プロローグ
誤字脱字や文法間違いが多々あると思いますがお読みいただけたら幸いです。
俺は極一般的な男子高校生だった、両親がいて、反抗期気味の妹がいて、ボッチではないがややオタクっぽいどこにでもいそうな。
しかし今は違う。高校生どころか人間ですらない。
俺は一度死んだ。
死因は列車事故だった。
高校からの帰り、駅のホームで電車を待っている時、目の前で酔っ払いのおっさんが線路に落ちそうになり、とっさに手を掴んでしまい巻き込まれた。
間抜けなものである。他人を助けようとして自分まで死んでしまったら元も子もない。
そんなわけであっけなく死んでしまったのだが、気がつけば俺は狼になって森の中にいた。
わけが分からないだろう。俺も呆然とした。
某小説投稿サイトやラノベをよく読んでいた俺は真っ先に異世界転生という言葉を思い浮かんだのだが、説明も何もない上に人ですらないとはどういうことか。
と、呆然として、気がついたら日が暮れていた。
これが俺の第二の人生?の始まりだった。
始めのうちは食べ物を探すのも命がけだったが、だんだんとこの世界や体に適応していき、俺はとてつもなく長く生きた。
ざっと数百世紀だろうか。この世界の文明が火の○日間のように滅ぶのも何回か見た。生き残るのに必死であまり覚えてないが。
普通の狼ならそんなに生きれるわけがないのだが、俺は狼は狼でも魔物だったらしい。
人外になってしまったのは始めは少し気にしていたが、毎日を過ごすうちにどうでもよくなっていった。
どんだけ長く生きてるんだと思うのだが、さらに驚きなことに、その間俺は特にこれといったお約束――俗に言うテンプレに遭遇していない。
盗賊に襲われる商人になんてあってないし、チートなスキルも貰えてない、亡国の姫に出会うなんてこともなかった。
毎日格下の獣や魔物を狩って寝るサイクルを繰り返していたのである。転生とはなんだったのか。
じゃあ、今まで何をしてきたのかって?
引きこもっていた。
比喩ではなく本当に数百世紀の間引きこもっていたのだ。
たまに、本当にたまに世間の様子を見に行ったりはしたが、基本食う、寝る、食うの繰り返しだった。
弁解しておくと別に好きで引きこもっていたわけではない、生き残るのに確実なのが引きこもることだっただけだ。
格上の相手をなるべく避けて――避けれない時もあったが――安全な狩りを続け、安全な住処で寝る。そんなことをして、気付けば立派な引きこもりだった。
おかげで死にはしなかったが、非常につまらない生活サイクルが出来上がってしまった。
こんな感じの生活だったが、得たこともいくつかあった。
まず、この世界についての知識。
この世界は時代によって呼び名が違ったが今は『デューモルダ』と呼ばれている。
人族、獣人族、魔族、妖精族その他少数の種族が住んでおり、魔法もスキルもステータスもあるし、さっき言った魔物だっている。まさにファンタジーな世界だ。
ちなみにこの世界の魔物は体が魔力――世界のリソースで、これを利用するのが魔法と呼ばれる。一応どんな世界にもあるらしい。――で構成されていて、様々な種類や特性があり、知能や危険度も多岐にわたる、まぁラノベとかでよくある感じの生物だ。
巨大な大陸の周囲に小さな島々が浮かんでいて、大陸の中央の平野があり、そこに人族、獣人族達の国々がある。南には森がありその奥地に妖精族の里がある。魔族は各地に点在しているが北にある大山脈に魔王が城を構えている。
東と西は様々な地形が入り混じって森が点在していて、島々と合わせてどの種族も立ち入っていない未開の地となっている。
未開の地の探索や、魔族、魔物への対応のために『冒険者』という職業もある。さらに魔王や強力な魔族へ対処する勇者もいるそうだ。
二つ目に技能というのを獲得した。スキルではない、技能だ。
どういうわけだか俺はスキルが取得出来なかった。どんなに下位の魔物でも持っているのでスキルがない俺はこの世界において非常に珍しい存在と言えよう。まったく嬉しくないが。
さて、技能についてだが言葉のままである。
俺が長い長い年月をかけて取得した熟練の技、言ってしまえば特技だ。名前とか付けているが、ぶっちゃけ意味は無い。
