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#6 謎の美女? いいえ、ただの小悪魔です

「王立魔術団に入ったエリートがこんなとこで何してるんですかね」


ジトッとした目でヴィオラを見つめるリノ。


「……あそこは抜け出してきちゃった。規律がどうだとか窮屈だったのよ。

 リノちゃんだって誘われたのに断ったじゃない」


ヴィオラがほほ笑むとさらにリノの目が細まる。

なんだこいつら、仲でも悪いのか?


「ちゃん言うな! ……私には理由があったし。それで本当の目的は何よ、久しぶりにやり(・・)に来たの?」


「おいちょっと待てって! お前らどういう関係なんだ?」


手を突き出し詠唱を始めんとするリノをなだめる。


「そうねぇ、魔法学院時代の熱きライバルかしら」


「はぁ!? いつも姑息な手ばっか使ってたくせに何が『ア・ツ・キ』だ!」


「とまあこんな感じに暑苦しいライバルよ、タスク君」


「んなっ!」


なるほど、何となく分かってきたぞ。


「ははっ、喧嘩するほど仲が良いってやつか」


「違うわよ!

 ……とにかく私たちはラデスの戦場に行くから、用がないなら帰ってちょうだい」


キッと見つめるリノ。しかしヴィオラはにこやかな顔のまま言い切った。


「そう。じゃあ私も一緒に行くわ」


「あんた話聞いてた?」


腰に手を当て「はぁ?」 と言わんばかりの表情を浮かべる。

魔術団とやらを抜け出して暇なのだろうか。


「なんでまた?」


 俺が聞くと「そうねぇ……」と考え込んでしまった。

 ……しかしこの組んだ腕に乗るボリューム感たっぷりな胸、思わず目が吸い寄せられ……って痛ッ!


「タスク、どこ見てんの?」


「ど、どこも見てねぇし」


 急にリノに足を踏まれた。

 しかもなんか拗ねたような顔で睨みつけてくるし……何が気に食わないんだ?


「そうだわ、久しぶりにロレッタに会いたいわね。確かラデスの魔法学院で特別講義をしているそうよ」


 首をかしげているとヴィオラが「あっ!」とつぶやた。


「なんか取って付けたような理由ねぇ……。まあロレ(ねえ)には会いたいけど」


 ロレッタ? 初めて聞く名前だ。


「ロレッタって?」


「私の幼馴染よ。エルフで魔力研究の第一人者、今は魔術研究院の院長をやってる」


「魔法学院では私たちの教官も勤めていたわ」


 エルフ?! マジでいるんだなそんな種族。驚いているとヴィオラが言葉を続けた。


「それに戦力は一人でも多い方が良いと思うの。私、タスク君も気に入ったしね」


「気に入ったって……。ちょ、急に抱き着くな!!」


 くるりと身をひるがえし俺の腕をがちっとホールド。

 その双丘のやわらかさが、こう、もにゅんと……!! 


「ね、いいでしょう?」


 そんな上目遣いで見つめられても――


「まあ、その、仲間は多い方がいいんじゃないかな!」


 童貞には勝てなかったよ……。なんかいい匂いするし。


「あ、あんたねぇ」


 すると隣から禍々しい負のオーラが漂ってきた。

 あと生ゴミを見るような目で俺を見るな! 不可抗力だ!


「ふふ、やっぱり。そんな顔して嫉妬かしら?」


「なっ! んなわけないじゃない!」


 カッと頬を赤く染める。ついでにその目をやめてくれたようで何よりだ。


「じゃあ私が一緒にいてもなんとも思わないわね」


「あったり前でしょ! 誰があんたなんか」


 あ、この流れは……。ヴィオラがニヤリと微笑む。


「つまり、私もついて行っていいってことね」


「ええもちろんよ! ……あ。ま、待って! 今のなし!!」


 ぱっと手で口を隠しても時すでに遅し。魔剣士はニッコリと慌てる魔法使いを見つめる。

 リノはちょっと勢いに任せ過ぎじゃないか?

 

「はあ、言わんこっちゃない」

 

「あんた何も言ってないでしょ! ……あぁもう分かったわよ。ついてくるなら勝手して」


 はぁ、と大きなため息。しかし顔をキッと正すとこちらを向き直り――


「来るならしっかり戦ってもらうからね! タスクもデレデレしないこと!」


「ええ、もちろんそのつもりよ」


「だ、誰がデレデレするって」


 ビシッと指をさすとふんと腕を組んだ。

 なんか嬉しそうな雰囲気もするけど……気のせいかな?


