06 友だちって大事です
魔力で動くカレンダーが指し示すのは、なんと早いもので六月の二十日。
この世界の暦は、一月が三十日で固定されていて、一年がなんと十ヶ月で終わります。 要するに、一年が六十五日も少なくなっているのです。
その都合なのかもしれませんが、ハロウィンやクリスマスなどの行事は、すべて九月の終盤から十月にかけて詰め込まれています。
準備がとっても大変そうですけど、世の中の親御さんは大丈夫なのでしょうか?
「……という事で、魔力に色を付けると、魔術が使えるようになります。 元々の色が白い人は、色がつけられません」
「せんせー、色ってどうやって見つけるの?」
「前にシャボン玉遊びをやりましたね。 あのときのシャボン玉の色が、そのまま魔力の色に……」
色だとか、シャボン玉『遊び』だとか言ってますけれど、今やっている授業の内容は、要するに魔力の属性についての話です。
「……遊び、ですか」
あんなに命懸けの遊びがあってたまるか、って話です。
――あれ?
ってことは、わたしの魔力ってもしかして属性が無かったり――?
「あの、先生しつ――」
「……気をつけー、れーい!」
『ありがとーございましたー!』
投げかけようとしたその疑問は、見事なタイミングで発された日直さんの声によって掻き消されました。
あっぱれです。
…………何があっぱれだ、とか言わないでください。 わたしは今気分が悪いんです。
――でも、もしかして。 もしかするかもしれません。
だって、この異様なほど魔術が使えない現象の原因がわかれば、多少なりとも対処法は浮かぶ……はず、ですから。
これから高等部を卒業するまで、ずーっとこんな思いをするのはゴメンですし――。
帰りの支度を始めた周りの児童たちをとことん無視して、
わたしは体に対してちょっと大きな机に座り込み、そう考え込んでいた……のですけど。
「……奈月様!」
「なつきさまー」
「奈月さま」
「わっ!? え、あ、え――っ」
そう、人の考えをイマイチ読むことができないのが六歳児というもの。
背後から、何の前触れもなく発せられた大きな声を、まるで銃声みたいに感じて、わたしは恐る恐る声の主を振り返りました。
……べ、別に泣いてませんから。
「あのー、今日、いっしょに、あそびませんか!」
ちょっと不自然なくらい言葉に区切りをつけて、三人いるうちの真ん中――小麦色の肌をした茶髪の女の子は、にっこりと笑いました。
可愛い――と心の片隅で思って、なんだか浮気したような気分になりました。
……でも、それよりもっと重大な事実にようやく気付いて、今度は自分自身をも裏切った気分になってしまいます。
「……え、えっと――」
帰宅後の訓練時間を少しだけ削れれば、まあ遊ぶってことも不可能ではないでしょう。
でも。
でも……っ!!
「――麦さん、ですか……?」
「うん――じゃなくてはい!」
嘘です。
わたしの知っている万合麦は、もっと胸の大きさだけが取り柄の、茅野奈月の次くらいに邪魔くさい女だったはずです――。
それが、それがどうして。
「……はい、良いですよ」
この動揺を隠すため、なるべく大げさに彼女たちに微笑んでみます――――が、実際誤魔化せている自信はまったくありません。
「やったー!」
ですが、女児はなんとも気まぐれなものです。
「あ、でも今日ママがあそんじゃダメって言ってたー」
「あたしもー、ごめんムギちゃん」
「えっ」
――いや、駄目なら駄目でちゃんと言ったほうが良いですよ。
そんな唐突に言われても――。
「じゃあねー」
「え、まって――」
「……行っちゃいました、ね」
「うん――」
これじゃ二人きりだね、と言って、麦さんは困ったように肩をすくめました。
――これが弥勒院だったら、迷わずぶっ飛ばしていたような発言ですけど、まあ……今の麦さんは無害な感じなので大丈夫でしょう。
「……誰か呼ぶ?」
「奈月、そろそろ――」
真っ赤なランドセルを背負って――というより、なんだかランドセルに背負われてるみたいな神奈ちゃんが、そーっとわたしの席へ近づいてきます。
――チャンス到来。
「…………ねえ神奈ちゃん、今日お暇ですか?」
「ん、ツッキーも来るの?」
「……ツッキー?」
「あははは……えっと、もしお暇なら遊んだりできないかなー……って」
――変なあだ名やめてください。 なんか、その、反応に困りますから。
「面白そう……行っても良いかな?」
「モチのロンっ!」
「おねがいしますー……」
――こうして、わたしの交友関係は、ちょーっとだけ広まったのでありました。
おしまい。
――――じゃなくって、ここで終わっちゃ駄目です!
肝心の遊ぶところまで、まだまだ行ってないじゃないですか――。