に殺せる状態にして殺したのだ。

 概念を捻じ曲げると、時間が経つにつれ世界の修正力か何かの影響で元に戻っていく。だが、もしも――死後の世界があるかは知らないが――あの老人が不死身を取り戻したとしてもやつはもう死んでいる。その死んだという事実は変わらないのだ。


 魔力消費が他の魔法と比べてでかいなど色々とデメリットもあるが、チート臭い技能である。


「どういった能力なのかは教えてはくれませんか?」


『俺も完全に把握してるわけではないんだ。それにあまり奥の手は見せたくない。』


「そうじゃな、儂にも少ししか話してくれんかったしのう。」


 この技能は初めて○の七日間擬きを乗り切った時にいつのまにか手に入れていた。だんだんと使い方も分かってきたが、未だ分からない部分もある。だが奥の手なのは確かだ。


「そうですか……それならば無理に聞きはしません、あなたは多分いい人ですし?」


『何故疑問形なんだ。』


「え、あ……ほら、会って間もないですし。

 なんにせよあなたが神に敵対する意思がないのならそれで十分です。」


 はぐらかされた気がするが、まぁいいか。


『元から好んで敵対しようとは思ってないさ。』


 今回の一件もただあの老人が暴れているだけなら静観していただろうしな、少女に会っていなければ今ここにはいない。


 ディエリスは俺の答えに満足気に頷き、微笑んだ。


「さて、用事も終わったのでそろそろ……と言いたいところですが。」


「なんじゃ、まだあるのか。我が友はこの後儂とじっくり話し合うことがあるのじゃぞ。」


 フラムが俺とディエリスの間に入り、不満気に言う。


 くっ、名前の事は忘れていなかったのか。機嫌が悪いフラムは相手にしたくないというのに。


 俺は時間を稼ぐためにもディエリスに味方した。


『まぁまぁ、用事は出来る時にささっと済ませておく方が良いじゃないか。』


 フラムがジロリと睨んでくる。明らかに不満な様子だ。


 無理だろうか?と思っていると思わぬ言葉が聞こえた。


「……まぁいいじゃろう。」


 お⁈

 よし、これで時間を稼げば……!


