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悪役令嬢~千夜一夜~  作者: 旅人
2章 アリサ
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2.アリサと釣り目の少女

 私なりに財政健全化の仕組みを考えたのに聞く耳をもたず追放されました。あまりの仕打ちに心が折れました。マジこのまま家出したい。


 というのも、税のあり方が日本と違うからだ。歳入の大部分が農民の地租税と酒税であり、富裕層は全体の数%しか払っていない。


 このため、コーワ領の街道の整備と魔物や盗賊が出ないように騎士の巡回を行うだけで毎年大赤字なのだ。


 赤字が大きくなれば商人から寄付を募ることもある。だが、したたかな商人はピンチの時には寄付はしない。それどころか高金利でしかお金を貸し付け土地や権利を持っていくことが多々ある。


 これではいつ財政破綻してもおかしくない。


 この状況を変えるために所得税を導入するつもりだ。下準備として金持ちは寄付するのが当たり前。むしろ富裕層で寄付しないケチな奴は恥ずかしい事だという刷り込みをしていたのだ。


 こうする事で、皆が金だしているなら税金って事で最初から徴収しても同じだという意識を根付かせようとしてたのだ。


 その過程で私の懐にも大金が入っただけなのにマジ絶望した。だってこの世界の人達ってお金の使い方おかしいんだもん。


 私が集めて運用していたほうが絶対いいのだよ。クソオヤジ君。


 ぶちぶちと言い訳をしながら飛ばされた森の中で持ち物をチェックする。


 靴強制転移させられる前に投げ渡された袋の中を見ると、冒険者としての身分証に小銭と短剣、僅かな小銭が入っていた。


 ☆★☆★☆★☆★☆★

 アリサへ。


 この手紙を読んでいるということは儂が強制転移を行ったという事です。


 寄付集めをよく思わない商人たちが不穏な動きをしているのでこうやって隔離をするしかないと判断しました。


 なんとか状況かえるんで、マジで大人しくしていて。


 お父様の胃マッハで痛むからね。

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 ふぅと大きくため息をついて立ち上がる。


「ってか、ここどこだよ。ランダム転移なんかすんなよーーーー」


 私の魂のさけびはむなしく森の中に吸い込まれていった。


 これからどうするか思案していると、がさっと木が揺れた。


 振り返ると木の陰からこちらを見ている少女がいた。


 少し釣り目だが可愛らしい同い年ぐらいの少女が不敵な笑みを浮かべている。私は一目で直感した。


 こいつヤバいと……


「へぇ、ランダム転移ね。珍しいわね。犯罪者じゃないわよね?」


「ちょっとした事故よ」


 刺すような視線が鬱陶しいので不貞腐れたようにプイと顔をそむける。


「へぇ。そういえばコーワ家の令嬢の特徴って貴方によく似ているわね」


「え?」


「ふふふ、やはりそうなのね。飛び級で学園を卒業した天才。金にがめつくてそれ以外はあまり興味がないだったかしら?」


 金色の髪、青い目をしたお人形さんみたいな少女。そして意地の悪そうな釣り目。コンラッド家の令嬢のジェイミーか。


 確か、すっごい負けず嫌いで面倒くさい女だったはず。


 ばれた以上冒険者の身分証明書を出すほうがまずいだろう。


「お初にお目にかかります。アリサ・コーワと申します。お恥ずかしながら転移の事故のせいで飛ばされてしまいましたの」


「ふーん、それなりに強そうだけどもう少し鍛えてみない?私のライバルになれるわよ」


 こっちが丁寧に自己紹介したのに完全に無視された。


 マジ悲しい。


 もう丁寧な言葉使うのやめよ……


「嫌よ。面倒くさい。そんな事よりお金集めしていたほうがマシだわ」


 私の言葉を聞いたジェイミーは今までで一番悪そうな顔をして、私の肩に手を置いた。


「あら、ちょうど良かったわ。貴方、私のために商売しなさよ」


 いや、お前とかかわるのが面倒くさいと言ったんだよ。


 副音声聞こえているだろ。


 私が頭の中で文句を言っているとジェイミーはニンマリと笑った。


「実はね。鉱山奴隷を20人ばかり拾ったのだけどどうやって養っていけこうか迷っていた所なるの」


 いやいや、それ拾えないから。


 鉱山奴隷って犯罪者や税金納められなかった農奴達への刑罰で死ぬまで鉱山で穴掘るってやつだよね。


 国の管理物件じゃん。


 え?強奪したの?


