表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/17

11 また一日が始まります



「……えっと、その」


「……な、奈月?」


「はい、あなたの奈月です!!」


 テンションに突き動かされるままにそんなことを口走って、一秒すら経たずにひどく後悔しました。

 ……う。 いくら神奈ちゃんだからって、こんなこと言ったら引くに決まって――。


「おーそっか、私の奈月だ」

 ――彼女の懐は、わたしが思っていたよりずっと広大だったようです。

 まるで視界いっぱいに広がる大草原の如く。


 あなたが推しで良かったです、神奈ちゃん――。



「えへへへ――」


「へへへ――っ」


「はいはい、仲がよろしいことで」


「――と、冗談はさておき」


 そう言って神奈ちゃんは、わたしの頭に置いていた、その小さく白い手をそっと放しました。

 名残惜しいような気もしますが……。


 ……また今度、やってもらいましょう。



「……はい。 どうしたんですか?」


「どうしたんですか? って――」

 お前は何を言っているんだ、とでも言いたそうな顔で、麦さんがわたしをじっと見つめます。

 ――そんなこと言われても、ほんとに心当たりなんてありませんけど――。



「……いや、こっちが聞きたいんだけど。 どうしたのさ、ナスビってば」


「全身ミイラみたいに包帯ぐるぐるで……」


「あ、あははは――」


 ――そうでした、忘れてました。

 ナスビってあだ名もそうですが、昨日大怪我負ったことも……。


 仮にも我が茅野家は、世界有数の魔術師の家系。

 大した魔力も持たない小娘わたしひとりの痛覚を狂わせることくらい、包帯に仕込まれているらしい魔法陣がすべて遂行してくれます。


 ……だからと言って、ここまで忘れるのもどうなのかとは思いますが――。



「……何があったの、それ?」


「ちょ、ちょっとお父様と言い争いになっちゃいまして」


「言い争い――っ!?」

「それでミイラ化するの……?」


「そういう方なので――」

 わたしたちの会話が耳に入ってきたのか、黒板を消していた先生の腕が、一瞬だけピタリと止まりました。

 まあ、お父様の話なんてされたら当然の反応――なんでしょうけれど。


 ただの庶民から、実力だけで強引に位を奪い取ってきたお父様。

 それは彼の強さの証明――というよりは、貴族としての品位も何もないことの理由です。


 ――あの方の事ですから、また何かしでかすかもしれませんね。

 だって、あの茅野奈月の父親なんですから。



 そんなことを考えて、

 ふと『茅野奈月』というキャラと、この間の巨大な火球が脳裏に浮かび上がりました。


 ……こんな仕打ちを受けて、まあ普通の六歳児が耐えれるはずもないです、よね。

 だからって、神奈ちゃんに嫌がらせなんてして良い理由になる――なんてわけはないんですけど。



「色々ご迷惑お掛けする、かもしれませんが――わっ!?」


 せめて先に謝っておこうと、頭を下げた瞬間に、

 いきなりぎゅって何かに包まれて、思わず反射的に目を閉じます。





 ――あったかくて、柔らかくて……これ、もしかして。


「……ね、奈月」


「か、神奈ちゃ――」


「もっと頼っていいんだよ? 私たちのこと」




 ちっちゃな腕の中で聞いた言葉からは、まだ六歳とは思えないくらい、ちゃんと覚悟とかが感じられて――。

 一応、精神的には年上であるはずのわたしでも、ついつい甘えてしまいたくなります。


 ――ずっと思ってましたが、神奈ちゃんってほんとに六歳なんですかね?

 あの魔術にしろ、こんな姿にしろ、年齢の平均を大きく――どころじゃないくらい上回ってる気がするんですけど――。





「……ありがとう、ございます――――」


 ……ホントなら、わたしがもっとしっかりしなきゃいけないんでしょうけど。

 今はまだ、



「――ね、ねえツッキーにナス! もう授業始まっちゃうよ!?」


「え――っ」

「ん――」


 ――ちょっとだけ、このままで居させてください。



 麦さんの言葉を受けて、慌てながら席へ走り、腰を降ろした瞬間、

 校内に朝の授業の始まりを告げる、甲高いベルの音が鳴り響きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