「その方がじっくりと話せるからの。」


 ダメでした。


 フラムはがっくりと項垂れる俺を見て鼻を鳴らし、横にどいた。


「えっと……フラニアルとの話し合いは頑張ってもらうとして、最後にあなたに何か報酬を与えたいのです。」


『報酬……なんでもありか?例えばとある竜のご機嫌をとるとか。』


「あなた往生際が悪いですね……。

 なんでもは出来ませんが、そうですね、スキルを一つ授けるとかなら出来ますよ。」


 スキル一つか……嬉しいと言えば嬉しいが、一つか……。


 俺の不満を察したのかディエリスが慌てたように続ける。


「もちろんそのスキルはなんでもいいです。この世界にある、もしくは存在する可能性があるスキル全てから選んでもらって結構です。」


 それは破格の条件だ、存在する可能性がないスキルなんてまずないだろうしな。

 フラムを宥めるほかに願い事なんて無いし、これでいいだろう。


 問題はどんなスキルにするかだが……魔法系のスキルや、精神系のスキルは技能と被るから無し。

 攻撃系、防御系のスキルは魔力で体を強化すればいいから無し。

 せっかくなら実用性のあるやつか派手なやつがいいな……。


「悩むようなら【ジンカ】のスキルを取ってみるのはどうじゃ?」


 俺が考えていると、横から見ていたフラムが提案してきた。


『【ジンカ】?』


「そうじゃ。

 お主持ってないじゃろう?なかなか便利なものじゃよ。」


『フラムは持ってるのか?』


「もちろんじゃ、本来知能と魔力がある程度あれば覚えられるものじゃからな。」


『その言い方だと俺に知能と魔力が無いみたいに聞こえるのだが……。』


「魔力はあるな。」


「こほん、それでは【ジンカ】のスキルを取得しますか?」


 知能は?と俺が聞き返す前にディエリスが割り込んできた。


『いや、どんなスキルか分からないのは……。』


「ならば儂が使って見せようか?」


『フラムが?』


 確かにそのスキルは持っていそうだが。


「そうですね、フラニアルが実際にやって見せるのが良いでしょう。」


「そうじゃろう。

 よし我が友よ、よく見ておくのじゃぞ?」


 勝手に話が進んでしまったが、見せてもられるのなら有難い。

 俺は承諾してフラムの【ジンカ】スキルを見ることにした。


『あぁ、それならよろしく頼む。』


「よしよし、一瞬じゃからな。」


 フラムがそう言った瞬間、その体が輝き始めた。

 フラムの体は輝いたまま縮み始め、最後に一際強く輝き、視界を白く塗りつぶした。


 光が収まり、フラムのいたところには一人の女性が立っていた。


 燃えるような紅いセミロングの髪、顔立ちは大人びているが髪と同じ色の瞳には子供のような輝きがある。

 肌は少し黒く、体のラインは意外に細い。動きやすそうな軽装で、サラシのような布を豊かな胸が押し上げている。


 腕を組み、仁王立ちをしているフラムを見ながら俺は呆然としていた。


『女だったのか……。』


「あ"ぁ⁈」


 フラムが額に青筋を浮かべて拳を握りしめて凄んだ。こちらを向く手の甲にも青筋が浮かんでいる、怖い。


『あ、いや、すまん。なんでもない。』


「なんでもなくないじゃろうが!お主儂の名前を知らぬだけでは飽き足らず儂の性別すら知らんかったのか⁈」


 フラムがベシベシと地団駄を踏む。地面がグラグラと揺れた。


「あなた……流石にそれは……。」


 ディエリスもなんとも言えない視線を向けてくる。

 まずい、完全にアウェイだ。


『いや、違うんだ。ドラゴンの性別とか分かりづらいし……。』


「仕草とかで分かるじゃろう!乙女じゃぞ!」


『え?』


 冷たい沈黙が流れる。ディエリスも妖精族(エルフ)の兄妹も息を殺してじっと見守っている。


 じわじわとフラムの目に涙が溜まっていく。綺麗な顔が悲しそうに歪み、体が小刻みに震えてきた。


 まずい、泣かせるのはまずい。


 そう思ってフラムに近寄りひたすら謝る。


『す、すまん、フラムの事に興味がないとかそんな事ではなくてな。こう、気が置けない感じがして意識しなかったというか。』


「もうよいわい!さっさとあっちにゆけ!」


『ごめんって……。』


 ついにフラムは涙声でそっぽを向いてしまった。

 周囲からは白けた視線が突き刺さる。


 いたたまれず縮こまっていると、ディエリスが俺に近寄ってきて俺の肩に手を置いた。


「フラニアルは子供っぽいんですからちゃんと大事にしてあげてください。

 あなたの他に友達もいなさそうですし……。」


「お主も黙っておれ!」


 フラムの叫び声が響き渡った。





 それから数十分の間謝り続け、なんとかフラムは機嫌を直してくれた。途中から名前を知らなかった事の説教まで始まってしまったが。


 結局、俺は今度一日中フラムの相手をすることになった。

 はぁ……。


「フラニアルは本当に子供っぽ、むぐ」


 小声で呟いたディエリスの口を魔力の腕でふさぐ。またヘソを曲げられたら、たまったものではない。


「それで、結局【ジンカ】のスキルを取るのかの?」


 目の周りが少し赤いフラムが聞いてくる。ちなみにまだ人化したままだ。


『あぁ、他に良さそうなものも無いからな。』


「分かりました、あなたに【ジンカ】のスキルを授けましょう。」


 ディエリスが俺に手をかざす。彼女の手が光ったかと思うと、俺の体も一瞬光り、頭の中に【ジンカ】の使い方が入ってきた。


 光りが消えると、頭に情報が入ってくるのも終わった。ディエリスが手を下ろす。


「これであなたは【ジンカ】が使えるようになったはずです。

 今回は私からの褒美という形でスキルを与えましたが、あなたのステータスはまだ壊れたままなので自力でスキルを取得するのは難しいと思います。ごめんなさいね。」


 スキルが未だ取得出来ないのは残念だが、【ジンカ】も貰えたし元からスキル無しで生きてきたから大丈夫だろう。

 予想外の展開でスキルが貰えたのでむしろ幸運とも言える。


『ありがとう、一個増えただけでも十分だ。』


「ふふっ、無欲なんですね。

 ――それでは今度こそ私は天界に帰ります。今一度あなたに感謝を……ありがとうございました。」


 お辞儀をしたディエリスは光となって消えていった。瞬間移動と似たような方法だろう。


 ディエリスがいた場所から視線を外し、ステータスを開く。


【名前】

【種族】■■■

【年齢】8564342198歳

【称号】神殺し ■■■ ■■■ etc

【状態】自己封印 (80%)


【力】A

【防御】■■

【速さ】■■

【耐久】■■

【器用】D-

【幸運】EX


【スキル】人化:10

【特殊】


 よし、ちゃんと増えている。しかもレベル10のままくれるとは結構太っ腹だな。


 ディエリスのステータスから見てスキルのレベルは10が上限なのだろう。少なくともスキルレベルが低くて使えないということはないようだ。


「ちゃんとあったかの?」


 フラムが横から覗き込んできた。


『あぁ、ちゃんとあった。』


「それは重畳、早速使ってみてはどうじゃ?」


『その前に……いつまでそこにいないでこっちにこいよ。』


 青年と少女に声をかける。何故かディエリスが出てきたからずっと離れて見ていたのだ。


『なんで離れていたんだ、しかも何も話さないし。』


「女神様と竜帝様の話に混ざろうなんて普通出来るか、畏れ多い。」


 青年は苦い顔をしていたが、少女はよくわかっていないようだった。ディエリスの頭を撫でていたし、神様とかそういうことは気にしないのだろう。


「しかし話はなんとなく聞いていた。女神様からスキルを授かったんだろう?」


 盗み聞きは畏れ多くは無いのだろうか。いや、あれだけ騒いでいたら聞こえるか。


 青年の後ろから少女も顔を出してきた。


「狼さんも人間になれるようになってんですよね?」


『そうだ、せっかくだし今使ってみようと思ってな。』


「本当ですか⁈見せてください!」


 少女が目を輝かせて期待した眼差しを向けてくる。

 俺も人化した自分はどんな風なのか知りたいから結構ワクワクしている。


『それじゃあ……。』


 さっき頭に入ってきた使い方に沿ってスキルを発動する。


 技能ではありえない自動的に発動していくこの感じ、これがスキルを使う感覚なのか。


 体が白く光り、フラムの時と同じように体が人型に変わっていくのが分かる。

 視界が白く塗りつぶされ、思わず目を瞑った。


 視界が元に戻ると目に入ってきたのは目を見開いてこっちを見る一同。


 何故か喪失感のある下半身に視線を落とすと、目に入ってきたのは足元を隠すほどの大きな膨らみ。

 おまけに長い黒髪が視界の端に見える。


 ……なんだこれ。

お読みいただきありがとうございました。

ステータス上はどちらも漢字ですか文章上では魔法名は漢字、スキルはカタカナで表記してみました。見づらかったら変えます。


次回やっとTSタグ回収です。


※1/24 改行を付け忘れていたので修正

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