 それ、ガチの犯罪じゃないかな。


「貴方、金集めのプロなのよね。犯罪まがいの事やって稼いでいるって聞くわよ」


「え~どこにそんな証拠があるんですか~」


「少なくとも他家の領地に無断で入ることは犯罪ね。やりようによっては処刑できるわよ」


 やりようって……死人に口なしってやつですかねぇ。


 やだこの子、お父様より怖いわ。


 ジェイミーは少し黙った後、私の体を上から下までジロジロと不躾に見つめる。


「室内向きの服と靴ね。何やったのか知らないけど貴方、突然追い出されてお金持っていないんじゃなくって」


「うぐっ」


「とりあえず金貨10枚あればいいでしょ」


「え?20人で食べさせるのに金貨10枚って無理だよね。その十倍は頂戴よ」



 お金の価値は日本円に直すと金貨が10万円、小金貨が1万円、銀貨1千円、銅貨100円、鉄貨10円程度になる。


 100万円出すから20人を飢えさせないようにしながら、商売を立ち上げろって何その無理ゲー。


 コーワ家の1ヶ月分の宿代と食事代だと大体小金貨5枚ほどだ。20人もいれば1ヶ月しかもたないよ。


 そんな事を考えてお金を要求していたらジェイミーはため息をついて首をふる。


「はぁ、とんだ世間知らずなのね。とにかくアジトまで来なさい」


 有無を言わせない傲慢な態度に苛立ちを超えて尊敬すらできる。不思議な魅力を持つ少女の後をテクテクとついていく私は運命の選択を間違えたのかもしれない。



 家を追い出されたら怖い女に拉致られた。悪事の片棒を担がされるようだ。マジ逃げ出したい。


 そんなことを考えていたらコンラッド侯爵領都に到着した。我が領土の倍の高さと厚さがある囲まれていた。その城門には次々と定期馬車や商人達の率いる大型の馬車が乗り入れ大変な賑わいを見せている。


 領主の娘であるジェイミーは貴族専用の入り口から顔パスで入っていく。当然私もチェックされる事はない。


「大きいねぇ」


「ふふふ、交易の街コンラッドにようこそ。見ごたえあるでしょ。」


 交易の街として名高いコンラッド侯爵家と農作物の輸出が主な産業になっている我がコーワ家とはすべてが違っていた。


 コンラッドの街の大通りは広く、人々の賑わいであふれている。露店も立ち並び、騎士の巡回も目立ち治安もよさそうだ。この国では珍しい黒髪黒目の黄色人種に似た人たちもいる。


 だが、街を囲う壁は分厚く高い。門は鉄の格子を上げ下げするタイプだ。いくつもの大道が交わる重要な地点とはいえ明らかに過剰な設備だ。


 城壁の一部を壊して商人達の大型の馬車の荷物の上げ下げをするスペースにすればいいのにと思う。


「この鉄格子って何と戦っているの?」


「元々は他国の軍が攻めてきた時の要塞として作られたの。平和になった今ではコンラッド侯爵家の歴史と威光を示すものね」


「威光じゃあ金稼げないよ。壁なんか取っ払って物流センターでも作ろうよ。どうせ城壁なんてジェイミーをはじめ英雄クラスなら一発で破壊できるし意味ないでしょ?」


「盗賊や魔物の群れを退治した実績があるのよ」


「いつの話よ」


 私はあきれ顔になる。


 100年前にあった大戦の時代は盗賊もいたようだが、平和になるにつれ悪党どもは一般市民に紛れて壁の中に入り込んだはずだ。


 同様に魔物も騎士をはじめ、冒険者たちが定期的に狩りを行うので群れることはまずない。


 百年前の防御策を維持して、日々の暮らしを圧迫するのはいかがなものだろう。


 現にジェイミーについて裏通りを奥に入っていっているが、表通りと違い瘦せこけた人が目立つ。


 建物も木材やなんとか建材と使える程度のものを組み合わせ、雨露をしのぐ程度のものが多くなってきた。


 第一次産業が中心で、農作業や酪農では常に人が足りずに飢えた者や借金で街にいられなくなった者はすぐに各村に送られるコーワ家では見られない光景だ。


「えっと……どこに行くのかなぁ?」


「アジトって言ったらスラム街に決まっているじゃない。貴方、街に出た事ないの?」


「いやいや、スラム街なんて作っちゃダメでしょ。即潰そうよ。犯罪者の温床になるし、めんどくさいことなるよ」


「貧しい者を作らないように目を向けるか……さすが神童ね」


 他領の貧困問題をなんとかしようなんて意図はない。ただ思ったことを口に出しただけなのに変な関心を得たようだ。


 勘弁してほしい。


 スラム街の奥のそこそこ広い空間に、朽ちかけた大きな家が見えた。私たちが近づいてきたのを見て、建物から瘦せこけた男女が慌てて飛び出してくる。


「整列、点呼」


 20まで数え終えたら気を付けをして直立不動で待機している。


「ナニコレ?」


「元鉱山奴隷よ。今は私の部下ね。彼らとお話したらすごく素直になってくれたわ。荒くれものなんて使えないって思っていたけど結構役に立つのよ?」


 大半が農奴から落ちた連中だろうが、中には荒くれものの雰囲気を持つものもいる。彼らが軍隊みたいな行動をとるとは驚きの光景だ。


「へー、そうなんだ」


 ジェイミーの部下たちの顔にあざがあるのは、その話し合いの時にできたのだろう。当然ジェイミーは無傷だ。


 ツッコミを入れると、私とも「お話」をしたがりそうなので無視する。


 ガタイがいい犯罪者と思われる人間が5人、瘦せこけた元農奴が14人に子供が1人。


「この子は?」


「農村で見つけて魔力が強いから連れてきたの」


 誘拐か私と同じ様に拉致られたのかと思い話を聞くと農奴の子で口減らしのために処分される所を買い取ったらしい。


 いい事をしているが、この国の法律でも人身売買は犯罪だ。


「うん。とりあえず今の言い方だと人身売買になるからやめよう。10年の奉公でジェイミーの付きの使用人として雇ったって事にして。後鉱山奴隷は適当な商会作ってそこの従業員にしたって事に……王都の役人に賄賂渡したら問題ないから手続きはちゃんとして」


 ジェイミーやりたい放題だな。


 侯爵家のゴリ押しで大部分はなんとかなると言っても、根回しはちゃんとしよう。


 あ……ちなみに、この国では賄賂はチップみたいなもので合法です。


 やりすぎなければだけど、私はやりすぎてないはずなんだけどなぁ。


 何故、国や商人達の目の敵にされたんだろ?

 

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