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悪役令嬢~千夜一夜~  作者: 旅人
2章 アリサ
9/11

4.スラムの食事と稼ぎ

 スラムの住人はカモになりそうかどうか見極めるようなぶしつけな視線を送ってきた。


 スラムという場所は、底辺だとまとめて考えていたが、その中でも階級によってかなり差があるようだ。


 さすがに20人連れ立って歩いている今襲ってくることはないが、私たちが自分より格上か、格下かを見定めようとしているのだろう。


 うん、大変鬱陶しい。


 イラッときて、魔力を込めて周りを一瞥する。


 さっき魔力を拡散させたほど明確に脅威を感じる訳ではないが、こいつヤバいかもという威圧感を感じるはずだ。


 ジロジロ見ていた連中は視線をそらし自分たちのねぐらに帰っていた。


 ふふんと胸を張ってネリーの頭をワシワシと撫でる。


「なになに?」


「今、魔力を周りに放出したんだけど分かった?」


 キョトンとした顔で笑うネリーがかわいくて癒される。家を追い出されて緊張の連続で少し疲れているが分かる。


「ええ、いつなの……ですか?」


「正解はついさっき。魔力感知は魔法を覚える上で基本になるから覚えていこう」


「はい」


 むーと眉間に考えていたが、晴れやかな顔に変わり満足していると、辿りついたのは市場近くのボロボロの椅子があるだけの汚い屋台だった。


 少し開けた場所に、寸胴鍋とパンが並べてあるだけの屋台だ。周りには壊れかけの椅子とテーブルがあるだけの汚い食事処でありながら、多くの人が並んでいる。


 メニューはない。並んでいる人達は鉄貨を2枚渡すと、屋台のおっちゃんからちょっぴりの芋と干し肉の欠片の入った塩味のスープと硬いパンを受け取っているだけだ。


 鉄貨2枚、日本円にして20円程度の格安だ。


「お嬢、これがスラムの飯屋だ。しっかり味わえよ」


「え、うん。ありがとう」


 私はブライアンから渡されたスープに恐る恐る口をつけてみると、ただ薄い塩水を飲んでいるようだった。


 硬いパンは口に入れるも髪切れず、スープに浸してようやく食べられた。だが、やたらと酸っぱい。


 一口食べただけで、食欲がどっかに言ってしまった。


 安さが売りなのだろうがまずい。まず過ぎる。


「はっはっは、お嬢。まずいだろ」


 ブライアンがイタズラが成功した子供のようなニヤッと笑う。


「これって本当に食べられるの?」


「周りを見てみろよ。皆食べているだろ」


 言われて周りを見てみると、皆モクモクと食事をしている。ここで「もういらない」と投げ出すこともできない。


 自分の目の前にある食べ物を涙目になりながらなんとか胃の中に押し込めた。


 私、空気読める日本人ですから。マジ頑張った。私えらい。


 コーワ領だと第一次産業が主なだけあって新鮮な野菜や肉など溢れ、傷んだ商品にならない物が安く手に入っていたので、平民を含めて食べ物に不自由する事はほとんどない。


 コーワ領の最貧困の食事処は見た事はないがここまでひどい事はないと思う。


 だが、主要産業が第一次産業でない場所ではスラム街があり安い汚いは当たり前なのだろう。


 特に交易の街では、人が集まる。成功すれば一攫千金も夢ではないが、能力がなかったり、運が割るかった人間は過酷な生活を強いられるようだ。


 最初にジェイミーが「世間知らず」と言った訳を知った。自領では分からなくても王都に行けば分かるし、商人達とも深く話をすれば知り得た情報を得ようとしなかった点だ。


 スラムという環境がここまで劣悪と知らなかった私は確かに世間知らずだ。


 まぁ、ウチの領土にスラム街がないと知らなかったジェイミーも世間知らずなんだけどね。


 ◇◆◇◆


 まずい食事を終えてアジトまで戻る。


 アジトの見た目はボロボロのバラック小屋のようだが、中もひどい。机や椅子らしきものはあるが足が一本なかったり天板に穴が開いてたりする。


 床には埃もたまっている。


 アジトの様子をみてげんなりしたが、食事を作れる場所があると聞いたので見せてもらう。調理場の隣に倉庫が設置されており、ジェイミーから月に一度食料を支給されている。


 個別に現金ではなく現物なのは強いものが弱い者から巻き上げるなんて事がないような処置だ。それだけ、モラルが低く信用されていないだが奴隷が抜け出したばかりの今は仕方がない。


