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狼さんと邪神?

 少女に近寄り、回復魔法をかける。少女の足に空いた穴はみるみる塞がり、顔に血色が戻っていく。


「これは……。」


『体力まで戻ったわけじゃない、無理して動くなよ。』


 少女が頷いたのを確認してから、瓦礫の山に向き直る。

 老人の気配は無い。が、あの程度で倒せたとも思っていない。


 じっと見ていると、瓦礫の中で嫌な魔力が一気に膨れ上がった。その魔力に呼応するように瓦礫が吹き飛び、砂煙が舞う。


 飛んでくる瓦礫を防御魔法で防ぐ。

 砂煙の中からは無かったはずの老人の気配がある。しかも先ほどより魔力が増えている気もする。


「獣風情が……どこから入り込んだ……?」


 砂煙の中から細長い影が現れる。影の目は赤く光り真っ直ぐに俺を射抜いていた。久々に感じる殺意のこもったプレッシャーに怯みそうになる。


 落ち着け……俺が取り乱したら少女まで不安になる。


 内心の怯えを抑えながら老人を睨み返す。


『おかしいな、今消滅したように思えたのだが。』


 老人はスッと目を細めて俺を観察するように見る。


「ほう、念話とは……。ただの獣には出来ぬ芸当だな……どこの使いだ……。」


『別に誰に仕えているわけでもない。強いて言うならこの少女とその兄のためだな。』


「なるほど、その娘に同情でもしたか……頭の足りない獣らしい愚かな行いだ……。」


 向こうは随分こちらを馬鹿にしてくる、挑発なのか本当に下に見ているのか。どちらにしてもまだ油断してくれているならありがたいことだ。


『愚かで結構。

 それで、お前はさっき何をしたんだ?』


 質問を繰り返す。

 時間を稼げばフラム達もこっちに来るだろう、無駄な会話で少しでも気を逸らせたい。


「気になるのか……?良いぞ、貴様の愚かさに免じて教えてやろう……。」


 ……え?教えてくれるのか?


「儂はこの世の邪悪の化身、この世がある限り儂は不滅……すなわち、今の儂は不死身だ……。貴様がどれだけの攻撃を加えても無駄だ、儂には届かん……。

 どうだ……?満足したか……?」


 老人が楽しげに嗤う。

 倒せないと教えて心を折りにくるつもりだったのだろうか、正直予想通りでなんの驚きもないのだが。

 それよりも実は変身を三回残しているとか言われた方が絶望する……やめよう、本当にやられかねない。


『それは面倒なことだな、だがさっきの体当たりを躱せないようでは肝心の実力は知れているのではないか?』


「ほう、不意をついた程度で言うではないか……。ならば儂の実力を見せてやろう……。」


 しまった、思わず煽ってしまった。予想よりも俺は落ち着けてなかったらしい。


 俺が反省していると、老人の姿か砂のように空気に溶けていく。俺が使っていた姿を隠す魔法と似たようなものだろう。


「「「さて、儂を捉えられるかな……?」」」


 全方位から老人の声がする。俺の気が向いていないところから攻撃してくるつもりなのだろう。

 しかしこんな時の対処法は知っている。フラムが酒の席で教えてくれた話だ。


 少女の側に駆け寄り、少女を腹の下に隠れるように言う。少女は首を傾げながらも従ってくれた。


「「「贄を守ろうと言うのか……?ならばまずお前から始末してやろう……。」」」


「お、狼さん……。」


 腹の下から不安そうな声がする。


『大丈夫だ。お前を傷つけさせはしないし、俺も傷つくつもりもない。』


 そう言って魔法の準備に入る。


 ――魔法は、様々に区別されているが結局は同じだと俺は考えている。

 属性、形状、魔力の必要量に違いはあっても魔法は魔力を下地に作られたもの、術式などに深い意味は無い。


 ならば何が魔法の、魔法使いに優劣をつけているか?それは想像力だ。

 魔法は使用者の想像に沿って現れる。

 使用者のイメージが曖昧なら多くの要素が打ち消しあい、弱く脆い魔法となる。

 逆に使用者のイメージが強固なら全ての要素が一つの想像に向けて働き、強く固い魔法となる。


 つまり何が言いたいかというと、魔法は想像力でなんとかなるということだ。

 想像力が豊かであれば、魔力を意のままに操り様々な魔法を扱えるだろう。発動にかかる時間にしても、言葉にすれば長くても慣れていれば想像するなんて一瞬だ。俺の使ってきた魔法もほとんど一瞬で発動する。

 この説明だって一瞬だ、なんせ俺の頭の中での話なのだから。


 俺を中心に魔力が霧のように拡散していく。なんの属性も持たせていないただのエネルギーだ、当然触れても何も起きない。


「「「ククク……それで儂を捉えられるとでも思ったか……?」」」


 無数の嘲りが飛んでくる。

 侮ってくれて結構、決まればいいのだ。老人はすでに俺の放った魔力を感じ取っている、つまり逆に言えば魔力の霧は老人に届いているということだ。


 俺と少女を守るように防御魔法を貼り、一斉に魔力に属性を付与する。

 付与した属性は雷。ただのエネルギーだった魔力は一瞬で雷光と化し、空間を走り回る。


「「「があぁぁぁぁあぁぁぁ⁈」」」


 老人の悲鳴が響き渡った。無数の悲鳴は壁に反響してドームを揺らす。

 これがフラムに教わった戦法、名付けて「面倒くさくなったら焼き払え作戦」である。命名はフラム。


「魔法の任意変更……⁈」


 腹の下から驚いたような声がする。

 驚くことだろうか、見た目は派手だが。


 雷はまだ暴れまわっている。普通ならありえないが、自然の現象と違って魔法によって引き起こされているので持続性を弄ることも出来るのだ。


 雷はたっぷり三十秒ほど暴れまわり、焦げた匂いを残して消えた。

 特に雷が集中していたところから老人の形をした炭が現れ、バラバラと崩れ落ちた。


「た、倒したのですか……?」


『いや、不死身というぐらいだしあの程度では死なないだろう。』


 少女に言葉を返すと同時に、炭の山が動き出し人の形を作った。一瞬黒い魔力が人型を覆い隠し、魔力が晴れると火傷一つない老人が立っていた。しかし呼吸は荒く、滝のような汗をかいている。


「おのれぇ……!この儂にここまで傷を負わせるとは……!不愉快、実に不愉快だ!」


 語気を荒げて老人が吠える。


(なんであんなに効いているんだ?)