*


「へぇ、あなたが元居た世界ってとても不思議なところなのね」


「そーかな! まあ普通じゃないかな!」


 ラデスに向かう道中、獣車にゆられながら山道を進む。そして俺はヴィオラに自分のことを色々教えていた、はずなのだが。


「なんでこんな密着してるんですかねぇ」


「ん、 どうかしたの?」


「い、いやなんでもない」


 俺としては別に損はない、いやむしろ得してる。けどそうじゃない、もう一人の魔法使いさんがなんかすごい殺気を放っているのだ。


「お、おいリノ。あとどれくらいで着きそうだ?」


「あ?」


「ひっ! な、何でもないです」


「……あと一日もすれば着くわ」


 こ、怖っ! この()かわいい顔してこんな低い声出せたの?! とにかく俺がヴィオラとくっついてるのが気に食わないのか。しかしなぜ、もしかしたら……? いや、まさかね。


「あの、ヴィオラさん」


「なにかしら? それとヴィオラでいいのよ」


 俺の腕をさらにギュッとホールドする。や、やわらけぇ……じゃない。とりあえずこの雰囲気から俺の胃を守らなければ。


「その、少し離れてもらえません?」


「なぜかしら? こんなに面白いのに」


「え、面白い?」


 ニコニコと楽し気なヴィオラが見つめるのは、リノ。

 あ、そういう……。


「……お前は鬼か!」


「え? うふふっ」


「『うふふ』じゃねぇ!」


 口に手を当て微笑んでも全然かわいくねぇ! いや可愛いけど! 無駄にドキドキして損した気分だ。

 

「ふふっ、でもあなたを気に入ったっていうのはほんとよ? あのリノちゃんが同行を許すくらいだもの」

 

 そういうと満足そうな顔して腕をほどいた。


「え、でもヴィオラだってついて来てるじゃん」


「いいえ、リノちゃんはお母様が病に倒れてから誰とも組まなくなったわ。私自身、これでもついて来れたことにとても驚いてるのよ。だからタスク君、あなたはきっと凄い人なの」


「は、はぁ」


 一転、真面目な顔で話し始めたヴィオラ。リノはやっぱり独りで頑張ろうと……。

 ん? でも待てよ。『病に倒れた』ってどういうことだ。


「リノの母さんは病気なのか?」


「そう聞いているわ。王都の大病院で療養中だとか」


 えーとつまり、表向きでは入院中で実は魔族にさらわれてましたってか。しかしどうしてそんな嘘が。本当のことを言いたい気もするが……口止めされてるしなぁ。


「……そうか」


 そうつぶやくだけにした。


「なんだか湿っぽくなっちゃったわね。ごめんなさい。でもリノちゃんに気に入られたってだけあなたと仲良くしてるわけじゃないのよ? 正直、彼女にはもったいないくらいかも」


「は?! おまえそれどういう……」


「さあ?」


 熱っぽい目を俺に向けると手綱を引くリノの元へ行ってしまった。

 まったくどういうことだよ……。リノといいヴィオラといい、俺に気があるのか? それともからかってるだけなのか?

 まあそわそわしたのは察せられたくないので落ち着いていこう。

「リノちゃんさっきの聞いてた? もしお母様のことで気を悪くしたならごめんなさい」


 一応ヴィオラにも気遣う気持ちはあるんだな。おちょくったことは一つも悪びれる気はなさそうだが。 そうえばリノは負のオーラを引っ込めて何やらうんうんと唸ってる。


「あの、リノちゃん聞こえてる?」


「……そうだわ!!」


「きゅ、急にどうしたのかしら」


「ふふふ……、ヴィオラも食らいなさい。タスクの『力』を」


 なんか凄いいじわるそうな顔してるリノ。というか力って、まさか……!?


「おいちょっと待てってヴィオラにするのかアレを?!」


「私にできてヴィオラにできないってことはないでしょうねぇ。タスク?」


「は、はい!!」


 やっぱあんた怖いよ、リノさん。その剣幕(けんまく)に負けてしまった。

ヴィオラは『アレ?』と言いたそうに首をかしげてるし。


「『力』……とても気になるわ。リノちゃんだけというのもシャクだし。さあタスク君、やってごらんなさい」


 両腕をバンと広げ俺に向かい立つヴィオラ。ええいくそぅ! こうなりゃどうにでもなれ!


 

 

 ――ラデスまでの道のりはまだまだ長くなりそうだ。


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