 倉庫は新調されたばかりで新しくきれいだ。中には脱穀されていない小麦に、日持ちする野菜などが入っていた。


「ナニコレ?」


「ジェイミー様から頂いている食料だ。毎日、2回食べられる分だけある」


 昼飯が食べたければ自分で食べればいいが、基本的な食料の援助はされている。そして竈の中には酸っぱくないパンがある。


「ちょ、さっきの屋台で食べるよりこっちのほうがよっぽどマシじゃん。なんで先に言わないのよ」


「はっはっは、ネリーや他の連中が何か言いたそうにしていたのに聞かないからだ」


 くそ男のせいで、マズイ飯を食べさせられた。マジ泣きそう。


 へこんでいると、ブライアンが頭を乱暴にワシワシと撫でてきた。


 ネリーにしたのを見てスキンシップを好むと思ったのかチャラ男なのか?


 疑問に思いながらもちょっとドキドキしてしまい「むー」とすねてみた。


「あれがジェイミー様に拾われる前に俺らが食べていたもんだ」


「あれを?」


「あの食事だけで倒れるまでこき使われる。それが奴隷ってもんだ。」


 少し思うところもあるが、声を大にして言いたい。


 実際に食べさせなくても、言葉で説明してくれたら分かる。こいつ絶対面白がっていたよな。


 周りの皆も食べたくないなら言えばいいのに。


「お嬢にも知ってもらいたかったのさ。俺らはジェイミー様のおかげで、食事をすることが幸せだと知った。お嬢は今以上のものを俺らに与えてくれるって宣言したんだ」


「ふふん。私に任せておけば大丈夫よ」


「期待しているぜ」


 ここで言いよどんだら負けだと思い言い切った。


 ブライアンも笑みを深くしていたので、自信が全くないのをごまかせただろう。


 お父様やジェイミーに比べたらまだまだ甘いな。


 笑いながらアジト内部を点検していく。


 1階の奥にある少し広めの部屋に机らしき台があったのでここを私の執務室に決めて、今までどうやって稼いできたの確認をする。


「さてと。とりあえずこの街にきてどうやって稼いでいたのか教えてくれる?」


「市場のゴミ捨て場に行き、使えそうなものを拾って帰るの」


「まとめて買ってくれる人がいるからその人達に渡すんだ」


「そうそう、銅貨をもらえる事もあるな」


 ゴミの中からリサイクルできそうなものを探していたらしい。鉄くずが見つかれば幸運で、バラック小屋を建材になりそうな木や薪替わりの燃えるモノを探して買取所に持って行っていたという事だ。


 一日に銅貨1枚、日本円にして100円ほど稼げれば御の字という生活を送っていたようだ。


 買取金額は相当買いたたかれているのだろうが、スラムの住人が集めたものを大通りで一般の人間相手に商売できる人間は限られるので仕方がないだろう。


 どうやって稼ぐかはブライアンに任されていたようだが、ジェイミーからはスラムの街をよく観察して簡潔に報告するように言われていた。


 その情報を渡すことで、アジトと食料の援助をしてもらっているのだ。


「なるほどねぇ。他には何かしているの?」


「戦闘訓練。ジェイミー様が来るまでに課題をクリアしておかないと怖いの」


 ネリーのよると、無手術といって空手と柔道を合わせたような型の稽古と乱取りを行っているようだ。聞いたことがないので実際に乱取りを見せてもらったが、元農奴とは思えないきれいな動きをしていた。


 繰り返し型の練習を行い、相当なハードワークをしてきた事がうかがえる。


 ジェイミーの「お話」は確かに怖そうだ。


 ゴミ拾いをしながらスラムの様子を観察して戦闘訓練を行う。


 ジェイミーはここいらを仕切っている一家に喧嘩でも売るつもりなのだろうか?



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