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狼さんと救出

 時は少し遡る。


 空を赤い竜が飛んでいた。その背中には耳が長く尖った青年が乗っている。


「む、見えてきたぞ。」


 竜の言葉に青年が身を乗り出して見渡すが、眼下には多くの島々が浮かんでいて見分けがつかない。


「……どの島でしょう?」


「まっすぐ先にある……ひぃ、ふぅ、みぃ……五つ目の島じゃな。」


 青年は目を細めて言われた島を見る。妖精族(エルフ)の高い視力は島の風景を捉えた。


「あの、竜帝様、俺には島が燃えているように見えるのですが。」


「うむ、見事に燃え盛っておるの。」


 どこかの狼が木に点けた火は、本人不在の間に島の森全体に燃え広がっていた。


「い、急ぎましょう!ファルンが、妹が巻き込まれているかもしれません……!」


「落ち着け。あれは我が友の魔法じゃ、同じ魔力を感じる。

 それよりもあれを見てみよ。島の海岸に群れているあれじゃ。」


 竜の示す海岸には黒いワイバーンのようなものがいた。


「あれは……ワイバーン、でしょうか?」


「いや、違うの。ワイバーンにしては魔力が強すぎる。そもそも魔力が禍々しい、あれは邪神とかその類のやつの下っ端じゃろう。」


「邪神の手下……⁈

 とするとあれはディアブ・ファンタですか⁈」


 ディアブ・ファンタはほぼ全ての種族に伝えられている伝説に出てくる邪神の尖兵である。

 様々な生物を観察して模倣し、その生物の姿になると言われている。この特性のせいで多くの魔物が邪神の配下と勘違いされることとなった。


「ああ、お主らはそう呼んでおるな。」


「しかしあれは伝説上の魔物では?」


「いや実在するぞ、尖兵も将軍もそれと邪神もな。」


「邪神も……ですか……?」


 突然島から濃い瘴気のような魔力の反応が溢れてきた。歓喜するかのように黒いワイバーン擬きが騒ぎ始めた。

 竜が前傾姿勢から直立の姿勢になって速度を殺す。巨体は空気を軋ませながら止まった。


「噂をすればというやつじゃな。」


「もしかして……。」


「うむ、この魔力の強さといい、嫌な感じといい、まず間違いなく邪神じゃろうな。」


「落ち着いている場合ですか!本当に邪神の復活となれば、いくら竜帝様とはいえお一人では……!」


 邪神とは世界を破滅に導こうとする神の一柱だ。邪神の前では種族の隔てなく世界中の人々が団結し、その代の竜帝と共に討伐を目指す。

 邪神とその眷属との争いは熾烈を極めるため、多くの命が失われる、それは竜帝でさえ例外では無かった。


「まぁ、確かに儂一人ではどうしようもないがの。あそこには我が友がいる、すぐに終わるじゃろう。」


 しかし紅い竜の言葉に焦りは見えない。むしろ余裕に見える。


「ッ!……竜帝様、失礼ですがあの狼がいくら強いといっても限度があります。

 それに魔物となれば邪神の手に堕ちる可能性もないわけではありません。あまり過信なさっては……。」


「過信しているつもりはないのじゃが……。

 何にしても、お主の妹を助けるにはここで戻る暇なぞ無いぞ?」


「それは……そうですが……。」


「まぁ、見ておれ。我が友は邪神程度には負けぬよ。」


 竜がそう言った次の瞬間、瘴気をかき消すほどの莫大な魔力が膨れ上がった。


 先ほどまで騒ぎ立てていた黒い群れも動きを止め、辺りを見回している。


「こ、これは……。」


「む、やはりこの強さだとお主でも感じられるか。ちゃんと見ておけ、我が友の魔法はエゲツないぞ。」


 巨大な魔力が収束したかと思うと、海の底で何かが光り底ごと海が割れた。

 そして一瞬止まった海が動き出し、突如作られた道を埋める、光り輝く何かが水平線の彼方に消えていった。


 瘴気は消え、黒いワイバーン擬き達が塵となって消えていく。すぐに島には静寂が訪れた。


「派手にやったのー。」


 のんびりと言う竜に対して青年は口を開けたまま絶句していた。


「あ、あんな威力の魔法……魔物一匹に撃てるのか……。」


「あいつは異常じゃからなぁ。

 さてと、そろそろ向かわねばな。結局何もせんかったのう。」


 そう言うと竜は一度大きく羽ばたき、島に向かって飛んでいった。





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 温かい風が毛を撫で、水分を飛ばしていく。隣では少女の周りを同じような風が吹き少女の服を乾かしていった。