 俺はそれを見て違和感を感じていた。

 今の雷撃は派手だが範囲と攻撃速度を重視したあくまで牽制目的の魔法だ。どうしてあそこまで消耗しているのだろうか。


 雷が弱点だったのだろうかと俺が首を傾げていると、老人がさらに喚き始めた。


「じっくり嬲り殺すつもりだったがもういい!すぐさま消し去ってくれる!」


 老人が両手を前に突き出す。すると空中に黒い無数の魔法陣が現れた。


「消し炭となれ!」


 老人の合図で黒い杭、黒い炎、黒い氷、黒い鎧の骸骨騎士達など黒尽くしの魔法が襲いかかってきた。

 俺は少女がいるのでこの場から動けない。物量で押し切れると思ったのだろう。


 俺は杭を魔力で作った腕で弾き飛ばし、炎と氷はそれぞれ水属性の魔法と火属性の魔法で打ち消し、骸骨騎士達を聖属性の魔法で浄化した。

 防御魔法で弾いてもいいのだが、大した威力でもなさそうだったので威嚇の意味も含めて全て打ち消した。


「な……!」


 老人は何も入ってない目を見開いている。追撃も来ない。


(やっぱり何かおかしい……。)


 邪神というぐらいなのだから見るだけで殺したり、心臓を引き寄せて握りつぶすとかエゲツない攻撃をしてくるかと思ったのだが……まさか本当にこれで終わりなのだろうか。いや使って欲しくはないのだが。


 老人が杭を右手に持ち、大量の魔法を撃ちながら突っ込んでくる。


 飛んでくる魔法を先程と同じように捌きながら、杭を突き出してくる老人を前足で叩き飛ばす。

 老人はバウンドしながら十メートルほど吹き飛んだ。


(こいつ、弱くないか?)


 邪神というにはあまりにも弱い。神を見たことはないが流石に一匹の魔物に翻弄されるような存在なのだろうか。


「おのれおのれおのれkpap@%°#m'mJj'wp!」


 老人の叫びはもはや言葉になっておらず、そこに神々しさや不気味さはない。さらに疑念か加速していく。


 そして俺はついに一つの結論に達した。


(もしかして、偽物なんじゃないか?)


 よく考えたら邪神と言っていたのはこいつだけであって()()邪神である。

 不死身なのは本当で、それによって自分を邪神と錯覚したのだろう。確かに不死身なら、普通負けることだけは無いはずだ。

 そうなるとあの捕らえられていた女性は不死身をどうにかできて、それによって捕らえられていたと考えられる。

 我ながら素晴らしい推理だ。


「許さん、許さんぞ!どこの神が化けているかは知らんが儂をここまでコケにしたことを後悔するがいい!」


 うんうんと心の中で頷いていると、老人が喚くのを止め、両手を合わせて突き出してきた。

 老人の足元に大きな魔法陣が現れ、老人の腕に腕輪のように魔法陣が展開された。


「喜べ!儂の最高の魔法で殺してやる!一片も残らんと思え!」


 老人の合わさった掌の先に黒い魔力が集まり球を作っていく。高まる球の魔力に反比例するように老人の魔力がどんどん減っている、全力の一撃のようだ。


 やはりあいつは偽物だ。球に集まっている魔力はせいぜいこの島を吹き飛ばすほど、邪神と言うにはお粗末だろう。

 ……俺の緊張と葛藤を返して欲しい。


「狼さん、私のことは気にせず逃げてください。あなたまで巻き込まれることはありません。」


 少し震えた声で少女が言う。


『助けるつもりで来たんだ、気にしなくていい。それにあの程度ならどうとでもなるから心配するな。』


 何やら心配しているが大丈夫だ。

 だいたいフラムのブレスの三倍程度の魔力だしどうにかなる。


「死ねぇ!」


 老人が黒球を放つ。

 偽物と分かって頭が冷えたてきた、意識が加速していくのが分かる。世界の進みがゆっくりになり、黒球の速度があくびが出るほど遅く感じる。


 せっかくだから派手に決めるとしよう。


 思い描くのは一本の槍。

 鋭く、確実に敵を穿つ必中の槍。


 魔力が俺の想像《イメージ》を受けて魔法を形作っていく。


 現れたのは巨大な光の槍。ドームを壊さないギリギリの大きさで俺の背後に浮かんでいる。


 確実にオーバーキルだろうが気にしない。少女の痛みと俺の緊張と葛藤の分だ。

 ()()()()()()()()を槍に付与し、解き放った。


「な」


 俺の八つ当たりを多分に含んだ槍は迫る黒球を蒸発させ、断末魔の悲鳴も許さず背後の壁ごと老人を貫いた。

お読みいただきありがとうございました。


正月休みもすっかり終わってしまったのでこれからはだいたい一週間ペースの更新になるかと思います。


*1/7 後書き修正しました

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