08 さすがにちょっと許せません
――大魔術師とか大魔導士とか、そんな称号で呼ばれる人は、魔術に関する研究が進んでいるここにおいても、世界で十人もいません。
その十人の大魔術師の中でも、さらに力の強い者を『四天王』と呼び、四天王の一角――『暗黒』の異名を持つのが、茅野創。
……一度も顔を合わせたことのなかった、わたしのお父様です。
はいそこ、「暗黒~!」とか言って笑わないこと。
あのね、創作物の世界って、やっぱり作者のセンスが大きく影響するんですよ。 作者がカッコいいって設定にすれば、もうその異名はカッコいいんです。
胸糞悪いバッドエンドしか用意しないようなあの作者ですから――。 まあ、そこはそうなってしまうでしょうね。
ホント、なんであの作者から神奈ちゃんが生まれたのか不思議でなりません。
――まあそんなことは置いておいて、ですね。
「え、えっと……お嬢様? だいじょうぶ、ですか――」
自室に置かれた、柔らかな――どう考えても六歳児に与えるものではない――ソファーに腰掛け、古い魔術の本を読むわたし。
……で、その後ろで子犬みたいに震えているこの少女は――――。
「――心配しないでください、杏さん」
そう微笑んで、わたしは静かに本を閉じました。
このゲーム唯一の良心とか、茅野家の善玉菌とか呼ばれる、ちょっと弱気でお淑やかな人物。
わたしより二歳年上で、赤髪の美少女メイド――白嵜杏さんです。
えっと――わたしが三歳くらいのころ、お母様に拾われて、この家でメイドとして働くことになった少女……の、はずです。 記憶が曖昧ですが、たぶんそんな感じだったはず。
御年なんと八歳。
一桁ですよ。ひとけた。
「……で、でもそんな傷だらけで」
「大丈夫ですって、ちょっと燃やされただけですもん」
「え、え、ほんとに燃やされたんですか!?」
「はい――」
――えっとですね、それが起こったのは、だいたい二時間前の話でした。
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「……」
――お父様に呼び出されるなんて、一生機会は訪れないかと思っていたのに……意外と早いものですね。
理由はわかっています。
恐らく、昨日わたしが特訓を休んで、麦さんたちと遊びに出かけたせいでしょう。
まだ小一なんだから、それくらい遊ばせてくれてもいいでしょうに。
それにね、人間にとって、休息ってどうしても必要なものだと思いますよ。 とっても優秀なお父様に、それが解らないとは思えないのですが。
――でも。
胸に手を当てると、心臓の鼓動が早鐘みたいに感じられました。
「しつれい、します」
深呼吸をして、恐る恐る、そっと音をたてないように、扉に手をかけました。
……丁度いい機会ですし、どうにか話をつけてやりますとも。