 自称邪神の老人を倒したのはいいが、まさか壁に空いた穴から波が押し寄せるとは。ここが海のど真ん中にあることを忘れていた。

 慌てて魔法で穴を塞いだが、穴の正面にいた俺と少女はびしょ濡れになってしまった。


『服は乾いたか?』


「はい、バッチリです。」


 そう言いながら少女は小さく体を捩っている。海水の塩分がベタつくのだろう。


『……すまん。』


「い、いえ。

 ――それよりも、ありがとうございました。私を、里を救ってくださりなんとお礼を言ってよいのか。」


 そう言って少女は深々と頭を下げた。


 照れくさいな、それに俺はもともと見捨てようとしていた臆病者だ。


『礼なら俺の友人に言ってくれ、あいつが背中を押してくれて来れたわけだしな。

 それに上でお前の兄貴が待ってるはずだ、話はその後にな。』


「分かりました。

 ですが一つだけ言わせてください。どうあっても助けに来てくれたのは狼さんです、私が一番感謝したいのはあなたですよ。」


 ……やはり照れくさい。





 少女を背中に乗せて瞬間移動の魔法を使う。この魔法はイメージが難しく、俺はまだ触れさせないと上手く一緒に移動出来ないのだ。


 景色が切り替わるとそこは一面の焼け野原だった。


『あれ?』


 移動先を間違えただろうか、座標上は島の浜辺で合っているのだが。

 後ろを見ると海がある、確かに浜辺だ。


「これは……狼さんがやったのですか?」


『いや、俺はこんなことした覚えが……』


 ……あるな。ワイバーンを撒くために放火したような気がする、あれが燃え広がってしまったのか。


『……。』


「狼さん?」


 言いづらい……、考えなしで魔法を使った結果な分非常に言いづらい、というか恥ずかしい。

 ……そうだ。


『なんでもない、多分あの老人が何かやったのだろう。』


 過ぎたことは仕方がない。

 死人に口なし、全てあの老人のせいにしてしまおう。今回の迷惑料だ。


「そうなん……でしょうか?

 でも確かに他にやりそうな人はいませんね、森に住む狼さんが森を焼き払うなんてしまないでしょうし。」


 首を傾げているが少女はこの話を終わらせてくれた。

 罪悪感が……。


 俺が内心悶えていると空から何かやって来た。


「ド、ドラゴン⁈初めて見ました!」


 少女が目を輝かせてこちらに飛んでくる紅い竜に大きく手を振った。

 微笑ましく思いながら見知った竜が来るのを待つ。

 竜の影はぐんぐん大きくなり俺たちの目の前に地響きを起こして着陸した。


「遅くなった、すまぬの。

 じゃが……うむ、上手くいったみたいじゃな、何よりじゃ。」


『まったくだ、もう全部終わったぞ。』


 紅い竜――フラムにそう文句を言う。


「すまぬすまぬ。」


 ハッハッハッとフラムが笑う。全く思ってないな。

 悪びれもしない友人に呆れていると、その背中から青年が顔を出した。


「ファルン!」


「お兄様!」


 青年がフラムの背中から飛び降り、少女が駆け寄る。そして二人は固く抱きしめ合った。


「よかった……本当に……。」


「ごめんなさいお兄様、置いていってしまって……。」


「俺もお前のことを気にかけてやれなかった。俺がもっとお前のことを考えていればこんなことにはならなかったさ。

 不甲斐ない兄ですまない、ファルン。」


「そんなことないです。お兄様はここまで来てくれた私の立派な、憧れの兄です。」


 抱き合う二人を見ているとフラムが話しかけて来た。


「してどうだった?直接見てはいないがなかなかの強敵ではなかったのか?」


『あの娘を攫ったやつのことか?

 ただの魔物だったぞ、不死身なだけで自分を邪神とか言っているちょっとあれなやつだった。』


 そう答えるとフラムが目を丸くして凝視してきた。


『な、なんだよ。』


「……ま、いいじゃろ。お主のことで驚いていたらキリがないのはすでに承知じゃからの。

 それにしても自称邪神ときたか、なんというかさすがに不憫じゃのう。」


『そうだな、結局あの娘は魔物の勘違いに巻き込まれただけだったわけだ。』


「……不憫じゃのう。」


 そう考えると本当に不憫だ、なんてはた迷惑な魔物だったのだろうか。あんなに可愛い少女を巻き込ん……で……、


『あ。』


「なんじゃ、どうかしたか。」


『その魔物に捕まっていた女性がいたんだ、やばいすっかり忘れていた。』


「女とな?はて、わざわざやつが捕まえる女……あぁ、それなら心配無用じゃ自分で脱出しておるよ。」


『もしかして会ったのか?』


「いや、会ったわけじゃないが恐らくそいつは知っておる、やつは瞬間移動出来るから問題ないぞ。」


 そうか、そうだといいんだが。もし違ったらどうしよう、謝って済むことではなくなってきてしまう。


 と、その時俺たちの目の前の空間に揺らぎが生まれた。そして揺らぎからは神々しい魔力が漏れている。


「噂をすれば来たようじゃ。」


 フラムに誰がと聞くよりも早く、揺らぎが爆発するかのように広がり中から人影が現れた。

 人影が出てくると揺らぎは何事もなく消え去った。


 覚えのある魔力だった。しかしその強さはだいぶ違う、弱々しく今にも消えそうだった様子は微塵もなかった。


「こんにちは、私はディエリスといいます。危ないところをありがとうございました。」


 現れたのは老人に囚われていた女性だった。

お読みいただきありがとうございました。

主人公のステータスとかの説明は次回ぐらいになります。

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