#5 謎の美女がとなりで寝ていた
「――そうか。リノも大変だったんだな」
「……同情ならいらないわ」
リノの母さんは魔術研究院ってとこの院長で、一緒に出掛けているときにさらわれた。
本当なら倒せるほど強いのにリノをかばって連れていかれたらしい。
そして、あの特攻は「魔族のボス級なら何か聞き出せるかもしれない」と思っての行動だったようだ。
「私一人で蹴りをつけなきゃ。そう思っていたけどボス級だと難しいわね。言葉が通じる相手でもなかったし。
大抵のは魔力が切れる前に何とかなったけど」
「なるほどな」
「そ、それでタスクに頼みがあるんだけど……」
サイドテールをいじいじ。そっぽを向くリノ。
「なんだ?」
「わ、私と一緒に戦うことを許可するわ! 魔力回復も……ピンチの時なら許す!」
「それもう頼みじゃないじゃん」
「う、うっさい! ……で、どうなの?」
袖をぎゅっと握りながら上目遣いで俺を見つめてくる。
……そんな切ない目をしなくたって大丈夫だっての。
リノはまだ助けられるかもしれない。
それに一度死んだ身、異世界で可愛い女の子一人助けたってバチは当たらないだろう。
「あぁ、助けに行こうぜ。お前の母さん」
手を差し出す。パッと和らぐその表情。
そしてリノは俺の手を握り返した。
「う、うん!! ……ってコラァ! はぁ、はぁ、手ぇ離しなさいぃ!」
頬を赤らめ荒い息遣いで睨みつける。
「許可してくれたんじゃないのか? それにこの方が回復早いだろ」
そんないじらしい顔して……。もっと見たくなっちゃうじゃないか。
握りしめた手にさらに意識を集中させる。
「ちょっ……そういう話じゃ、ん、あぁ、うぅ……。こ、このばかぁ!! 変態ぃ!!」
俺にSっ気はなかったはずなんだけどなぁ。どうもリノ相手だとこうなるようだ。
「まあ可愛いからいいか」
「良くないわよ!! うぅ……あぁっ、んあっ……」
おや、クタッとなってしまった。や、やり過ぎたか。
「おーい大丈夫か。まさか……イ――」
「んなわけあるかぁ!! 熱球!!」
「うおっ!!」
俺めがけて火の玉が……!!
って効かないんだったな。すぐ身体に吸われていった。
ふぅと息を吐きベッドに横たわる。
「そうだあんたには……。と、とにかくむやみにしないでよね!」
「惚けた顔を見られたくないのか?」
「そりゃ、じゃない! あんたに見られてもなんとも思わないし」
ふんっとそっぽを向くリノ。
……じゃあなんでそんなに耳が赤いんですかね。
「悔しいけど魔力は回復したし、明日には別の戦場に出発するわ。いいわね?」
「はいはい」
ツンとした顔が一瞬、ほころんだ気がした。
*
「そうえばどうやって俺はケルベロスを倒したんだ?」
「司令官に後で聞いたんだけど、光が強すぎて焼き殺したんじゃないかって」
次の戦場に近い街、ラデスに行く途中。のどかな村のカフェで昼食をとっていた。
ちなみにリノと俺は同い年らしい。
「まじか。じゃあ今度からそれでいこう」
「ダーメ! 私はタスクの下にいたから大丈夫だったけど、あんなの使われたらみんな丸焦げよ。
離れていたラカシーダの陣地でさえ防御魔法陣が壊れかけたんだから」
「……分かった。俺も味方を巻き込みたくはない」
なら巻き込まなければいけるんじゃないか? と思ったのは内緒だ。
答えるとリノはポーチを肩に下げながら立ち上がった。
「ごちそうさま、じゃあ私はアイテム買いに行ってくるから。獣車の番頼んだわ」
「はいよ。途中で魔力切らして倒れんなよ」
「んなことあるか!」
猫みたく髪を逆立てるとさっさと行ってしまった。
番つってもなぁ……こんなのどかな村じゃ出るモノも出ないだろう。
「昼寝でもすっか」
飯食った後すぐ寝ると牛になるっていうけど、ここならミノタウロスにでもなるのだろうか。
そんなどうでもいいことを考えながら獣車に戻るとすぐ寝てしまった。
*
「……んん? なんだこの感触。やわらかい……なッ?!」
「……? あら起きたのね、少年」
な、なんだこの状況は。となりで俺を見つめるのは妖艶な笑みを浮かべる美女。
「ふふっ、驚いた表情も可愛い。けどその手、そんなにおっぱいが好きなのかしら?」
むにっ。
このなめらかな触り心地、指を優しく押し返す弾力……。
まさか――。冷や汗が顔を伝う。
「ご、ごめんなさい!!」
「いいのよ、私から添い寝しちゃったのだし。寝顔が可愛くてつい、ね」
ニコッと笑うと腰まである黒い髪をさっと払い立ち上がった。
これはどこを見ればいいんだ……。
はだけた胸は白く輝き、スリットが入ったローブからは肉付きの良いふとももが大胆に晒されている。
「可愛いって……。というかあなたは誰なんです?」
「申し遅れたわね。私はヴィオラ、魔剣士をやってるわ」
「魔剣士?」
「簡単に言うと魔法と剣術を合わせものよ。
それよりあなたこそどなた? 確かリノは一人で旅に出たはずなのだけれど」
「俺はタスクって言います。まあリノには成り行きで付き合うことになって。……知り合いなんですか?」
「うーん、級友? といったところかしら。近くにリノがいると聞いて覗きに来たのだけど」
「え、同い年っ?」
やばいどう話そう。
身長こそ俺より少し低いくらいだが、その完成したプロポーション。完全に年上だと思ってた。
リノも悪くはないが年相応の発達具合だし、胸とか。
「あらそうなの? まあ関係なく敬語はやめてくれていいのよ。堅苦しいのは嫌いだから」
「わ、分かったヴィオラ。って俺そんなこと言ったっけ?」
ふふふっ、と笑うヴィオラ。
まさか人の心を? そんな魔法が、いや呪文唱えてないし俺に効かないし。
少したじろいでいると遠くから甲高い声が響いてきた。
「あー!! ヴィオラ!! なんであんたがここに!!」
「ふふっ、お久しぶりね。リノちゃん」