04 地獄の授業がはじまります
――助けてください。 誰でも良いんです。
できれば神奈ちゃんが良いですけど、今はそんな事言ってる場合じゃありません。
出来ない人にはトコトン出来ない、努力が実を結ばない世界。
「えー……これから、魔術分野の授業を始めたいと思います」
――魔術の授業が、今日も始まってしまいます。
ここの世界は日本と違い、一つの授業に二時間かけ、それを学問、武術、魔術の三教科で毎日繰り返す――という方式になっています。
……何が言いたいかって?
一度始まってしまえば、もう二時間抜けられない……ということです。
二時間続けて魔術を使い続ける。
そこにわたしの謎体質が加われば――。
そう、とんでもない体調不良の出来上がりです。
わたしの場合、魔力の量自体が絶望的に少ないのか、技を使えば一瞬で調子が悪くなってしまうので、
一日の初めに魔術分野が入ってしまえば、もうそこでゲームオーバーです。
――今回は授業のいちばん最後ですから、なんとか大丈夫ですけど。
「……ね、奈月」
キッチリ手を組んで体育座りをしていた神奈ちゃんが、
静かにわたしのすぐ隣へと寄って来て、耳の近くでそっと囁きました。
――解りますか。
耳の近くです。 すぐ隣で、神奈ちゃんみたいな美少女でしかない美少女が、これほどまでの圧倒的な美少女が、わたしのすぐ近くでそんな仕草をしているんです。
しかもまだ幼い状態で――。
あぁ……、最高です。
生きている悦びとはこの事。 神奈ちゃん万歳、としか言いようがありません。
「……神奈ちゃん? どうしたんですか」
でも、やっぱり神奈ちゃんにそんな気持ちを悟られるわけには行きません。
わたしをニヤつかせようと動く表情筋を押し込めて、そっと彼女のほうへと顔を向けました。
……あっ、駄目です。 我慢のし過ぎで、顔の筋肉がヒクヒクしてきた感覚が――。
「だいじょーぶ?」
「神奈ちゃん……っ。 ――はい、だいじょうぶです」
感無量とはこのこと。
……もっとも、本当は全然大丈夫じゃありませんけど。
前に一回、授業中勢いよく倒れちゃったんですよね――わたし。
だからです。 こんなに神奈ちゃんが心配してくれるのも。
「……ほんとに?」
見詰められた瞬間、格の違いってものを実感しました。
ええ。大丈夫です――大丈夫じゃなきゃいけません。
だってわたしは、これでもあの茅野家のお嬢様なんですから……。
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