この技能、身につけるのが非常に大変だった。数え切れないほど生きてる俺でも3つしか取得してない。しかしそれに見合うほど強力な力だ。
まずスキルと違い応用が利く。例えば俺の技能の一つ、魔力操作(命名俺)は体内、体外の魔力を操るものなのだが、その使用法はとても多い。
例えば属性を与えて火や水を生み出したり、魔力を飛ばしてソナーのように周囲の状況を読み取ったり、魔物である俺は自身を構成する魔力を操り形状変化、性能強化、硬化なんてこともできる。
魔力操作というより魔力支配と改名した方がいいかもしれない。
チートなスキル取ってるって?貰ったものでもないし、一応努力して取得したのだからチートではないだろう……一つチートみたいな技能があるがそれはまた別の話だ。
最後は住処だ。ずっと弱い頃は縄張りなど持てず毎日が旅のようなものだったが、今はほぼ世界の隅々までまわったし、多少強くなったので、住処を作って定住している。
住処を手に入れたのは、俺が転生してからおおよそ半世紀ほど経った時だったかな?そこから俺の引きこもり生活が始まった。
俺の住処は大陸の西の端っこにある。
狩りに行くときは大陸周囲の島々に行くのだが、生息している魔物がそこそこに強いので寝るときに鬱陶しく、寝床には適さなかったので住処は大陸の上にした。
大陸の中央に行くほど生息する魔物は弱くなっている。これは中央にある人族や獣人の国々が魔物を駆逐するからだ。
よほど好戦的な魔物でもなければ大陸の中央には近づかないため、生息するのは強い魔物を避ける弱い魔物ばかりだ。
……さて、俺が異世界で体験したことはこれぐらいだ。文字数にして約二千。薄すぎないか俺の異世界生活。
元から慎重な、悪く言えば臆病な方だったので安全策をばかり取っていたが、それが裏目にでるとは思ってもみなかった。生きているだけでも幸運なのだろうが。
ところで、現在俺は悩みを抱えている。異世界生活が薄いというのと関係があるだろう。というかこの悩みは俺がただの男子高校生だった時にもあった悩みだ。
ずばり現在の俺の悩みは退屈なことである。
日々魔物と命がけで戦っている人々がいるこの世界では贅沢な悩みだが、長い間生きた俺はまぁまぁ、いや、結構強くなった。
今の俺は魔王や勇者と戦っても死なないぐらいには強いと思う。魔物相手でもワイバーンぐらいには負けやしない。
というかワイバーンは主食だ。ワイバーンのステーキはいい。
話が逸れた、つまり毎日がつまらなくてしょうがないのだ。別に不幸せなわけでは無いし、不満と言うほどでは無いが、なんというか、毎日にハリが無いのだ。
昔と違い命がけの戦いはない、命の危い、魔物だから人に会えば逃げられるか襲われる、楽しみは食事ぐらいだ。
我ながらよく発狂しないと思う。魔物になって精神に変化でもあったのだろうか。
どうにかしようと色々考えてみた。
例えば、
転生したてのころは毎日が刺激的な戦いばかりだったことを思い出し、武者修行の旅にでも出ようかと思った。しかし結果として、何が悲しくて退屈をしのぐために命をかけるのか、戦闘狂でもあるまいし、と思い直して却下した。
じゃあ戦いがダメなら食べ物とか食べ歩いたり国作りとかやってみようかとか思ったが、魔物であることがバレると面倒だし、俺にはリーダーシップのリの字も無いので諦めた。
こんな感じである。
他のことも考えたが、まず魔物であるこの体だと人間の娯楽のほとんどが出来ない。しかし厄介なことに一応心は人間のままなのだ、やりたいことも人間基準である。せめて人型ならと何度思ったことか。
そんな調子で生きていたらこの始末である、優柔不断ここに極まれりと言ったところだ。
数百世紀も生きられたということは、魔物には寿命という概念が存在しないか、恐ろしく長寿のだろう。
もし前者なら俺のこの生活に終わりはない。そう思うだけで言い表せない不安に襲われていた。
自分の精神に異常がないことが逆に恐ろしい。もしかしたら明日にでも発狂する、いや、もしかするともうすでにどこかおかしいのかもしれないと悩んだ。このまま悩み続けるぐらいならいっそ死んでしまおうか。と考えたこともあった。ぶっちゃけ今は開き直っているが。
――そんな俺のもとに、転機はあっさりと訪れた。
お読みいただきありがとうございました。